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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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パーツ工房と貧困層の新たな収入源

僕は早速、休みの日、親方に教えられた工房を訪ねることにした。

休みなのに仕事かと突っ込まれそうな気もするが、仕事という形式で見学に行くのは足元を見られないようにするためなので、気分はウインドウショッピングだ。

本来の目的は自分の家の中に組み込むパーツを選ぶことなので、テンションは高い。

けれど僕は基本属性が引きこもりだ。

だから初めて行く場所、しかも親方の顔を立てなければならない場所に行くということがプレッシャーとなって足取りは重めだ。

そんなこともあって工房に向かう僕の感情のアップダウンは激しかった。

楽しみだけど行くのが怖いのだ。



そんな考え事をしているうちに、無事工房にたどり着いた。

自分の働いている工房に初めて行った時、親方と話をする時は父親がついてくれていたので安心感があったし、その後すぐにそこで採用になったから、他の工房に面談をする事もなく、当然、僕の知る工房というのは今いる工房でしかない。

けれど同じものを作る工房なのだから、どこか似ている空気を持っているだろうとは思っている。

ちなみに外観は似たようなもので、表に商品を置く店のような建物があって、その奥が工房。

けれどその店のようなところが空いている様子はない。

それが閉店時間だからなのか休業しているからなのかは不明だ。

そうなると、工房に声をかけなければならない。

僕は店を素通りして、工房らしき建物の近くまで行くと、中を覗き込んで様子を伺った。

中には職人らしき人たちがいて、皆が集中して作業を行っているのが分かる。

今声をかけていいものなのか、タイミングが分からない。

しかし、ここでいつまでも待っているわけにもいかない。

だから僕は勇気を出すことにした。


「すみません……」


僕がパーツ工房の入口で恐る恐る声をかけると、中から作業中の職人らしき人の声がした。

まだ個人は特定できていないので誰なのか判断できないが、おそらく奥の方にいる人なので、責任者だろう。


「君が噂の新人か。そっちの親方から新人がこっち来るって話は聞いてる!とりあえず中に入んな!」

「はい。ありがとうございます」


もしかしたら作業中で手が離せないのかもしれない。

僕は外でお礼を言ってから工房の中に足を踏み入れた。



僕が工房に入ると、一斉にそこにいる職人たちが僕を見た。

一応客になる予定だが、親方が勉強のためと上手く伝えてくれたと聞いている。

そのせいもあってか、職人たちが新人である僕を見る目が厳しい。

まるで品定めされているようで、僕は少し後ずさりたくなったくらいだ。

でもそんなことはできない。

だから僕はその声の方に向かって歩いていった。


「おや?君は確か……」


僕の顔を見るなり、そんな声を上げたのは、声の質からして中に入るよう言ってくれた人のようだ。

だから僕はその人のところに向かってみることにした。

僕は職人らしき彼の事を全く知らないが、どうやら向こうは僕を知っているらしい。


「あの、以前どこかでお会いしましたでしょうか?」


僕がそう口にして不思議そうにしているのを見た彼は、苦笑いしながら言った。


「いや、君、この界隈じゃ有名だからな。あの洗濯物を早く乾かす簾とかいうやつを作って流行させた子だろ?」


確かに、おそらくだけどこの世界で最初に簾を作ったのは僕だ。

結果的になぜか全然違う用途で広がってしまっている簾は、職人たちの中でも本来の使い方が認知されていない様子で、確かに最初につくった僕がそういう使い方をしてしまったのだから仕方がないと考えるしかない。

