竹の器とししおどし
竹の水筒を使用する案について、容赦なくダメ出しを受けた僕は、親方に考え直してみますと言って相談を終えた。
とりあえず仕事をしながら、歩きながら、僕はずっと水筒の代わりになるものについて考えていた。
水筒がだめなら湯呑みならどうか。
確かにミニチュアと比較すると、水筒は巨大だ。
柱どころか、くり抜いたらカマクラみたいな部屋、ゲルみたいな家として使えそうだ。
それはそれで趣のある家にはなるだろうが、そんな家を作ったら間違いなくランドマーク化してしまうし、何より個性的すぎて地域から浮きすぎる。
それでなくても貧困層の地域に新築の家が建つので調和させるのは難しいのだから、さらに目立つような建物にするのは避けたい。
でも竹の器そのものは使える。
タンクは諦める必要がないのだから、また市場に行って竹細工のお店が来るのを待って、他の竹の容器で代用できないか考えた方がいいだろう。
水筒より小さいものを使えばそのまま設置できるかもしれない。
それを野ざらしにしたら目立つかもしれないが、それは周囲を覆えば問題ないはずだ。
できる事なら諦めたくない。
もう一つの問題は貯めた後の水の汲み上げだ。
どこかに水道のような管、せめて栓のようなものを付けられたらいいのだが、この世界ではやはり見たことがなかった。
それと僕の知識でポンプを作るのは難しい。
残念なことにポンプというものの仕組みをほとんど理解できていないのだ。
それに、僕が持っていたポンプには、バネみたいなのが付いてるものしかなかった気がするので、そういうものが必須なら、この世界で作るのは不可能だ。
まず、金属が高い。
そしてバネを作るレベルの金属加工技術がない。
何より、そこにお金をかけられるなら、そもそももっと裕福な暮らしをしているはずだ。
竹のように自分で加工できるものにならお金をかけられるけど、作れるかどうかも、修理もできるかも怪しい金属部品に使えるお金はない。
実現できなそうなポンプから目を逸らして、すっかりお気に入りの素材となった竹に再び思考を戻した。
改めて考えてみると、竹は色んなものに使われていた気がする。
竹トンボや水鉄砲など、遊びに使うものだけではない。
流しそうめんとか、庭園のかっこーんって音をさせるやつ……。
そうだ、ししおどし、竹で水を受けて一定量貯まった水を傾けて流し、水を落としきった後、また水を貯め始めることを繰り返す仕組みで、水を落とした後、竹が上を向く時、音をさせる硬いものにぶつかるようにしておくことで音を出している……。
じゃあその応用で、タンクに筒を通して、それをシーソーのように動かして水の流れをコントロールできないかと考えた。
ししおどしの仕組みは小学生の工作並みに単純だ。
でも僕が考えているのは、ししおどしではない。
タンクにたまった水を出すために、そういう動きをするものを取り入れられないかということだ。
ちなみに本来のししおどしなら、一定の量の水が貯まれば流れ落ち、自然に元の位置に戻るかもしれない。
けれどその先は水のたくさん入っている貯水タンクだから、一度流れ出したら水位がある程度下がるまで止まらなくなる気がする。
だから止める動作は必須になる。
僕の考えでは、タンクから外に出ている筒を下に向ければ水が出て、上に向ければ水が止まる。
まさにシーソーだ。
ししおどしと違うのは、水の入口と出口が違うこと、そのため筒になるよう両方に穴を開けることだ。
でもただ底を抜くと、タンクから水を受けにくいので、切り口は斜めにして上側を開ける。
排水の方も注ぎやすいように口を斜めに切る。
そうすればタンクに一定の水量がある間は、口を下げただけで水が出てくるし、止める時はタンクの方を下にすれば止まるはずだ。
ただ、中身が大量の水なので、うまく抑えられるかわからない。
筒を下ろしたり持ち上げたりする動作に必要以上の体力が必要となったり、そもそも筒に負荷がかかりすぎて折れたりなんてことになっては困る。
これだけは試作品を作って試すしかないだろう。
だが問題はどう試作するかだ。
この世界では前の世界のように趣味でものづくりができる環境にない。
お貴族様みたいなものが存在していて、そんな趣味をお持ちならできるかもしれないが、材料が高すぎて、趣味として成立しないのだ。
ちなみにこの筒の動きを楽にする方法も考えてある。
ひとつは親方の言った通り井戸のように汲み上げる仕組みを利用する方法だ。
汲み上げると言っても、挿し込んだ出水管の水の中にある方を少し持ち上げるだけなので、鎖があれば、使う時に引っぱるだけで水が出るはずだ。
ただ、戻す時は管を自分で持ち上げて水を止める必要がある。
それなら出す時もそうすればいいかもしれないが、出す時の方が管を押し下げる際、強い力がかかることが考えられるので、長く使うことを考えると、劣化を早める使い方はしたくない。
ただ、それを達成するには長く水に耐える素材が必要になる。
それは金属の、できれば錆びにくい金属の鎖みたいなものだ。
できれば井戸にあるのと同じものが理想だが、そもそも父親が本職としている、命がけの狩りに使用する鏃部分ですら割れてしまうような質の悪いものを使わなければならないくらい、金属の価格が高い。
それを察することができるため、現実的ではないことは理解できるし、親方に聞いても素材の値段が高すぎると言われるに違いない。
ネックは金属が手に入りにくいこと、加工技術が未発達ということだ。
でもよく考えたら、僕は太いものを含めて竹を加工した経験がない。
親方も資材として使わないようだから、この仕組みを伝えて穴だけ開けてほしいというのも頼みにくい。
これを売っていた商人も、竹という植物は見たことがないから聞かれても困ると言っていた。
そうなると、周辺に、自分より竹という素材について知っている人はいないということになる。
前の世界では気軽にできたものだったけど、ここにおいては高い素材だから失敗したら痛い。
けれど今の僕に竹以上に良い素材が浮かばない。
それならば自分でやるしかないだろう。
とりあえず考えはまとまった。
タンクの数や大きさはさておき、この仕組みで汲み上げに関する条件は満たせると考えたのだ。
だから僕は自信満々で親方へ提案しに行くことにしたのだった。




