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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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一般的な職人教育

「プレハブというのは初めて聞いたかい?」


僕のつぶやきを聞いた彼が、聞き慣れない言葉に困惑していると捉えて尋ねてきた。


「あ、はい。その作り方に名前があるのは知りませんでした」


パーツを組み合わせて完成できる家の事は知っていたがプレハブ構造の事は知らなかった。

そして僕の持つプレハブと、その作り方も結びついていなかった。

親方にも、そういうものはあるが、と言われたが、名前までは聞いていない。

思い返してみれば、この世界で僕がプレハブという言葉を聞いたのは初めてのはずだ。

勢いで初めて聞いたと答えたが、その答え方が正直すぎたらしい。


「作り方は知っていたということか?」


彼は勢いよく突っ込んできた。

もうそこまで教わっているのかと驚いて目を見開いている。

確かに今回、僕は自分の家を建て替えるから、その際にこの作り方について教えてもらったし、参考のためにこの工房を訪ねているが、工房の業務において学んだ訳ではない。

本来ならば僕レベルの新人に教えることではないのだろう。

元は別の世界で得た知識だけど、親方に相談した時にこの世界にも同じようなものがあると教えてくれたのは親方だ。

親方に教えてもらったと言っても嘘にはならない。

ただ、パーツ工房には、僕が家を建てるため、自分の家のパーツを探しているという事は伝えていないし、親方も隠すべきだと言った。

その全てにおいて、どうにか辻褄を合せなければならない。

僕は彼に対してすでに知っていると言ってしまっている。

僕は親方が隠してくれている内容と、どうにか前の世界のイメージが伝わらないように説明しなければと、少し考えてから口を開いた。


「できたもの同士を組み合わせて完成させるものだということしかわかりませんが、やり方だけなら……。工房ではパーツを渡されて組み合わせる作業もしたこともないです。僕はその、工房で必要となるパーツの大枠を切り抜いたりするのが精一杯で、それをたくさん作って兄弟子たちにあとは任せてるのです。でも工房の兄弟子の作業の様子は、近くで作業しているので見る事ができます。最初、親方はひたすら見て覚えろって言って、何も触らせてくれませんでした。ようやくそこまできたところ……なのでまだまだです」


とりあえず僕は、まだ高度な作業をした事はないし、工房で扱う商品の完成品を作った事はない。

それは本当だし、彼は少し僕を過剰評価してしまっているように見える。

だから新人として雑用を担当しているだけという事を強調して伝えてみた。

そんな僕の言葉を聞いた彼は、あまり納得のいかない様子で言った。


「工房での最初の仕事は雑用とかってのが普通だからね。作業を見せてもらえる時点でかなり先を見据えているように思うし、大枠の切り抜きは、扱いを覚えさせるのに必ず皆が通る道だし、むしろ数年でそこまでできるようになったんなら優秀だよ。それと、見学しても理解できなそうな弟子を、勉強のためとはいえ他の工房に送る事はしないと思うけどね。現に君は理解できているし」


彼の話では、見習いの期間は商品に触れることはできず、見て学ぶことが多いという。

そして見習いの本来の仕事は、職人の身の回りの世話などになるので、掃除や洗濯、食事の支度が中心らしい。

ただ、僕の工房は少し違う。

そのような家事、身の回りの世話は、必要があれば寮に住む職人の家族がやってくれる事が多い。

一応それが寮に家族も同居する暗黙の条件にもなっているので、どこもそういうものなのかと思っていたが、そうではないのだという。

そもそも職人の大半は通い、寮があっても本人しか入れないというのが普通だし、寮の代わりに近くに家が借りられるまでは親方と同居なんて場合もあるそうだ。

思い返せば、確かに僕の最初の仕事も倉庫の片付けだった。

片付けが終わったら、兄弟子たちを観察する。

そんな生活だった。

彼の話を聞いて、僕はかなり恵まれた環境にいるという事を知って驚いた。

本来ならば観察している時間を削って職人の身の回りの事をするのだから、じっくり観察して早く仕事を覚える事はできないし、僕は夕食の前に家に帰る事ができていたけれど、彼らは職人のための夕食を準備して片付けてようやく仕事から解放されるらしい。

僕は早く仕事から解放されるので、家で自分なりに予習や復習をする時間を持つ事もできた。

職人の世話の合間で仕事を覚えなければいけない見習いと、仕事だけに集中できる僕で、覚えが違うのは当然だ。



ただ、僕が入ってから工房ではトラブルがあった。

色々なところに迷惑をかけたということは耳にしているので、少なくともこの工房でも噂くらいは聞いているだろう。

けれど周囲にどのように伝わっているか、僕にはわからない。

当事者の僕が知っている事は真実だけれど、全て知っているからといって何でも話していいわけではないし、そもそも親方が彼らにどう説明しているのかわからない。

工房の内外で伝わっている内容が異なっているかもしれないので、僕が迂闊な発言をすれば工房に確認が入る事もあり得る。

どこまで話していいか分からないので、トラブルの部分は表に出さず、大ざっぱな事実だけを口にしてみることにした。


「いえ、あの……、それはおそらく人手不足が影響して……」


工房ではトラブルの一件で兄弟子たちが解雇されている。

僕もその件がなければ、まだまだ倉庫の整理と見学の毎日を送っていたかもしれない。

でも、工房では納期が迫る中、そんなことをしている余裕はなかった。

親方は取引先への謝罪行脚に追加の材料の買い付け、それが終わってから工房にこもって仕上げや確認の作業をしなければならなかったし、兄弟子たちも遅くまでサポートしていた。

そして多くの戦力が必要だから、正に猫の手も借りたいと、僕はいきなり実戦に投入されたのだ。

人手が足りていたら、まだ実作業なんて一つもできないままだったかもしれない。

僕がそう主張すると、彼はにっこりと笑って言った。


「……ああ。確かにそれは一理あるかもしれないな。でも、本当に人手不足の時にできない人間は邪魔だから使わないよ。そう言う意味でも、君はできる人間だって判断されたってことなんだから、そこは自信を持っていいと思う。何より、教えられたわけでも組み立てた経験があるわけでもないのに、完成品を見た後、テーブルに置いただけのものを商品のパーツだと見抜く洞察力を持っている。それはもう才能だな」


僕に才能があると彼は言うが、そんなことはない。

作業をさせてもらえているのは兄弟子がいなくなって繰り上がっただけなのだから、工房の不利益に相応しくない言葉を使っていいのならば、運がよかっただけなのだ。


「すみません、よくわかりません」


僕がそう言うと彼はため息をついた。


「……まあいいさ。とりあえずそんな君にうちの工房のパーツを紹介しよう。君と話しているとつい忘れそうになるけど、取引先である工房の代表として来ているんだもんな。全力でアピールさせてもらうよ」


そう言って彼はテーブルの周りに置いたパーツ入りの箱の蓋を全て開けて、枠のパーツをひとつ、テーブルに置いたのだった。

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