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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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あそびと水漏れ

「その、なんだ……。言いたいことはわかったが……、おそらくお前の理想通りにゃあならんな」


僕はこの世界にない、ししおどしの仕組みを説明し、それを応用した案を親方に伝えた。

ところが話を聞いた親方は頭をガシガシ掻いて唸っている。

自信満々で提案した僕としては、どうしてそうなっているのか分からない。


「ダメですか?」


僕が恐る恐る聞いてみると、親方は大きくため息をついた。


「お前の説明で俺の頭ん中に浮かぶ理屈じゃあ、タンクに付けたその口から水漏れだ」

「水漏れ?」


僕の中では水を汲みあげて流す際、水漏れするという考えはなかった。

正直親方の言っている言葉の意味が全く分からない。

僕の目が点になっていたのか、親方は僕が本当に理解していないということに気が付いたのか、その両方なのか、親方は僕の反応を見て、順を追っての説明が必要だと判断したのだろう。

一度自分が落ち着くためか親方は大きくため息をつくと、改めて僕に言った。


「その、なんだ、差し込んである長い口を、ギッコンバッコン動かすんだろ?あそびがあるってこたあ、隙間がある。隙間がりゃあ、水は漏れる。違うか?」

「あそび?」

「まあ、見とけ。お前が言ってんのと、こっちが思ってんのが違ったら説明が無駄になる」


親方は僕のその言葉に答えることなく、左手の親指を上に、手の甲が見えるように前に出して僕に見せた。

それから右手で近くにあるペンを取ると、人差し指と中指の間に挟んで、シーソーのように動かしてみせた。


「そんで片方が水が溜まってるタンクで、反対側が外ってことだろ?」

「そうです!それです!」


僕のつたない説明で、親方が正確に言いたいことを理解してくれたのを嬉しく思った僕は、思わず声を上げた。


「んじゃあ、ペンと指の周りをよく見な」

「はい!」


僕は親方に言われた通りペンと指の周りを見ていたが、親方はペンを動かしているだけで特にさっきと変わった様子はない。

もっとよく見ろということなのかと、僕はどんどん親方の手に顔を近づけていった。



親方は僕が理解できなかった事を悟って、僕の顔から手を遠ざけて言った。


「指じゃあ分かりにくいか……。この動きをさせんのにはあそびが必要だ。あそび……いわば、その動きをさせるために緩んだ場所を作るわけだ。差し込んであるのをきっちりくっつけちまったら、口の部分だけ、そんな動きさせられねぇからな。試しちゃいねぇが、普通に考えて水漏れすんだろ、動かすのに隙間を作るんだから。つまりタンクにできた注ぎ口の隙間より上には水が貯められねぇ、ついでに口が室内に向いてたら溜まるはずの水が全部入ってきて家が水浸し、と思うんだがなぁ」


親方の説明に首を傾げた僕を見た親方が、今度は、同じ状態でそのペンをしっかり握りはずれないようにして、僕の方に突き出したペン先を動かしてみるように言った。


「ちなみに、固定するってのはこの状態だ。わかるか?」


僕は親方に言われて、親方の持っているペン先を傾けようと、指で押し下げようとした。

けれど親方がしっかり握っているのだから当然動かない。

確かに隙間なく固定するということは、こういう状態になってしまうということだ。

指は肉や皮の弾力があるから隙間があることに気が付かなかったけれど、木材同士はそうはいかない。

親方の言う通り、シーソーのように動かすにはどこか緩んだ部分が必要で、この世界に水漏れさせず弾力性のある素材、例えばゴムのような素材がなければ、このように隙間なく固定しないと水漏れする。

