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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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パーツ工房の商品陳列

工房で声をかけてくれた彼の後についていくと、さっき通った店のようなところに案内された。

さっきは窓やドアにはカーテンが掛けられていて、中の様子を伺うことができなかったが、彼が入口のドアを開けると、壁側に商品の置かれたテーブルがあり、中央にテーブルセット、奥にも部屋があるようだが、おそらく販売員の休憩室とか、そういうものがあるのだろうと思われる。

うちの工房にある商談の部屋とも、表にある店とも違うレイアウトだ。


「工房に来る時は中の様子が分からなかったのですが、やっぱりお店だったんですね」


入口から店の中を見た僕がそう言うと、彼は中に入るよう促しながら言った。


「ああ。確かにここは店だけど、並んでいる商品を販売しているわけじゃないから、君が並んでいる商品がすぐに購入できる店を考えているなら少し違う。ここに並んでいるのは見本。この中の物を見せて希望を聞いて、工房で作成する。だからお客さんに渡すのは新しく作った方になるし、ここはお客さんが来る時にしか開けてない。ちなみに真ん中の何もないテーブルで商談することがほとんどだ」

「そうなんですね」


僕はそう言いながら彼に続いて店の中に入り、ドアを閉めた。



「好きに見ていいぞ」


ドアを閉めた僕に、彼はそう言うと用事があるのか店の奥に入っていった。

僕は彼の背中に向かってお礼を言ってから、入口近くの壁側にある商品から順番に見ていくことにした。

商品は細長い棚にずらっと並べられているが、商品一つ一つが大きくないのでそれなりの数があって見ごたえがある。

この店に入って最初に目についた入口近くの壁側に配置されているのは完成品らしい。

並んでいるのはミニチュアの電話ボックスみたいになっているが、ボックスの中はこの世界のミニチュアトイレだ。

置き方は工夫されていて、見本品に触らなくても全体が分かるように、トイレのドアはすべて開いているし、処理のための取り出し口も見えるように、通路に対して斜めに設置されている。

トイレは家の壁側に設置されることが前提で作られているためか、壁面に窓がついているものもあり、窓の開閉もできるようになっているのが分かった。

展示品で窓のあるものについては、全て窓が全開の状態になっている。

ちなみに窓といっても前のところのようにガラスでできたものではない。

壁に穴があいていて、ふすまのように横にスライドできるものがついているか、小さなドアのようなものがついているだけだ。

それは家の壁にある窓と変わらない

基本的にこの世界では雨が降ったり寒くなったりしない限り、この窓は開けておくことが多い。

なぜなら窓が空いていないと採光できないからだ。

プライバシーとか気にするなら閉めておきたいところだが、そうするとろうそくの消耗が増えてしまう。

壁に囲まれた場所はあるのだし、全てが見えるわけではないのだから気にする事もないかもしれないが、引きこもりだった僕はこの環境に慣れるのが大変だった。

ついそんな事を思い出してしまいながらも、僕は商品を見るのに熱中した。

やはり人の作品を見るのは楽しい。

工房でも作っている職人がいるのだから、他者の作品を見る事はできるのだが、こうして違う工房の新しいものを見ているというのが新鮮だ。

僕は造るのも好きだけど見るのも好きなんだなと思った。



そうして一つ一つを細かく見ていくうちに、付属品が横に添えられたトイレがある事に気がついた。

僕はその商品と付属品をじっくり見て、その正体に気がついた。

このトイレ、商品によっては雨戸がはめられるようになっているようで、その部品が横に添えられているのだ。

これも家と同様で、実は少し余裕がある家には雨戸がついているところもある。

雨戸があるだけで窓と室内に入る雨水の量が変わるので、家が丈夫で長持ちするということらしい。

比較した事はないが、理屈はその通りだと思うし、まだ経験はないが台風のように強い風を伴うものに見舞われる事があるのなら、雨戸はあった方がいいだろう。

トイレ一つでここまで細かいところまで作っているのかと感心しつつ、許可がもらえるなら手に取ってじっくり見たいと思いながらも、誤って壊してしまうようなことはできない。

だから僕は、ぎりぎりまで顔を近づけて、一つ一つの商品をなめるように見るだけに止めたのだった。



どこかで見たような、似たような光景を知っているようなそんな気がしていたが、この感じ、商品の並び方は、まだ数回しか参加していないこの世界の選挙、その時の模型の展示に似ている。

この店はまるで投票箱のない選挙会場だ。

完成品を見て、好きなものを選ぶのだから、方法も変わらない。

選挙と違うのは選んだものによって決まるのが、領主なのか、公共施設なのか、自分の家のパーツなのかという点くらいだろう。

僕が思わず一人で納得して頷いていると、僕から少し離れた場所で待機してくれていた彼は、怪訝そうな顔で僕に声をかけた。


「何か思うところでもあるのかい?」

「あ、いえ、なんか雰囲気が展示会……といいますか、選挙を思い出す感じだったものですから」


僕が選挙という言葉を口にすると、彼はそうかとうなずいた。


「そうか、君はすでに選挙も経験したんだな。確かに工房の職人として働いているんだから投票権があるのか。……正に君の言う通りだよ。似せてあるんだ」

「そうなのですか?」


偶然ではなくわざとだという彼の言葉に僕が驚いていると、彼はその理由を説明してくれた。


「だって、そもそも家のパーツなんて一生に何回も見に来る事はないだろう?工房の場合は直接依頼してくる事も多いし。この店まで足を運んできて実物を確認するのは、本当にこだわりのある客だけだからな。そこまでしたけど、今度は緊張して見る事ができなかったとかってなったら可哀そうだろう?だから彼らが一番こういうものを見るのに緊張しない配置、まぁ、選挙のような配置にしておけば、彼らも集中してみる事ができるってことになってる。普段やってる事だからね」


緊張したり焦ったりすれば判断を誤る可能性は増える。

この工房としては焦らずじっくりと商品を見てもらいたいから、お客さんが落ち着いて見られるような環境づくりを心掛けていて、その結果、配置は選挙に似せるのがいいという判断になったそうだ。

そして金持ちだろうが地位の低いものだろうが、客は客。

そもそもここの商品は、一生ものである家のパーツということもあり、これ自体が安い買い物ではない。

だから店側の言い値で購入してくれる人間は地位に関係なく対等に扱う。

それがこの工房のモットーなのだという。

さすが親方が勧めてくれた工房。

もともと高額な商品だし、悪意があれば相手の判断力を鈍らせて高い値段で売り付ける事もできるのに、そういうことをしない良心的なところなのだなと僕は思った。


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