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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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竹の水筒

親方から土台を受け取ってもう一度家のことを考えるように言われてから最初の休み。

僕は珍しく市場を歩いていた。

数年前、母親にせがんで連れてきてもらっていた時以降、実はあまり市場を歩く機会はなかったのだが、今日は珍しく母親に買い物を頼まれたのだ。

買い物を済ませた僕は、そう言えば最初はここで文字を覚えるために値札を読んでいたなぁと懐かしくなってぶらぶらしていた。



ここは森の中ほど治安が良いわけではないので、小さい頃なら商品を持ってうろうろするなんて怖くてできなかった。

けれど働くようになって、一人で工房との道を往復しているうちに、僕自身が堂々としていれば、市場であろうとさほど怖くもないことを知った。

こっちが逃げ腰でなければ相手も僕を狙ってきたりはしない。

それが分かったのは工房から木材を持ち帰った経験からだ。

木材を抱えて帰る際、僕はそれに気を取られて怯えている余裕はなかった。

とにかくより多くを一度に、できるだけ早く家に持ち帰ろうとあの時は必死だったのだ。

でも周囲を気にせず歩いていれば、傍から見れば壊れていることが分からない高級木材を持っている子供である僕は一度も狙われなかった。

おどおどしていたから、怪しい人が寄ってきたのだ。



それは僕が少し大きくなったからというのもあるかもしれないが、単に狙いやすそうに見られていただけなのではないかと、後から気が付いた。

商品を持っていようがいなかろうが、堂々としていればいい。

ただそれだけのことだったし、一見簡単そうに聞こえるかもしれないけれど、元が引きこもりの僕にとってはかなり勇気のいることだった。

できるようになった今、まだそれができることを確認する意味でも、僕は今、一人であるにもかかわらず市場を見て回っているのだ。

なお、僕は良くわからない人が近付いてくる気配を感じると、何となくそれを察して、それとなく逃げることができる。

だから実際、大きなトラブルに巻き込まれたことはない。

それは人ごみの中、下を向いて歩いていても、人とぶつからないで歩けた、前の世界での時とあまり変わらないのだ。



そうして市場を歩いていると、一角に見慣れない店が出ているのが目に入った。

そしてそこにある商品の一つに目が釘付けになる。


「竹の水筒?」


それに吸い寄せられるように僕が店の前に行くと、そこにはたくさんの竹製品が並んでいた。

細く縦に割いたと思われるものを編んで作ったと思われるカゴやザル、プリン容器くらいのサイズに横に割られたカップ、節を残して縦に割って半円柱の内側がくり抜かれたような見た目の皿、そして節の一部に穴を開け栓を挿してある水筒……。

並んでいるのは家庭用品ばかりで、おもちゃや飾り物などは見当たらない。

おそらくこの辺では需要がないことを彼らはよく理解しているということだろう。

でも僕には懐かしいものばかりに感じられていた。

見ているうちに前の世界の伝統工芸品店が思い出されたのだ。



ちなみに前の世界でこんなおしゃれな容器を日常使いしていたわけではない。

引きこもりだった期間も長いし、外食にしょっちゅう出かけていたわけでもない。

それでも僕は知識として知っているし、和食のお店に行けば似たような容器で商品を提供されることもあった。

あまり話をしない僕が食事の時にすることといえば、食事を口に運ぶか、容器や盛り付けを楽しむくらい。

そして時々良いものを見つけると僕のミニチュア作品に反映させる。

今の僕の記憶によると、それで思い出は途切れてしまっている。

だから、それに付随して前の人たちのことを思い出したりすることはない。

むしろ、いつ、誰と、どこで、などと聞かれる方が答えに困る。



「あの、これ……」


気が付けば僕は自分からお店の人に声をかけていた。

すると店主は慣れた様子で僕に商品の説明をする。


「ああ、これかい?これは竹っていう植物で作った水筒だよ。気に入ったのかい?」


にっこりと笑いながら尋ねる店主らしき人に、僕は一度うなずいてから、値札を見た。

そしてその値段を理解して苦笑いした。


「あ、でも……」

「子供が買うには高いかね」

「そうですね……」


商品を手にとって、その値段を見て僕はがっかりしていた。

職人の腕が良いのか、非常に良い品なので、この辺りで手に入らないことを考えたらこの値段は妥当だ。

買えない値段でもないし、それが良心的な価格である事もよくわかっている。

けれど節約をしなければならない今、これを買うべきなのかは非常に悩むところだ。

それに僕も職人なのだ。

もし材料の方が安く手に入るのなら、水筒くらい自分で作りたい。

それに材料が余ったら、他のものも作れるだろう。

そう考えた僕は、店主に聞いた。


「ところで、この材料の竹ってこの辺りにあるんですか?」

「竹がかい?」

「はい」

「残念ながら、この辺りにはないねぇ」

「そうですか。じゃあ……」


竹そのものも簡単に手に入れることはできなそうだ。

それならばどこにあるのか、どうしたら手に入るのか、色々聞いてみようと僕が口を開くと、店主は何か察するものがあったのだろう。

僕が次の質問に入る前に先回りするように言った。


「なんて、実は偉そうに言ってるけど、私達はその竹って植物は見たことないんだよ。これも商人から完成品を卸してもらったもんだからさ。植物って偉そうに言ったけど、どんな風に生えてるかとか聞かれると困るんだ」


さすがに材料となる竹という素材はこのお店では扱っていないらしい。

そして取扱店も工房も分からないとのことだ。

ただ自分たちは外から来た商人の持ってきたこれらを商品として仕入れて販売しているだけだという。

販売するのにあたり、聞かれそうな素材の名前、つまり竹という言葉と、それで作られた商品の使い方を言葉巧みに説明して商売しているのだという。

ちなみにその商人も次にいつ来るのかは分からないし、この店の商品が完売したら次の仕入れができるまで出店しないとのことだった。


「そうなんですね……。あの、水筒、買います」


次があるか分からない。

僕はその言葉に負けて水筒を買うことにした。

店主の言葉が本当かは分からないし、もし次に見かけることがあったら商人が来たから仕入れられたんだよと言われるに違いない。

けれど、本当に次がなかったら、もうこの素材である竹の手掛かりを得ることはできなくなる。

それならせめて、それでできた商品を持っておいて、他の人にも確認できるようにするべきだろうと判断したのだ。


「ほんとかい?じゃあ質問に答えられなかった分、安くしとくよ!だから友達に自慢しておいてくれ」

「わかりました。もし、また来たときに分かったことがあったら教えてください」

「ちゃっかりした子だね!わかったよ。店は不定期だけど、場所はいつもこの辺だから」

「ありがとうございます」


こうして僕は竹の水筒を衝動買いした。

もしかしたら自分のためにこんな買い物をしたのは初めてかもしれない。

これも自分で働いて稼いでいるからできることだ。

僕は店主にお金を払って水筒を受け取ると、それを母親に頼まれた買い物の商品とまざらないよう、自分のカバンに入れる。

それから僕はまっすぐと家に戻った。

市場からの帰路、僕はずっと竹があれば色々できるのにと、そればかり考えていたのだった。

そして一つのアイデアを思いつくのだった。

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