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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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トイレの配慮

僕が質問し答えてもらう事がしばらく続いたが、彼は作り方を見せるために用意してくれたパーツを分解しながら僕の方に差し出して言った。


「このパーツを貸すから試しに自分でいくつか組み合わせてみるかい?」

「いいんですか?」


僕がそれを受け取って確認すると、彼は見本に使っていないパーツも出してくれると言う。


「実際に組み合わせてみた方がしっくりくるかもしれないんだろう?それで使ってみたいと思う組み合わせができて受注につながるのなら大歓迎だよ。それに君ならこちらが思いつかないような組み合わせを考えてくれるかもしれないからね」


工房内で手詰まりだから外の意見が聞きたいということらしい。

けれど僕にできるにはすでに完成されているパーツを組んでみることくらいしかない。

それに構造をしっかり理解できていないのに、新しいアイデアを出すなんて、採用の可能性も低いし、アイデアそのものが無駄になる可能性があるのであまり出したくはない。


「僕のアイデアが欲しいってことですか?やってみないとわかりませんし、偶然新しい組み合わせができたとしても僕は確認できません。そもそも工房ですべての組み合わせを一度試しているのではないですか?その上で良いものを見本にしているのかと思ってました。それに変な組み立てや加工をしてしまったら工房で買い取らなければいけなくなりませんか?僕にその責任は……」


このミニチュアトイレ、パーツだけでもかなり高額だと聞いている。

高額商品だからこそ、品質もいいし、これだけの見本に案内が付いている。

僕がアイデアを出すのに、例えば壁に当たる部分に穴を開けて何かを設置したりしようものなら、そのパーツは商品にならないのだから、買い取りをさせられる可能性がある。

家を建てるのにする巨額の借金を前に、余計な買い物はできない。


「なるほどね。さすがに全部は試していないよ。最後はお客様の要望でパーツを作るから、それも含めたら組み合わせを無限に試さなければいけなくなるんでね。お客様の要望の中から良いと思うところを取り入れた部品を作る事はあるけど、最近は少ないね。アイデアが出尽くしてしまったって感じかな。まあ、とりあえずやってみてよ。これは替えがきくものだし、はめ込むだけだから、さっき見せたように簡単に外すことができる。壊さなければ組み立てても請求は発生しないから安心して試してくれ。その方がわかることも多いはずだからさ」

「それなら……」


僕が前向きな返事をすると、彼は僕が取りやすいように、パーツの箱をテーブルの近い場所に置いてくれた。


「枠は渡したものでいいかな。基本的には窓の位置とか、取り出し口の位置が違うだけで寸法は変わらないというのは気がついているよね」


僕は彼の言葉にうなずいた。

さっき窓や取り出し口は後で位置を決めて作っていると聞いた。

すでに位置が決まっている枠を渡されたら、その分自由度は減ってしまう。

だから彼はあえて一番自由度の高いもの、かつ、はめこみ作業が行いやすいものを渡してくれたに違いない。

ただ寸法が同じというのは親方が教えてくれたことで、僕が気が付いた事ではないので、それを僕の功績のように見られるのは困る。


「はい。親方にも、基本的に外側のサイズは規格が決まっていると説明を受けてきました。取り出し口は国から来た人が使用するから、変な位置にあったり、サイズが好ましくないといい顔されないって聞きました」


僕が説明を受けてきたと正直に言うと、彼は思うところがあったのか、少し考え込んでから言った。


「ここに来る前に説明もを受けてきてるのか……。まあ、そうだね。取り出し口に関しては……、彼らの作業がやりやすければ、文句は言われないよ。厳密に言えばサイズが決まっているわけではないのさ。でも、国に忖度して作業しやすくするためという理由で、大きい取り出し口を家につけたいとか思わないだろう?」


そう言われて僕は素直にうなずいた。


「確かに目立たないようにしたいです」


汚物の取り出し口をわざわざ大きくしたいと思う人はいない。

取り出し口が大きければその分、隙間が大きくなるので、その分、周囲への臭いを気にしなければならない。

だからできるだけ取り出し口を小さくして、臭いが漏れない状態にしておきたいのだ。


「簡単に言うと、取り出し口の最小サイズで認められているのがうちのものってわけだ。もちろんもっと小さくても、作業さえしやすければ彼らは何も言わない。作業しにくいから文句を言うんだ」

「彼らは一度にたくさんの家を回りますからね、やりやすい家が多い方がいいですよね」


国の義務での回収業務とはいえ、きっと彼らも好んで作業しているわけではないだろう。

だったらせめて、仕事がしやすい家に当たりたい、そう考えても不思議ではない。


「そういうことだ。というわけで、その基準になるのがこれってわけだ」

「わかりました。外枠はこれを使います。そうすると台も同じものを使った方がいいですね。基本ドアの向きが変わるだけですし」

「そうだな。ただ、台もいくつか用意しているぞ?」

「そうなんですか?」


確かにドアの位置が変われば、中で人が動きやすいよう台の形も変えるはずだ。

けれど彼の言葉からは、そういう違いではないというニュアンスが感じられた。

だから僕が続きを促すと、彼は自分の考えている事を話し始めた。


「ああ。基本的にはこの段差のものが一番多いが、段差が急だと子供やお年寄りは大変らしくてね、本当は段差を細かくしたものや、段に傾斜をつけて足を上げる負担を軽くできるようなものも考えているんだ。でもできがいまいちでね。提案には使うけど、結局見慣れた方が使いやすそうだってことになってしまうんだ」

「そうなんですね」


トイレのバリアフリーといえば、前の世界ではフラットな足元に手すりというのが標準だ。

でもそれはあくまでその状態で便座が設置できるからであって、この世界の場合、取り出し可能な構造にする必要があるため、どうしてもトイレ内で段を上がる必要がある。

ここではその段差を減らすために傾斜にしたりしているらしい。

けれど狭いところで高いところに登るための傾斜というのは、急な坂道のようになってしまうのではないだろうか。

僕がそんなことを考えていると、彼が通常使われている以外の形のものを持ってきてくれた。

思った通り、急坂を登るような形になっている上、座りにくそうだ。

そして個室から出るのも下りの傾斜で大変なのではないかと想像できる。


「確かに段差はないですが、出入りが大変そうですね。傾斜が急ですし」

「そうなんだよね。でも狭いから段差をなくそうとすると、こうするしかなくて」


申し訳ないが僕もこれはさすがに採用できない。

もしかしたら彼は僕にこの案をうまく形にしてほしいと考えていたけれど、事前に親方から説明を受けたことにより、先入観を持ってしまっている可能性を考えたのかもしれないと思った。

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