水筒と竹と雨樋
そして市場で竹の水筒と出会った翌日。
僕は早速、その水筒に水を入れて工房に向かった。
個人的に見た目も形もとても気に入っていたのだ。
でも水筒を工房に持っていくのは気に入っているからだけではない。
早速、親方に竹について質問しようと思ったのだ。
「親方、家の材料について相談があります」
「おう。何だ?」
「この水筒の素材となっている植物って手に入りませんか?」
僕はそう言って、早速水筒を親方の目の前に差し出した。
親方は僕が付きだした水筒をじっと見て、ため息をついた。
「あー、これか?これはこの辺りじゃ手に入らねぇな。森で見たことねぇだろ?」
親方に言われて僕は自分が行った限りの森を頭に巡らせた。
確かに竹は存在していなかった。
もし見かけたら樹齢何年もの木々の中に、独特なフォームで立っているものが混ざっていればさすがに気が付くはずだ。
それにもし僕が森の中でその存在に気が付いたなら、間違いなく素材として利用しただろうし、近くでタケノコを探して食べていると思う。
だから親方の言う通り、少なくとも採集日でいける範囲の森の奥までの範囲に竹は生息していないと思う。
「ありません。でも、こうして水筒はありますよね」
この瞬間にも僕の手には竹の水筒がある。
つまり竹という植物がこの世界にも実在しているのは間違いないはずなのだ。
見つけてしまった以上、諦めたくない。
何とか入手するための手掛かり得たい一心で僕が親方に訴えると。親方は不思議なものを見るように眉間にしわを寄せた。
「それは商人が交易品として持ち込んだもんだからな。ここで加工してるもんじゃねぇ。そいつがどうかしたのか?」
親方はどうして僕はこの素材にこだわるのかを聞いてきた。
僕がこの素材を利用したいのは家だ。
だからそれをそのまま伝える。
「実は、家の材料に使えないかなって思いまして」
「これをか?」
「はい」
ハキハキ答える僕に、親方はついていけないのか、今度は頭をガシガシと掻き始めた。
「目的は何だ?こいつはそもそも手に入りにくい。手に入れられるとしても高価なシロモノだ。しかもその素材、結構でかいやつだった気がするぞ?お前そもそも、高価な材料を使う金があるんだったら、家だって指示だけ出して自分で作る必要ないだろ。お前が自分で手間暇かけてんのは、節約のためじゃないのか?」
「そうですけど……」
この領内で手に入らない素材を取り寄せれば、当然費用は高額になる。
加工費用が入っているとはいえ、片手に持てる水筒が高かったのだから、家の素材に使う量を手に入れようとすれば、素材の量が水筒の比ではないはずだ。
そして素材の大きさ、量が増えた分だけ高額になる。
だから親方の言いたいことはよくわかる。
けれど家は一生に一度の買い物になるかもしれない。
だからできるだけ妥協することなく便利で丈夫なものを使いたい。
僕がモジモジしながらそんなことを考えていると、親方はため息をついた。
「お前のやりたいことを言ってみろ。代わりになるもんがあったら、そいつを教えてやれるかもしれない。そんくらいは一緒に考えてやる」
「ありがとうございます!じゃあ、何をしたいか説明します!」
プレゼンの時間をもらった僕は、親方にこの竹の水筒をどう使いたいのか説明することになった。
まずは家の屋根の形の説明から入る。
まず屋根には傾斜をつけて、雨が屋根に留まらないようにする。
雨水や雪がずっと屋根にあったら重みに家が負けたり、少々の耐水加工がされているとはいえ、水が木材に染みて柱などが腐りやすくなるため、どこの家でもやっていることだ。
ちなみに屋根の素材を竹にするつもりはない。
でもその先は違う。
屋根の傾斜の先に雨どいのようなものを付けて、雨水を誘導、雨水をタンクの中に貯める。
パイプのような商品も、それに類似する技術もないので、屋根の先端を少し出っ張らせて、できるだけタンクに水が入るように促すのだ。
理想は屋根の先に受け皿となるもの、竹を縦に割って節を削った雨樋もどきを作って使いたいけれど、そんなに多くの竹を使うのは難しい。
だから上を出っ張らせることで妥協することにしたのだ。
それでもし大雨になったとしても、雨水は屋根の出っ張りを越えて下に落ちるか、タンクに入りきらないで溢れるだけだから問題ない。
いつも通り地面に流れてもらえばいい。
雨が降り止まない日は、タンクに貯まってきた水を室内もある流しで出しっぱなしにして、水甕にも水を貯めるようにすれば、しばらくは楽ができるはずだ。
移し替えの手間はあれど、井戸や川まで汲みに行って運ぶよりはるかにいい。
それにもし、タンクの水を最初に使いすぎてしまっても、もともとないものと思えば諦めもつく。
僕のつたない説明を親方は懸命に聞いて理解してくれた。
そしてイメージできたのか、うーんと唸り声を上げる。
「なるほど、雨水を効率よく集めるか。水を通すもんだから、水を入れておける水筒の素材を使いたい。この植物は水筒にできるような作りをしているから水を貯めるにも最適だ。そんなとこか」
「あと、革袋や普通の木より、劣化しにくいかなって」
この世界では水を革袋に入れて持ち歩いている人も多い。
革袋もこの世界では水を通しにくい方なので、水を入れるのに適した素材の一つとして扱われている。
それに革袋の場合、今僕が持っている水筒とは異なり、飲み終わった時に畳むことができるので、嵩を減らすことができる。
つまり長距離を移動する人間にとっては革袋の方が重宝するのだ。
そして普通の木材、これで箱を作って水を貯めるとことになれば、よほどの技術をもって挑まなければ水漏れを起こす。
だからもし木材を繋ぎ合わせてタンクを作るのなら、そこに革袋を貼って補強する必要があるだろう。
そこで竹だ。
僕が木材に革で補強するより、加工が少なくて確実に水を貯めることができるもの。
竹は、少なくとも竹の水筒は、その最有力候補なのだ。
「なるほどなあ……。だけど、そのサイズは使えねぇな」
「そうなんですか?」
サイズのことはあまり考えていなかった。
親方も僕の反応でそのことに気が付いたのだろう。
ため息交じりに説明を始めてくれた。
「ああ。家に取り付けるにゃデカイからなあ。家の代わりってんなら使えるだろうけど」
「家の代わり?」
「少なくとも、今お前が持ってるやつをそのまま使えばさぞ巨大な水甕、家の一部屋くらいのサイズにはなるだろうな」
「巨大な……」
僕は親方の言葉の引っ掛かった部分をオウム返しするしかできなくなっていた。
僕の説明を聞いた親方のように、上手く頭の中でイメージを構築できればいいのだが、僕に親方のような想像力はない。
それでも僕は親方の言葉をヒントに、頭の中で巨大な家となった水筒を必死に想像する。
「倉庫にあった模型、もしくはトイレの板の上にこいつを置いて考えてみろ。そうすりゃ分かりやすいだろ」
「模型の……」
そう言われた僕は、巨大な家のイメージを頭の中から消すと、倉庫にあった親方の作った失敗作の模型のサイズを思い出していた。
そしてそこにもし、これがあったならと竹の水筒を頭の中で重ねてみる。
「確かにそうですね……」
模型の隣に水筒を置いた場合、それを想像すると、手元の水筒が巨大だと言われる理由は理解できた。
でも僕の想像はそこで止まらない。
逆に大きいなら大きいなりに使い道があるのではないか。
僕の思考はそちらに取られていくのだった。




