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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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内装パーツとオプション

バリアフリーという人にやさしいものを作ろうとする発想はいいと思うが、本来ならば家のあちらこちらを改修して生活しやすくするものなので、トイレという狭い空間だけでそれを完結させるのは難しい。

それに僕がいきなりバリアフリーについて考えるのはハードルが高い。

まずは一般的なトイレの構造を理解したり、パーツをいじったりしながら、できそうな事を考えていくべきだろう。


「とりあえず、普通の階段の台のものでデザインを考えたいと思います」

「そうだね。これが一番一般的だから、じゃあ、あとは内装だ」


外枠と床が決まったので、ここからはデザイン重視で考えればいいらしい。


「内装はこの周りのやつだな。まずこれが座るところ。これが洗面台。他にも台をつけたりすることができる。今渡した外枠は窓がないけど、窓を意識して考えるなら、窓を付けたい壁面一箇所は何も設置しないようにすればいい」


いわゆる便座の他にも、洗面台、物を入れられる家具のような物、ランプを置くための棚などが、床に配慮したサイズで準備されている。

大きいものは段の部分にはまるようにできているのか、下の方がその形に合わせて作られている。


「オプションがたくさんあるんですね」

「一応この階段の脇に設置できる台の他、ここで試せないのは壁に打ち付ける台だな。これだけははめ込みじゃないから試せない。でも様々なデザインがあるから、参考までにおいておくよ」