親方の指摘通りだ。

ビニールやプラスチック、ゴムのようなものが使えないのは、なんと不便なのか。

僕は頭を抱えたくなった。



「確かにそうですね……」


ようやく親方の言いたいことが理解できた僕は、親方の手元を見るのを止めて顔を上げた。

僕は失念していたのだ。

ししおどしが水を利用して音をさせる仕組みなのは、そこに獣とか鳥が来ないようにするため。

そもそも、ししおどしは外で使うもの。

だから周囲に水がこぼれようが、さほど気にしなくて良かったのだ。

それにししおどしは開いている口から水を入れて、その重みのバランスが崩れて同じ口から出てくる仕組みであって、汲みあげて流す仕組みではない。

それに家の水道代わりに使おうというのなら水漏れはダメだ。

家の中に水がこぼれるようになり、そこだけ水浸し、きっとその部分の床板は腐るか削れる。

名案だと思っていた僕は親方に指摘されて肩を落とすしかなかった。



けれど僕の話を聞いた親方は別の提案をしてくれた。


「なあ、竹はやめて、樽じゃあダメなのか?」

「樽?」

「樽を知らねぇのか?」


僕が驚いたので、親方は意外そうな顔をして聞き返した。


「いえ、たぶんわかりますけど、実物はあまり見たことないです……。水筒より大きいですよね?」


樽と言えば、前の世界では立ったまま使うのにちょうどいいテーブルぐらいの大きさだったと記憶している。

おしゃれなレストランの入口なんかだと、看板を立て掛けてあって、上には植木鉢とか乗っていたりするようなもののはずだ。

あとは、酒を醸造しているところが、横にした樽をたくさん保管している映像を見たことはあるけど、それも樽と一緒に写っている紹介者と比較して、やっぱりそれなりに大きいもののように見えた。

僕が樽は大きいものだからと親方に伝えると、親方はニヤッと笑った。


「だが、この街で材料を入手できるし、職人もいる」

「そうなんですか?」


確かにこの街の職人のほとんどは木工職人だ。

つまりそれだけ木材を入手しやすい環境で、金属や他の素材が手に入らないのなら、手に入る素材を加工して賄う必要がある。

その一つが樽ということだ。

確かにインクを保存するために買い取ったガラス瓶は、小さいにもかかわらずかなり高価だった。

酒を保存するのに瓶がダメなら樽、というのは間違いではない。

それに樽で保存した方がおいしくなる酒もあるはずだ。

でも、この街に樽の職人がいるという発想には至らなかった。

僕はまだ、この街のことも、この世界の事も知らなすぎる。

僕がそんなことを考えながら親方の言葉を待っていると、親方は楽しそうにニヤッと笑った。


「ああ。ちっこいの作る相談くらいはできんだろ。同じ作りで、酒を飲むジョッキも作れるところがあるしな」


もちろん僕はその樽工房の場所をすぐに尋ねた。

まずは実物を見ておきたい。

親方が押すくらいだから、当然タンクに必要な条件は満たしていると思うけれど、もし僕の思ったものではなかったら、また違うものを探さなければならない。

僕だってさすがにトイレのパーツ工房のように、親身になってくれるところばかりじゃないことくらいは分かっているつもりだ。

仮に条件を満たしていたとしても、その工房が、そもそも僕のような子供の依頼を受けてくれるかどうか、そっちも心配だ。

確認しておく必要があるだろう。


「あの、その樽の工房の場所、教えてもらえませんか?今度の休みに訪ねたいと思います」

「おう。わかった。教えてやる。何なら連れていっても構わねぇが」


僕が食いついたのが嬉しかったのか、親方はなんだか楽しそうだ。

もしかしたら親方は今回も工房に先に話を通してくれるのかもしれない。

今は勉強中の身だし、子供だから許されているけれど、それに甘えてばかりではだめだ。

今度こそ引きこもりから脱却して、きちんと大人として、社会人として生きるために、できることはしなければ。

その一歩が一人での訪問だ。

トイレのパーツ工房でできたのだから、きっと問題なくできるはずだ。

だから僕は親方の付き添いの申し出を断り、一人で頑張ってみますと答えたのだった。

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