ただ、確かに貧困層では簾を欲しがる人が多かった。

でもそれは子どもが森で集められる材料で作れるからだし、それで生活環境が向上できるならと皆が頑張った結果だ。

皆基本的には手先が器用だし、森の中で植物にはさんざん触れていた。

彼らの扱い慣れたものしか使っていないのだから、同じ作業を繰り返す単調作業の壁を乗り越えれば大抵のものが完成にこぎつける事ができた。

結果的にそれを達成した人の家の庭には簾があるという状態になった。

そしてその上に乾きにくい洗濯物が置かれるまでは想定内だったが、彼らは洗濯の日をずらして、簾の貸し借りをすることで洗濯の効率を上げて仲良くやっているのだ。

簾が丸められて運びやすく、子どもでも運べる重さだから、大人の女性たちが貸し借りをするのは容易で、それが日常になったくらいだ。

それを流行と言うかどうかは疑問なのだが、この職人は流行していると言った。

そうなると簾はすでに貧困層のアイテムではなくなっているのかもしれない。


「簾って流行してるんですか?」


僕が思わずそう口にすると、彼は口元をへの字にして少し考えた様子を見せてから説明してくれた。


「そっか、君の場合は自分で作れるし、そもそも家にあるから店に並んでるのを見ることもないのか。今は同じ形で使うものがアレンジされて売られてるんだ。と言っても上質の木材を使ったものとか、きれいに色づけされたものが出回ってるって感じかな。君たちは拾ってきた枝を整えたりしていたみたいだけど、工房が商品として製造することになってからは、最初から簾を作るために木材をカットしているし、他の物を作った際に出てくる細長い端材はそっちに回せば無駄もなくていいって評判だ」

「あれがそんなことになってるなんて思いませんでした……」


知らない間に簾が、プロの手によるまさかの製品化である。

簾の作り方だが、皆にはお金を取る事はしないと明言して教えてきたものだし、別にその権利を主張するつもりもないが、きれいに作られた商品には興味がある。

前にいたところと同じようなものなのか、それとも用途が代わってしまっているから別物として進化を遂げているのか、是非見てみたい。

僕がそんなことを考えているところに、彼は続けた。


「それから、何でも君に作り方を教えてもらった子たちが、材料の木材と紐を提供してもらって作業して小銭を稼いでいるらしいよ。そうして作られたものに色を付けたりするのは別の職人って感じだな」


僕が作り方を教えたことが少し彼らの収入に繋がっているらしいと聞いて僕は嬉しかった。

森に精通している彼らのおかげで、僕は森から多くの物を得る事ができたのだ。

そうして惜しみなく自分の知識を与えてくれた彼らにだからこそ、僕は簾の作り方を迷わず教えた。

皆には受講料を取らないのかと驚かれたけど、その話を知った親方が僕を工房に入れてくれたし、本当なら簾の事を広めてくれた彼らにそのお礼をしたいくらいだった。

でも、どうやらその必要はなさそうだ。

僕の伝えた事は今も彼らの役に立っていた。

本当に嬉しい。



けれどこの話で盛り上がっている場合ではない。

このままでは世間話をしただけで帰らなければならなくなる。

なので僕は早速本題を切り出した。

僕は工房で受注する予定の家のパーツを見てきてほしいと親方に頼まれていると伝える。


「なるほど。新人が勉強を兼ねてお使いに来てるんだな。そういう事なら案内しよう。あそこの親方厳しいからなぁ。できれば君からしっかりお勧めしてもらえるとありがたいんだけど……」


うちの工房が納品先の一つということ、そして親方が話を通してくれている事もあり、どうやら彼が僕に商品の案内をしてくれるらしい。

確かに気さくに話しかけてくれるし高感度は高いが、僕がそのトークに負けて妥協するわけにはいかない。

彼に事情を伝える事はできないが、買うのは僕。

そして購入したらそのパーツは次の建て替えまで使い続けることになるのだ。

安い買い物ではないのだから、しっかりと見て、公開の内容にしなければならない。


「僕も自分の目を疑われたら困るので、しっかり見て親方に感想を伝えるつもりです」


とりあえず親方が、押し売りされないようにと考えてくれた設定を崩すわけにはいかない。

だから僕は自分の意見を親方に伝えると言うと、彼は楽しそうに言う。


「はははっ。さすがあの工房の職人になっただけのことはあるね。まずは君のお眼鏡にかなわなきゃいけないってことだ」


笑っていられるということは、それだけ商品に自信があるということだろう。


「あの、改めまして、今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。じゃあ、早速完成品を見せるから、こっちついてきな」

「はい」


僕は彼に言われるまま、その後をついていくことになるのだった。

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