そう言って、彼ははめこみじゃないパーツの入っている箱を少し離れた場所に置いた。


「ありがとうございます。標準のものだけで充分です」

「それと、パーツが混ざらないようにしたいから、使ったものはここに入れてくれるかな。そうしてくれるなら、箱から自由にとって使ってもらって構わないから」


そう言うと彼は空の箱をひとつ、僕に渡した。


「わかりました」


僕はそれをテーブルの中央に置いた。



僕はとりあえず、近くに置かれた各箱に入っているパーツを一つずつ、何も考えずに取り出してテーブルの上、手前側に置いた。

そして、それらをじっくりと眺めてみる。

どれもミニチュアなのに作りが精巧だ。

正直、家の親方もすごいけど、ここの職人もすごいと思う。

僕はじっくりとパーツを眺めてから、その形と、はめるために開けられている外枠と床の穴を見比べて、ハマりそうなところに置いてみた。

さすがプロの職人が作ったパーツだけあって、階段の上部の穴に便座をはめ込めば気持ちが良いくらいピッタリとハマり、洗面台も無駄な出っ張りなどの無駄がない。

試しに階段のところに棚を置いてみれば、やはりその狭いところにちゃんと収まった。

僕はとても出来の良いプラモデルを作っている気分になった。

歓声してもロボットや機械のようなかっこいいものになるわけではないが、日常のものをこんな形で組み替えられるというのもそれはそれで楽しい。


「これ……楽しいです!」


僕が思わずそう声に出すと彼は嬉しそうに笑った。


「そうか。ゆっくりしていくといいよ。何かあったら遠慮なく聞いてくれ」

「はい。お願いします」


僕はそう答えたきり、彼から声をかけられるまで、黙々とはこのパーツを観察したり、借りた枠のパーツを組み替えたりし続けたのだった。



「すごいな……。ところで、もうそろそろ日が落ちてくる時間だけど、大丈夫かい?」

「もうそんな時間ですか?長居してすみません……」


気が付けばかなりの時間がけいかしいたらしい。

そして、彼の言うすごいというのは、使用済みパーツを入れる箱の中に、僕の試したパーツの山ができていて、それも含めてのことのようだ。

どうやら彼は僕が作業に没頭している間、邪魔をしないようにしてくれていたのか、離れた場所で別の事をしていたらしい。

声がかからないので様子を見てみたら箱の中には溢れんばかりのパーツが入っていたという感じだ。

僕は周囲の事は何も感じないくらい没頭していたので、実際のところ、彼が何をしていたのかはよく分からない。


「いやまあ、うちは大丈夫だけど……、それにしてもすごい集中力だね」

「もしかして、何度か声をかけてくれてましたか?」


少なくとも日が傾いているのなら数時間は経過している

数十分くらいを想定して案内してくれたのなら申し訳なさすぎる。


「いいや、かけようと思ったんだけど、かけられる雰囲気じゃなかったから、こんな時間になってしまったんだ」

「そうでしたか……」


声をかけづらいくらい集中していたのは申し訳ない。

かなり気を使わせてしまったはずだ。


「君は職人気質なんだろうな。もの作りの工房は天職だと思うよ」


予想外の褒め言葉に僕は困惑した。

確かに天職かもしれないし、そうであれば嬉しい。

けれど、本当にそうかはわからない。

僕は、別の工房にいることも忘れて、好きなことに夢中になってしまうような子供なのだ。

でもそれは興味のあることに夢中になっただけで、才能があるとか、職人に向いているとかいう判断基準になるものではない。


「そうだといいのですが……」

「いや、うちなら君みたいな子が来たら手放さないぞ?あっちの親方も多分手放さないだろうけど」


なぜか僕の様子を見た彼は、僕を過大評価してくれている。

それも嬉しかったけど、第三者から見て、僕が親方に必要とされるに値すると評価されたことの方が何倍も嬉しい。


「僕、親方には良くしてもらってます。僕の技術ではまだまだ兄弟子たちほど役には立てないかもしれないですが、技術そのものはちゃんと教えてもらっているんです。だからその恩が返せるなら嬉しいと思います」


誰でも簡単に手に入る質の良い道具を使って、ちょっと器用なら誰でも簡単にミニチュア作りをすることができた、どこかの世界とは違う。

前の世界なら子どものお小遣いで買えるような道具ですら、ここでは最高級品だ。

つまりほとんどの道具の質は前の世界に劣っている。

けれど間違いなく良質の商品が存在する。

道具にできないものをカバーするのは職人の技術しかない。

一つ一つの事が簡単にできないからこそ、丁寧に、慎重に作業が行われ、それを学んでいくから技術が向上するのだ。

正直今の僕でも前の世界に戻ったら、もっといいものが作れると思う。


「いい心掛けだ。最初は皆そう言うけど、長くいると忘れていくのも多いんだ。だからその気持ちをもって励めば、結果はついてくるよ。途中で忘れた者を追い越せる」

「はい!頑張ります!」


教わる事が当たり前になりやすい。

前の世界だと、学校に行くという感覚に似ているかもしれない。

行けばなんとかなるし、勉強は嫌でも強制されるから身に付けられる量に差は出るかもしれないが、何かしら学ぶことができる。

それと同じで毎日同じ作業を繰り返す職人たちは、その延長線上で新しい事を教わることになる。

ただ、同じ事をしていてもお金はもらえるので、どうしても手なれた作業だけをし続ける人が一定数出るのだ。

そう判断すると、親方は彼らに新しい事を教えなくなる。

そしてもう一つ、技術が追い付いていないと、やっぱり新しい事を教えてもらえなくなるのだが、向上心を持っている人は、いつまでも同じ事ばかりさせられるようになると、自分が向上心のない人と同等に扱われているのではと不安になり、やがてそれは不満になる。

兄弟子たちのトラブルの一件も、僕が新人なのに先を行きすぎたことが原因で起きたものだ。

そんなわけで順番は前後してしまったけど、今の僕は工房の職人として一番格下のやる作業を目に着く場所で長くやり、兄弟子たちのいないところでちょっとだけ書類作業を手伝うようにしている。

それでなくても自宅の事を相談したりするので、僕と親方の距離は近いのだ。

これ以上、兄弟子たちを刺激しないようにという配慮から、今の流れに落ち着いた。

技術で認められるようになれば、文句は言われない。

そしてそれを身に付けていけば、手なれた作業で満足している兄弟子たちを追い越す事は間違いなくできる。

僕も途中で満足して向上心を失くさないようにしなければ。

子どもの僕は彼の言葉に元気よく返事をしたが、その言葉は僕の中に重く響いていたのだった。

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