表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/261

プレハブ構造

ここまでやってしまったのだから取り繕っても仕方がない。

急に馬鹿なフリをするのはおかしいし、それをすることで工房の、親方の信用を落とすことはしたくなかった。

だからバランスは考えなければならないが、せっかくなので、ついでとばかりに思った事を口にする。


「パーツが準備されているんだったら、最初からこっちを見て好みのものを選んでいく方が、早くイメージに近いものになるんじゃないですか?」


テーブルの上に並べられたいくつかのパーツ以外に、箱の中にはたくさんのパーツが入っていると想定して僕は言った。



前の世界なら皆が実物を見るのではなく、カタログから色や形を見て商品を選んでいた。

だから写真や説明を読めば、ある程度、完成形を想像することはできた。

だがこの世界にはカタログはない。

基本的にはオーダーメイドになるのだ。

だから僕は家を自分で作ると言ったけれど、それをサポートする親方は僕にしっかりとイメージを持て、完成形をどうしたいのか決めろと何度も言っていたのだ。

でもパーツがここまで細かく用意されているのなら話は別だ。

ある意味カタログを見せられるより、実物があるのだから完成形がイメージしやすい。

今回、自分の家の事は伏せているし、そもそも煮詰っていたから親方は僕にパーツを見てくるよう提案してくれた。

でももし、僕の中にしっかりとしたイメージができていたのなら、パーツから見せてもらった方がありがたい。



「君は職人だから、パーツを見て完成形を想像できるかもしれないけど、普通の人は完成品を見ないとイメージを持つことはできない。そうなると基準は利用した事のある実物が基準になってしまう。せっかく新しいものを作るのに、いいところが取り入れられていないものを勧めるのはお客さんの不利益になると思う」


要望に応えられればクレームにはならないし、お客さんも満足はする。

だけどそれは、それよりいいものをその時に知らなかったからにすぎない。

何十年も使うもので、この先も進化していく可能性があるのに、今の最新技術すら取り入れられていないものを勧めるのは、工房のプライドが許さない。

新旧の商品を案内した上で、最終的にお客さんが古い方を選択するなら、もちろん要望通りのものを提供するが、新しいものを隠して古いものから販売しようなどという浅はかな事はしないという。


「正直、古いものでも新しいものでも値段はほとんど変わらない。形や作り方が変わるだけだし、基本的に大きさは決まっているから、余計なものを付けない限り、材料費もほぼ同じなんだ。だから新しいものを含む完成見本を見て変更してほしいところを聞いた方が早い。イメージがつかめないままパーツだけ見せられたら、普通はどっから手を付ければいいかわからんってなるのさ。だから一番イメージに近いものを選ばせて、そっから微調整するんだ」


今回この工房を訪ねたのは、見学とか勉強とかそういう意味もあるので、案内されるまま見せてもらった。

彼の説明は分かりやすかったし、どうしていいか分からない人にいきなり組み合わせを考えろというのは横暴というのももっともだ。

工房から注文をするのなら詳細なイメージがその段階で伝えられるはずなので、見本を見て選ぶという事はほとんどない。

つまりここに来るのは知識のないお客さんの可能性が高いのだから、彼の言う通り、お客さんに案内する場合は、完成見本を微調整する方法がいいのかもしれない。


「勉強になります」


僕は必要なものを手に入れる事ばかり考えていて、商品を売る方法とか考えていなかった。

いくら接客が苦手だからしたくないとはいえ、それを考えられるか、考えられないかでは全然違う。

親方は僕にそういう気遣いも学んできてほしいと思って、この工房を選んだのかもしれない。



それならば僕にできるのは、この工房から多くの事を教えてもらい、知識を手に入れることだ。

開き直った僕は続けて質問した。


「この完成形も家のパーツですよね」

「その通りだよ」


この商品を彼は完成見本と言っていた。

けれど僕は家のパーツを見に来たので、僕からすればこの完成見本だって完成形ではなく、完成したパーツの一部にすぎない。

僕がそう口にすると彼はすぐに肯定した。

どうやら僕の認識で間違いないようだ。

でも本題はこれからだ。


「親方からは家を建てるのに必要なパーツを組み合わせて完成させる方法があるって聞いてます。パーツは家を建てる人が選ぶんですよね?部屋ごとなら確かにイメージが浮かびやすいかもしれないですけど、いろんな工房のパーツをうまく組み合わせることができるんですか?」


各工房が思ったものを自由に作ったら、当然合体できないところが出てくるはずだ。

過去の世界と同じように、この世界でも家の大きさはまちまちだ。

持っている敷地の広さも違うし、敷地にある建物の大きさだって違う。

もし全く同じ広さの区画の中に家を建てるのなら、各部屋をカスタマイズしたパーツを組み合わせれば完成するかもしれないけれど、ここまできっちり枠が決まった状態で完成してしまっていたら、広さを変えることなども困難だ。

本来ならば依頼の時に広さを変えてもらうことはできるかもしれないが、箱に入ったパーツを見ると、とても広さを変えられるようには思えない。

組み合わせたら全て同じ大きさになるはずだ。

他の工房でも同じような作り方をしているとすれば、他の部屋においては広さが合わない家のパーツを選択できないということになる。


「そういうのをプレハブ構造って言ってるけどね。うちのトイレみたいに国からいろんな指定が入るものはある程度サイズが決まってしまうから、皆、それに合わせるし、パーツが合わなきゃ合わせる、それこそ依頼を受けた職人の仕事だ。客の希望に合うパーツがなければ作る。それができない工房は家の受注なんかそもそもしないさ」

「プレハブ……」


僕の頭に過ぎったのは、前の世界のプレハブ、災害時の仮設住宅とか、建築現場に置かれた仮住まいだ。

あの世界でのプレハブは作るも壊すも早いものだし、いつか解体するものというイメージだった。

しかし早くできる簡易的な建物なのに、丈夫だし、雨風にも強かった。

それに多少の地震が来ても崩れたりしない。

あの世界のプレハブは、今の家より明らかによいものなのは間違いない。

ならばこの世界でも充分通用する家の作り方のはずだ。



よく考えたらあの仮住まいが簡単に作れるのは、こうして建物の中に必要なパーツを取り外せる形でくっつけているだけだからこそだし、撤去がその逆順でできるようになっているからだ。

新居が建つ時、そこにあった家は一瞬で消えたように見えたし、この世界で家を解体するのを見た事がない。

解体の事は考えてもいなかったが、今回建てる家は、解体する事を目的としていない、長く住むための家だ。

だから解体することが前提の建物というイメージのある、プレハブという言葉に首をかしげそうになったのだが、ここでいうプレハブというのは、作り方を示すものだった。

僕はここで、プレハブというのは本来、構造手法の一つだということを、初めて知ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