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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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解体場所

パーツ工房を見に行った次の休みは採集日だった。

もちろん僕は森に行く父親に同行するので、完全な休みではない。

今日の採集はいつもの通り何のトラブルもなく終わった。

獲物もそれなりに取れたので、それらを荷車に乗せ、僕を含めた子供は背中にカゴを背負い、その中にたくさんの果物や山菜を入れて持ち帰る。

子供たちは門をくぐってからはまっすぐ収穫物を家に置きに行くが、男性たちは荷車にある獲物をそれぞれの家ごとに分けて置いてから解散だ。

そうして採集から戻って、庭で肉をさばく父親の姿を見ながら僕は声をかけた。


「父さん、聞いてもいい?」

「何だ?」

「狩りの後に家で肉を捌くなら、捌きやすいように新しい家には専用の場所があった方がいい?」


僕が新しい家という言葉を出すと、父親は笑いながら言った。


「ああ、そうだな。そういう場所があれば嬉しいが、庭というか、土の上というのはなんだかんだで都合がいいんだ。だから今まで通り庭でやればいい。だからもし何か作ろうとか考えているんだったら、そんな仰々しいものを考える必要はないぞ?」


庭があればいいという事は、庭は潰してほしくないということだろうか。

庭を失くして一面をきれいな地面にするという事も考えていたけれど、父親に取ってそれが必ずしも好ましいものではないのかもしれない。

とりあえず確認が必要だと判断した僕は、それとなく庭で捌くメリットを聞いてみることにした。


「そうなんだ……。ちなみに土の上の何がいいの?お肉に砂がついたりするよね」

「そんなもん、洗い流せば何とでもなる。それより捌いた時に出る血が家の中に残ったら家中が血なまぐさくなる。土の上でやれば土が吸収してその匂いが家につかなくてすむんだ」

「そうなんだ。てっきり場所がないからそうしているんだと思ってた」


家の中でやるには狭いから、水が使える流しの近くでできないのだろうと思っていたが、庭でやることには意味があったらしい。

確かに動物を切り開くのだから辺りに血が付く。

水がたくさん使えたり、洗い流すのに困らない環境ならば、そこで捌けばいいが、そういう環境ではないところで壁や床に血が付いたら、拭いても落ちないので大変そうだ。

そしてそれが残っていると、家の中が血なまぐさくなるという。

けれど庭で土の上でそれを行えば、家につく事はないし、地面に落ちれば地面が吸収してくれる。

最後にそこにある砂や土と、動物の血を混ぜてしまえば、程なく匂いは消えるのだという。

もしかしたら土の中にいる微生物がそういうものを分解してくれるからなのかもしれないが、この世界ではそういう認識が広まっている様子はないので、おそらく先祖代々、伝わった方法といったところだろう。


「そういえば狩りについてちゃんと説明してこなかったな。嬉しいことにお前は早い段階で希望の職場で働くことができているから、今更教えてもなって思ってたが、俺の息子なんだから最低限そのくらいは知っておいたほうがいいかもしれないな」

「僕もそう思う」


前に狩人の家の子と言われた時に思ったのは、僕は狩りについて何も知らないということだ。

確かに採集へはついていく。

でも、僕たち子供や、狩りをしない女性は、ついて行ってもやるのは果物や木の実を集めるだけだ。

たまに獣と遭遇したら避難場所まで走って大人たちに仕留めてもらうけど、僕が見ているのはそれだけなので、じゃあ、その間、男性たちはどうやって狩りをしているのかと聞かれると答えに詰まってしまう。

それに必要な時、大人の男性だけで行く狩りには同行したこともない。

けれど職人や市場の人たちは、僕が採集に同行していると聞けば、当然、狩りのこともよく知っていると思ってしまう。

彼らにとっての採集日はお肉がたくさん入荷して、市場価格が安くなる日という認識だからだ。

だから彼らは子供の僕らが同行しなければいけないくらいの肉を持ってくると思っている。

そのことに気がついたのはパーツ工房で狩人の子と言われた時だ。

でもそれに気がついたら、親方も肉を楽しみにしていると言っていたことが思い出された。

そこに僕たちが採取して、家族で食べる果物などは含まれていない。

そう考えれば、僕が採集日に工房を休んで森に行くことで肉が更に安くなる、だから休んでいい、そして兄弟子たちもその事情を知っているから、僕の休みが多くても文句は出ない。

兄弟子たちだって僕たちが森に行って肉を取ってきてくれたら、その日は安い肉にありつけると思っている。

そういう理屈なら納得だ。

そして別に休みを取るようにというのも、きっと狩りをしていて大変だから体を休める日を配慮してくれてのことだろう。

確かに森に行くのは事実だし、正直半日から一日歩き回るので疲れるのは間違いない。

だからその休みをありがたく使わせてもらっているのだ。

けれどそうなるといつかは狩りの話を聞かれるかもしれない。

その時に獣に追いかけられる話だけではなく、その先の、大人の男性がやっていることを説明できたほうがいいだろう。

それに話を聞いておけば、いきなり捌くことはできなくても、何かの時にその知識が役に立つかもしれない。

すでにさっきの一言で、僕は解体作業場を家の中に作ろうという考えは捨てた。

知れば大きく変わることもあるのだ。

それは家づくりにも役立つかもしれない。


「じゃあ、地面が土で屋根だけあるとかどう?他に手洗い場があったらいいなとか」

「確かに庭の近くに手洗い場があるとありがたいな。もしあれば切り分けた肉を洗ってから中に入れられるからな」


自分の手を洗うのに使いたいのではないかと考えていた僕に対し、父親は肉を洗うのに使えるのがいいと言う。

前の世界の知識を中心に考える僕と、この世界の狩猟を中心に考える父親とでは発想が違うということがこんな些細なやり取りでも分かる。

両親は僕が作るのだから僕の理想の家を作ればいい、雨漏りがなく、隙間風の入らない家なら充分だと言っているが、もし仮に僕のイメージする家を両親に確認することなく作ってしまっていたら、よかれと思って作ったものが迷惑なものになってしまうかもしれなかった。

だから僕はとりあえず作業をしている様子を見ながら、さらなる確認を行うことにしたのだった。

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