地上の井戸
雨水を誘導して、水甕のちょっと大きいくらいのタンクに貯められたらいいな、くらいにしか思っていなかった僕は、何とか竹の水筒を活かそうと、頭をフル回転させて次の使い方を模索した。
そのために模型と水筒を頭の中で比較しているうちに、僕は思いついたことをつい口に出していた。
「でも、それならいっそこれが四つあれば……」
四つあれば外壁を支える柱にできるのではないか。
柱とタンクが兼用にできるのはいいかもしれない。
ただ、柱とタンクを兼用にしてしまうと、タンクへの水の補充は屋根の上からになってしまう。
そこまで水を運び上げるのは大変なので、これとは別に、井戸から汲んだ水を貯めておく水甕は必要だ。
それなら雨の日は貯め置く場所に水を誘導できた方が無駄は少なくなるだろうが、その具体的な方法を再び模索しなければならない。
下に落ちる水を受け止めるのではなく、比較的高い位置から水の流れを変えて置く必要があるかもしれない。
紙が高価じゃなかったら、書いたり折ったりしながら考えられるし、それに変わるものがあれば、形を作って試すこともできるのだが、僕の知る限り、そのようなものは存在していない。
そしてもし、雨樋に使用できそうな竹の細い種類が見つかったとしても、その細さの竹の節に穴を開ける器用さが僕にはない。
きっと折れたり割れたりしてしまう。
僕が悶々と考えていると、親方は僕のつぶやきを聞きとっていたらしく、眉間にしわを寄せて僕に声をかけてきた。
「そんなもん四つも置いたら地盤沈下する。その大きさの中に水が全部入った時のことを考えろ。土台が持たねぇだろうが。前に土台の板、渡しただろ。それにこれを乗せて水入れたらどうなる。しかも四つだぁ?お前、本当に何を作るつもりなんだ?倉庫の次は水槽か?」
僕は土台に水筒を四つ置いたところを想像してみた。
何となく土台がお盆で、水筒がお茶のような気がする。
そして確かに、水筒の占める面積はかなりのものになるなぁとぼんやりと思う。
けれど土台の板が水筒を四つ乗せたくらいで割れるかは分からない。
確かに一度作ったらずっと板の上に乗せられて浮いている状態になるので、経年劣化するかもしれない。
親方が指摘してくるくらいなのだから、おそらく数年で地盤沈下とか床板が割れるとか、そういうことが起こる可能性が高いのだろう。
もう一つ、面積の話については、反論の余地がない。
土台の中に水筒を四つ乗せて、トイレのパーツを置いたら、他に何も置けない気がする。
水筒とトイレのパーツの間には隙間ができるが、そこしか空間がないということになってしまう。
さすがにその隙間部分が部屋として機能しないことは僕でもわかる。
せいぜい廊下だろう。
そして土台の大半が水筒で占めるということは、高さが自分たちより大きいタンクによって占められるのと同義だ。
僕たちは水の中で生きられないのでタンクで生活することはないけれど、僕の案を採用すると、タンクに囲まれた生活になってしまう。
だから親方は家を水槽にするのかと言ったのだ。
「それに、楽をしたいのは分からんではないが、そんなでかいもんに水貯めて、どうやって使う?地上に井戸作る気か?」
「えっと……それは……」
水筒の側面に穴を開けて、流しに水が落ちるようにすればいいかな、水道みたいにできればいいな、と考えていたが、それをうまく説明できず僕が言い淀んでいると、親方はそこまで考えていなかったと判断したらしい。
頭をガシガシと掻きながら言った。
「まぁな。確かにいい素材に目をつけたとは思う。アイデアも悪かない。けどなあ……、もう少し考えねぇと。貯めた水は井戸みてぇに汲み上げることになんだろう?」
「汲み上げる……。わかりました。考えます」
水道のように流せたらと考えていた僕に、貯めた水を汲むという発想はなかった。
確かにこの世界では井戸から水を汲み上げるのが一般的なのだから、自分の身長より高いタンクを置けば、そこから水を取り出すためには汲み上げると考えるのが普通なのだろう。
僕からすればむしろそちらの方が新鮮だった。
汲み上げる、その方法も一応考えてみよう。
僕がそう頭を切り替えると、親方はため息をついた。
「そうだな、どんくらいの大きさで、どんな形にしたいのか。ついでに家のどこに設置すんのか。そこまで決まったら相談に来てくれ」
「わかりました」
とりあえず雨水を貯めるタンクの設置そのものは反対されなかった。
それならやっぱり取り付けたい。
数は減らしてもいいし、大きさも小さくすればいい。
さすがに僕の案は欲張りすぎだったのだ。
早速、頭の中の整理を始めた僕は、自分が返事をした後に親方がつぶやいた言葉を聞き落としていた。
「しかしお前、あんまりモタモタしない方がいい気がするぞ?」
「え、何ですか?」
親方が何か言っていたことに気が付いて僕が聞き返すと、親方は少し考えた様子を見せてから言った。
「あー、いや。今度、一度お前の家を下見に行くべきかと思っただけだ」
「うちに来てもらっても、何のおもてなしもできませんが……」
親方が来るならもてなさないと。
普段お世話になっているし両親もそうしたいと思っているはずだ。
僕がそう言うと、親方は呆れたようにため息をついた。
「そんなもんはいらん。用が済んだらすぐ帰る」
「はい……」
親方は僕の家で気になることがあるらしい。
今まで色々言ってきたので、一度僕の家を見ておきたいということなのだろう。
もしかしたら場所を知りたいということかもしれない。
僕にとって初めての家づくりだし、今までの世界とは勝手が違う。
現場に資材を持ち込んで何日もかけて作るわけではないのだ。
模型を領主に渡してチェックを終え、日程が決まったら一瞬。
仕組みは分からないままだけど、家に関してだけはそんな不思議なことが起こる場所なのだ。
だから親方が下見が必要というのなら、そういうものだと受け入れるしかない。
分からないことは下見に来てくれた時に教えてもらえばいい。
そして、どうも僕は一つのアイデアが浮かぶと、どうしてもそこに集中してしまうらしい。
前も家具を入れることを考えすぎて倉庫を作るのかと言われたし、今も水を貯めるタンクを設置したくて、汲みに行く手間とか考えたら、たくさん水を貯められた方が良いなって思ったから、大きいのを四つ置けばいいと考えた。
そして大きすぎると言われたのでそれを逆手にとって、竹はきっと丈夫だから、これを柱みたいに家の支えに使えば一石二鳥とか考えたけど、そう考えてもそもそも大きすぎるし、土台に負担がかかり過ぎて駄目らしい。
確かに前にもらった板が確かに少し厚めで丈夫でも、重いものを乗せるには限度があるし、そこに乗る範囲が家全体と考えるなら、水筒は大きすぎる。
少し時間をおいて冷静に考えれば、乗せて持ち上げても大丈夫そうだなという発想ではだめで、長くその家を存続させるために負荷を減らすべきというのも、親方の言う通りだ。
それにしても、この世界に、水槽というものが存在していたのか。
水槽だから魚を養殖するとか、鑑賞するとか、用途はきっとそういうものになるだろうけど、僕の狭い行動範囲内では見たことがない。
そしてもちろん、僕たちは水の中では生きられないのだから、家を水槽にするつもりはない。
親方は職人をしているし言葉もきれいではないけれど、その腕だけで工房を運営しているわけではなく、かなり博識で、その知識と教養が備わっているからこそやっていけているんだなと、僕は改めて親方を尊敬の目で見るのだった。




