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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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トイレの構造

枠のパーツは、側面にはドア、他の壁面は全て覆われていて、天井部分は空いているが床は平ら、形だけ見ると前の世界の物で例えるなら電話ボックスのような箱型だった。

電話ボックスは透明なものでできているが、これはもちろん透明ではないので中は見えない。

ちなみに床は正方形ではなく長方形で、準備された枠は長方形の短い方の一辺側がドアになっているものだった。

そしてドアはあるがそれ以外の三方の壁は本当にただの壁で、穴や切り込みはどこにも見当たらない。


「これ、完成見本のようにトイレになるんですよね?ドアはありますけど、外からの取り出し口はないんですか?それに窓も決まっていないんですね」


僕が外枠を手にとって全体を見ながらそう言うと、彼はそれも住居に合わせて変更できるようになっていると教えてくれた。


「家のどこに設置するかで取り出し口の位置が変わるから、取り出し口や窓になる穴は開けていない。窓だってひとつかふたつか、どこに付けるか、お客さんとの相談になるからね」



彼に言われて僕は自分の先入観に気が付いた。

うちの場合はドアの正面が外だから、その位置に取り出し口があるだけで、中身が取り出せるのなら穴がドアに対して横にあっても問題ないという。

見本はうちと同じ位置に取り出し口を付けているものが多かったが、それは大半の家がドアの正面側に庭が来るような場所にトイレを配置するからであって、その位置でなければいけないというルールはないそうだ。

言われてみれば、中身の乗った物をそこから引っ張り出して回収できるようにすればいいのだから、彼らが作業できればいいというのは正しい。



そして窓も壁に適当な穴を開けるというわけにはいかない。

まずお客さんの手が届く位置に付けなければ開閉できないし、だからといって低すぎて中の様子が丸見えなのはだめだ。

さらに雨戸が付く場合は、外からも手の届く位置にしなければならない。

トイレは中の方が高い位置になる場所もあるので、中から手が届いても外からは届かないということも起こり得るのだ。



「今回はどの建物に設置するか、建物のどの位置にトイレが来るかとか、細かいことは分からないできているだろうから、このまま話を進めるよ。内装のパーツはこんな感じ。まずは床を決める」


そう言うと彼は、その内側にぴったり収まる、いくつか大きさの違う穴の開いている底上げの部品のようなものをテーブルの上に乗せた。

彼は一度パーツを僕に見せてから、僕に見えるようにパーツをはめて見せた。

その形も、はめこんだ方向もうちと同じだったため、中は急に見慣れた形に近付く。


「さっきまで何もないドアのついた箱のようなものだったのに、一気にトイレらしくなりました」

「そうだな。トイレの床は独特だからね。狭い中に段があったり、穴があったりする。他の部屋でこんな形になる事はないから、確かにこの床の構造を見たらトイレってなるね。ちなみに穴の位置も多少なら変更できるけど、取り出しの関係があるから、どこにでも、というわけにはいかない」


もし穴の場所を変えるのなら、それに合わせて取り出しのために必要なものを揃える必要が出てくる。

だから基本的には取り出し口の上にくる範囲内で位置を決めなければならないのだ。

そして本当は床の形に合わせて取り出し口の中、いわゆる中身を受け止めるためのパーツの形も変わるが、それは内装に関係がないので、今日は展示見本の一つを使って説明だけしてもらった。

床の内装によって、そのトイレの容量も増減する。

ちなみに容量を超えそうになったら、その中身を庭で保管するか、引き取りに来るまで誰かの家のトイレを借りるのが基本だが、そうならないよう、家族の多いところは容量を増やすため、穴の位置をより通常より高くしたり、床全体を高くして面積を取ったりするという工夫が必要なのだという。

その説明を受けて、見本に取り出し口が付いているのにはちゃんと意味があったのだと僕は少し驚いた。

話を聞けば聞くほど、トイレの構造は奥が深く制約が多い。

親方が自分で作るより専門の工房に任せるべきだと言うのは納得だ。



「あの、ちなみにこれって横長の方にドアが付いているものとかあるんですか?」


興味本位で僕が聞くと、彼は少し考えて、何かを思い出したように言った。


「滅多に使う事はないけど要望に応じて用意するのは可能だよ。でもその場合は、長方形の半分が開く横開きの入口にしないと、ドアが大きくなってしまうからね。そういうドアも作れるけどドアそのものが重たくなるし、開くのに手前側のスペースがより大きく必要になってしまうから、ドアにすることは勧めていないんだ。もちろん、半分の大きさのドアにすることも可能で、その場合はどの位置にどの大きさで付けるのかとかまた相談になるね。ちなみに今渡した枠のドアも左右なら開く方向を変えられる。家のどこに配置されるかによって変えられないと不便だからね」


確かに大きいドアを引いて空けるには、その周囲にスペースが必要だ。

横開きならばそのスペースはほとんど必要ない。

それよりも横開きの入口、過去の世界で言うとふすまのような開け方をする出入口と聞いて少し懐かしい気持ちになった。

窓のところに、はめこみで雨戸を付けるという概念があるのだから、横にスライドさせて開閉する出入口の発想があってもおかしくないのかもしれない。

僕は興味本位でドアの位置について聞いたが、大抵は奥に広くなるように配置するだろうと考えていたので彼の答えに少し驚いた。


「トイレ内の配置ってそんなに違うものですか?」

「ああ。トイレって置かれるのは家だけじゃないんだ。一般的な家とか小さい商店だったら建物の中にトイレは一つでいいかもしれないけど、広い職場とか、使用人を雇っているような豪邸の場合、トイレは一つじゃ足りないからね。複数置くなら、当然中の配置も変えないといけない。全てのトイレに取り出し口が必要だからね」


確かに人が常時たくさんいるようなところならばトイレは複数必要だ。

不足している状態では人間の尊厳に関わる切実な問題になりかねない。


「見本を見て、てっきり住居用の物を専門に扱っているのだと思っていましたが、それだけではないのですね」

「家の新築に合わせて作るだけでは、工房としてやっていけないよ。皆、頻繁に家を建て替えるなんてしないから」

「確かにそうですね」


確かに家などそう滅多に建て替える事はない。

だからこそ、新築の家が完成する時はお祭り騒ぎになり、皆がそれを見ながら歓声を上げるのだ。

いくら単価が高いものになるとはいえ、それだけで工房を経営、維持していくのは難しい。

たとえ痛んだ部分だけ修理して欲しいと頼まれる事があったとしても、それだって滅多にあるものではないだろう。

少なくともうちはボロくでも修理を頼むお金は出せないし、使えるのだから頼む必要性を感じていない。

つまり、他の家庭も同じということだ。


「それに基本的に形は変わらない。複数必要なら、これを並べて設置するだけだからね」


僕はこの世界で複数のトイレが設置されているような建物に入ったことがない。

ただ、説明を聞く限り、トイレが複数必要な広い建物の場合、この見本と同じものを並べるということだから、おそらく前の世界のように、男女で分けたり、洗面所のスペースが別に設けられたりしているわけではないということだろう。

確かにご家庭用と同じものを使えば、個室ごとに手洗い場がついているのだから、兼用で問題ない。

トイレ一つでこんなに考えなければならない事がたくさんあるのかと、僕は驚いてばかりだが、それを全て説明できる彼も相当すごい人だと僕は思った。

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