床面積と土台
採集日の休み明け、僕は家のことで話があると親方に呼び出された。
「あの、家の事って何ですか?」
トイレが決まったこと以外、他に具体案がないので親方に話をする機会がないままでいた僕は、もしかしたら催促されるのかと不安に思いながら尋ねた。
けれど僕の不安をよそに親方は頭をボリボリ掻きながら申し訳なさそうに言った。
「ああ。これを渡しておこうと思ってな。お前の家、この大きさで作れば入るぞ。調べるのが遅くなっちまって悪かったが、この上にお前がイメージする家を作ればいいってのを確認した。大事なことだから先に言っとくが、この板は家の土台だ。削って小さくすると、家が排水の穴に落ちる可能性が高いからな。乗っかる家が小さいのはいいが、この板を家の幅に合わせて削ったりはするなよ」
「はい……。わかりました」
親方は僕に具体的に家の事を考えろと言いながら、土台の大きさなどについて何も説明しておらず、それでは僕が何も決められないのは当たり前だと思ったらしい。
そして、初めて家を作るのだから、もう少しアドバイスくらいはした方がいいだろうと考えたようだ。
「で、こいつはとりあえずトイレのサイズだな。最初はこうやって床板の上に、こんなやつを配置して決める。部屋に関してはこれに合わせて作った板をそのまま使ってもいいし、合わせるのに失敗したら作り直せばいい」
そう言って親方は一枚の板を土台の板の上に乗せた。
確かにその板は前に見せてもらったトイレのパーツの床と同じくらいの大きさで、目視では分からないけれど、おそらく親方が言うのだから同じ大きさのものを用意してくれたのだろう。
土台の広さが分かって、床に合わせるパーツがあるのなら、それを組み合わせればいい。
前にプレハブ構造の事は聞いていた。
その時、僕の理想の家を考えるのに妨げになるからと詳細の説明はなされなかったけれど、僕が、親方の出してきた配置を示す板と同じようなものを、自分で作って並べるのなら、床の形は僕が自由に決められるのだから、僕の案の妨げにはならない。
「そんなものがあったんですね!」
「言っとくが、こいつは家の材料だ。これに作られた通りの家がそのまま建つ。板にキズつけたりしたら、家にもでっかいキズができるし、ひび割れたらそれもそのまんまだ。注意して扱えよ?もし何かあったら交換だ。追加料金ももらうからな」
最後にニッと笑って見せたので追加料金というのは冗談かもしれないが、この床にあたる板がそれだけ大事に扱わなければならいものということに変わりはない。
親方は土台の板だけではなく、僕のために作ったものだからとトイレの床サイズの板もそれとなく僕にくれた。
「実は、トイレを配置した後、残りってどのくらいのスペースになるのか気になっていたんです。この上に線を書き込んだりするのは問題ないですか?」
板を作る前に線を引いて確認した方が楽かなと僕が考えてそう言うと、親方は不思議そうな顔をした。
そして板に線を引いた場合どうなるのかを考えてくれたようで、僕に余りいい案ではないと教えてくれた。
「線?まあ、そんなことしてるやつは見たことねぇが、床が汚く見えるかもしれねぇぞ?」
「そうなんですね。壁にするところに目印つけたらわかりやすいかと思っただけだし、変更しなければ書いた線の上には板を乗せることになるはずなので、たぶん大丈夫です。それに板に描いて作業前に見てもらった方が、親方にアドバイスももらいやすいと思って」
「まあ、確かにそうだが……」
板を何度も切り直すより、土台の板に線を書いて、それを写して切った方が失敗は少ないと判断したが、そんな事をしなくても思った通りのものを作れる親方にその発想はなかったらしい。
親方が眉間にしわを寄せて唸っているので、僕はもう一つ聞きたい事があると質問した。
「あ、あと、この建物の土台の広さに庭は含まれますか?」
ガレージを作る際、屋根は必要だが、土の部分も必要だ。
もしこの土台が庭の土を覆ってしまうのなら、小さくできないか確認しなければいけない。
僕が確認すると、親方は首を横に振った。
「いや、庭は含まねぇ。排水の穴の上を塞ぐサイズがこれってだけだ。つまり今の建物と床面積は同じだな。庭の敷地も部屋にしたきゃ、板を大きくすることも可能だ」
「庭を部屋にですか?」
庭になっている部分に土台を広げて部屋にすることもできるらしい。
親方に詳しく聞いてみると、まず庭である土のある部分を部屋にしても、排水の穴が広がるわけではないから、排水が必要となるような設備を入れることはできないという。
もしそうしたいのなら別料金で領主に依頼、さらに排水の穴を空ける作業が発生するので、家が建つまで、その分、日数がかかってしまうとのことだった。
「今回この板はお前の家の今のサイズのもんを持ってきただけだからな。大きくするつもりだったってんなら、交換は無料でしてやる」
「そうなんですか?」
この板は標準サイズの一つだから、傷が付いていない状態ならほかに転用できるから交換には応じられるという。
「ああ。だいたい区画で穴のサイズは決まってて、数種類しかねぇ。でっかい家の場合は、複数ヶ所に穴を開けて複数枚の板を乗せることが多い。分業できるからな。けど一枚の板を穴の上にまたがるようにして乗せることもできる。どんな家にするか決まらねぇと、土台が決まんねぇから作業には入れねぇってのはそこだな」
「床下の穴にもいろいろあるんですね……」
「ああ。けどお前んとこは、まぁ、一般家庭のもんだからな。穴も一つだし、考えがまとまってからそこに作っていきゃあいい」
僕は土台の板を机に置いて、トイレの板の位置を土台の上で移動させてみた。
まずはこの残りの広さで流しやダイニング、寝室を考える必要がある。
その上でガレージを庭に設置する場合、床板を変更しなくても屋根が付けられるかもしれないし、それならその方法を採用すればいいだけなので、まずはこういうものが作りたいという案を固める必要がある。
まだ完全に家の形を決められていないから申し出るのはまだ先になるだろうが、僕は親方の言葉に甘えて、ちゃんと決まったらガレージに屋根を付けたいから床面積を増やしてほしいと頼み、同時に屋根のない部分を土のままにするから削りたいという話もしてみようと考えたのだった。




