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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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部品と完成形

選挙の投票に似ていると言っても、この店のように投票所の中央に休憩できるようなスペースはない。

選挙ともなると投票権を持っている人や、僕が選挙権を持つ前、父親に連れて行ってもらったのと同じように、子どもを連れてくる親がいてごった返している。

投票期間中、投票所は人が多いので、休憩できるようなテーブルはないし、贅沢に時間をかけて見ている余裕はない。

けれど、一票を入れるために選挙権を持っている皆が慎重に吟味する。

どこかの世界と違って、選び方が違うからだ。

選挙に出馬する人は、自分をアピールするための選挙活動をするくらいなら、投票日の展示をよりよくするために努力するし、展示品は誰が作ったものなのか記載されないのだから、特徴などを伝えていても無駄になる可能性が高い。

何よりこの世界は皆が平等にもらえる一票の重みをよく理解している人が多いので、結局はそこにあるものをしっかりと見て、できの良いものに投票することになるのだ。

今のところ、この世界での選挙は領主選挙しか知らないし、工房で兄弟子たちが雑談が聞こえてきた感じでは、公共施設のコンペも同じような形式になるようだ。

他のやり方で、公の何かを決める事もあるのかもしれないが、それしか知らない僕には未知の話だ。

一方、時間を存分に使えて、その場で決める必要もなくて、見本品に対して解説がつくのだから、過去の人生経験からすると、やっぱり企業の展示会場というのがしっくりくるのだが、この世界で一番近いのが選挙だから不思議なものだ。

そしてそれが身近なものだと扱われるのだから、違う世界での投票率の低さを、この世界の人たちが知ったら驚くに違いない。



僕が前の人生や選挙制度を振り返りながら商品を見てしまっていたためか、気がつけばペースが落ちていた。

そんな僕に彼が声をかけてきた。


「大体の客はその列の完成品しか見ないが、君はこっちも見るだろう?」


この部屋にある全てが完成見本かと思っていたが、彼の話では違うらしい。

まだ僕は一列も見終えてないので全体を把握できていなかったのだ。


「すみません、そっちはまだ見てません」

「じっくり見てもらえるのは光栄だ。ゆっくり見てくといいと思うが、お茶を用意したから少し休憩してから続けたらどうだい?」

「はい!ありがとうございます」


いつの間にか中央のテーブルにはお茶セットが用意されていた。

それは僕の家にあるようなものではなく、前の世界でも高級とされるようなティーポットにティーカップ、後はお茶請けと思われる菓子が、これまたきれいなお皿に乗せられていて、明らかに高位のお客様に出しているものだと分かる。

とりあえず僕は用意された席に座ってみたけれど、どうにも落ち着かない。


「あ、あの……。僕は貧困地区の集落に住んでるような人間なので、こんな高そうなカップとか……」


前の世界なら一般的な家庭にもあるようなものなのだが、この世界でのそれらは高い。

当然だけど、これらを弁償するようなことになったら、親方に借金することになるだろうし、家を建てる計画にも支障が出る。

親方はきっとそのまま進めるように言うだろうけど、そのまま計画を実行する場合、僕の借金が見込みの倍くらいになってしまうかもしれないのだ。

そう考えると恐ろしくてお茶に手を出すことができない。


「そっちの工房にはいつもお世話になってるんだ。このくらいもてなして当然さ。それにカップは割れるまで使い回せるものなんだ。高いからって使うのにためらってるんだったら気にするような事はない。遠慮せずに飲んでくれ」

「わ、わかりました……」


僕は生まれ変わってからおそらく初めて、高級なカップで出されたお茶を飲んだ。

緊張しながらも、いざ持ち上げてみると、持ち手のついた、割れたり欠けたりしていないカップが当たり前だった時の感覚が残っているらしく、さほど震えたりすることはなかった。

生まれ変わってから十年以上が過ぎても、体が別のものになっても、染み付いたものはあるのだなと、僕は中身を空にしたカップを静かに置くのだった。



僕がお茶を飲んでいる間に、彼は席を立つと、いくつかの箱をテーブルの周りに運んできた。


「完成品は大体見られたと思うから、次はこれを見てもらおうと思う」


彼はそう言いながら箱の中身を取り出してテーブルに並べ始めた。


「これは、完成品を作るためのパーツ……ですか?」


いくつかの小さい部品を見て僕が思わず尋ねると彼は驚いて手を止めた。


「そう!さすがあの工房期待の新人だけあるね。あえて見本にない色とか選んで出したのに、見せただけで分かるんだから、さすがだよ」


どうやら僕は彼に試されたらしい。

確かに見習いとか、組み立てとかそういう概念がない職人なら、色も形も違うパーツを見せられても、それを何に使うのか分からなかったかもしれない。

彼はこうして僕に何も言わずいきなりパーツを見せることで、僕がそれを見抜けるレベルなのか、それとも説明したら理解できるレベルなのか、職人としてのレベルを確認しようとしたようだ。



僕は前の人生で引きこもりの間、物をたくさん作っていた。

ミニチュアを作る前、物作りのきっかけになったのはプラモデルなのだ。

決まったパーツを組み立てて、置き場がなくなったら分解して箱に戻す。

見たくなったらまた組み立てる。

マニアの人は色を付けたり、そのまま接着して形を固定したりしているようだが、僕の部屋は広くない。

だからプラモデルでそこまでのことはしていなかった。

むしろお気に入りが処分されないようにするために、分解できることが必須だったのだ。

そんな僕が完成見本を見ながら考えていたことの一つに、気になるところを改造できるのかどうかという点があった。

複数の見本を見た時、僕はこれそのものが細かい部品の組み合わせでできていることに気がついて、それが分解できれば理想に近付ける事ができると考えたのだ。

別に見本に隙間とか欠陥があったわけではない。

ちなみに気が付くきっかけになったのは、付属品として置かれていた雨戸だ。

外してあるこれが取り付けられるのだから、他の物はとりつけてあるだけで外せるのではないかと思った、それだけだ。



年齢的にも、見習いを卒業したばかりという地位的にも、本当ならもう少し知らないフリをするべきだったのかもしれない。

僕は見せられたものについて思った事を口にしただけだったが、彼に言われて自分が試されていたことに気が付いた。

けれどこれは本来の、少なくとも今の命を生きてきて身に付けた僕の能力ではない。

過去の知識から偶然にも理解できてしまったものだ。

今後、もう少し年をとって、大人になるまでは、発言に慎重になった方がいいのかもしれない。

そうしなければまた、悪目立ちして、工房であった事件のようなものに繋がるきっかけになりかねない。

彼は悪い人ではないと思うが、たかが十歳くらいの子どもが大人顔負けの発言を繰り返せば、印象が悪くなってしまう可能性もあるのだ。

しかし今回の発言の結果、僕は彼から過剰な評価を受けることになってしまったのだった。

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