模型とパーツ
模型の欠陥について正解以上の褒め言葉をもらって興奮していた僕は、ようやく落ち着きを取り戻して親方に尋ねることにした。
欠陥は言い当てたけど、親方が結局どうしたのかは聞いていなかった事に気がついたのだ。
別に親方がやった事を模範解答とうするつもりはない。
でも、僕が考えた以外の者が出てくるかもしれないのだから、確認しておけば今後の参考になるだろうと思ったのだ。
「あの、ちなみに親方はどう対応したんですか?」
親方は何か考え事をしていたのか、僕が声をかけると驚いていた。
しかしすぐに僕の聞きたい事を理解したのか、自分が作り直した模型の事を説明してくれた。
「ああ。俺は水場を広げて穴を手前寄りにして、水の流れる、壁に近い部分を補強した。当然だが床に使用する素材も変更したぞ。ちなみにあのまま穴を手前にしても、木材を変更しなきゃ内側の排水でおんなじことが起こっちまう可能性もあったし、上手くいったとしても、外側に開けた穴を中途半端にふさぐなんざみっともねぇ。仮に上手くふさいだとしても、そっから水が漏れたら万事休す。まあ、一番はちゃんとしたもん作りてぇから、水回りは一からやり直したってわけだ。こだわりがなけりゃ、細かいもんはパーツもあるんだがな」
一から全てを考えなければならないと思っていた僕は、パーツという言葉を聞いて驚いた。
確かにこの工房でもある意味パーツのようなものを作っている。
例えば彫り物などは飾りだけではなく家の一部に取り付けるために造られているものだし、テーブルや椅子も工房でパーツを作って組み立てられるようにしているものが多い。
でもそれはテーブルや椅子などを分解した状態で運んで、運び込んだ家で組み立てられるようにしないと、運搬が大変だからというのが理由だ。
この世界に重機やトラックはないし、一応馬車や牛車みたいなものに引かせた荷車を使うことはできるが、その運搬費を庶民が払うのは無理、そのくらい高額な費用がかかってしまう。
けれど今話しているのは家の模型の話のはずだ。
準備段階の模型にまでそのような便利なものがあるとは思っていなかった。
「家の模型のパーツがあるんですか?」
僕が尋ねると、親方はうなずいた。
「ああ。トイレとかどこも似たり寄ったりなのは、パーツ使ってっからだからな。しかもあれは、お国も関わるから、いちゃもんつけられたら面倒だろ?さすがに俺もあれだけは特注でもない限りパーツを使うな」
良くわからなかったので親方に詳しく教えてもらったところ、国は不定期にトイレの中身を回収しに来る際、各家ごとに仕様が違うと仕事がやりにくいと嫌な顔をされるらしい。
例えば大きさが違う場合、広くなっていて取り出しやすくなるのならいいが、狭くて取り出しにくくなったら嫌がられるし、専用の扉が開けにくかったり、形状が異なっていたり、とにかく彼らにとって不便になっているのは良くないとのことだ。
そういう家は国から目を付けられているのと同義、直接的な嫌がらせをされるわけではないが、あまりよい事ではないので、規格がある程度決まってしまったのだという。
基本的には外につながる構造は同じになっているが、中の見た目を変化させることで上手く家と調和するように工夫されているそうだ。
同じ規格に統一するということは、自然と発注する工房が絞られてくるということになり、基本的にこの街では数店の工房がその役割を担っている。
だからその役割を担っている工房は規格を順守するよう努め利益を上げているし、他の工房はそれらを使用することで国から目を付けられないようにしていて、何かあればその工房のパーツを使ったと責任を持たずに済むようにしているのだそうだ。
「もしかしてトイレ以外にも、家に関するいろんな種類のパーツがあって、そのパーツを組み合わせたら家は完成するとか……」
まさか前にいたところでいうところのプレハブを作る時のように、同じ住宅をいくつも作れるようなパーツが既に存在していて、複数個所で同時に同一規格の家を作ったり、パーツの配置だけ変えたりできるようなものが存在しているのかと、驚きつつも期待して僕がそれを口にすると、親方はそれを普通に肯定した。
「そういう家にしたいってんなら、そういう手もあるが、パーツは安くねぇぞ?確かに多少は加工もできるが、失敗したらそのパーツは使えなくなっちまう可能性が高い。そういうパーツは配置するためだけにあるもんだから、変なとこ削ったら壊れちまう。そもそもお前は自分と両親が住みやすい家を安く作るために自分で建てるんじゃねぇのか?」
親方の言う事はもっともだ。
でも僕には残念ながら建築の技術も知識もない。
だったらあるものを見て手札を増やしておきたいし、見た者を参考に僕がアレンジして作ったっていいのだ。
「そうですけど……。でも、今の話を聞いたらパーツにも興味が湧きました。一度見てみたいです。あと、トイレはパーツを使った方がいいならそうしたいと思いました」
「確かにそうだな。まぁ、パーツだってくっつける時にアレンジできなかない。自分で補強するパーツを作ればいいだけだからな。確かに煮詰ってんなら、あるもんを見るってのも参考になるかもしれねぇ」
そういうと親方は僕にパーツを販売している工房をいくつか教えてくれた。
どこもこの工房からそう距離のない場所にあり、子どもの僕の足でも一日で歩いて回れるところにある。
きっと僕は次の休日、この工房を回っているに違いない。
今からその日が待ち遠しいくらいだ。
「うちの工房で新築の家を受注する予定で、その家に合ったパーツがないか探している。合うものがあればできるだけ取り入れたいと思っているから見せてほしい。いいものがあれば俺に報告することになっている。そう言って見せてもらえば嘘はねぇ。お前が自分で建てるとか言うより信用されんだろうし、俺の名前だしときゃあ、押し売りされる事もねぇだろ。使えるもんは使っておけ」
最後に親方はそう言ってくれた。
僕がこの工房で働いている事は知っている人もいるかもしれないが、まさか成人もしていない僕が自分で家を建てようとしているとは誰も思ってくれない。
もしかしたら将来の顧客になるかもしれないと丁寧に接してくれる工房もあるかもしれないが、冷やかしだと思って追い返される可能性が高い。
逆にその話を信用された場合だと、相手は子供だと思って大人が取り囲んで無理矢理購入を迫られる可能性があるということだ。
確かに大男に囲まれて購入を迫られたら、僕に勝ち目はない。
いくら森の中を歩き回れるくらいの体力があっても、父親とは違い獣にすら勝てないのだ。
大男たちに素手で挑まなければならない状況にならなくて済むなら是非そうしたい。
だからといって高い買い物をするのに、実物を見ないというのはあり得ない。
当然、商品を見せてもらう必要はあるし、種類があるならできるだけ多くの商品を見せてほしいと思っている。
親方は安全に僕の希望を叶えるために工房の名前を使っていいというのだ。
工房が僕の盾になり、困った事があったら親方が間に入ってくれる。
正直迷惑ではないかと思ったが、僕は工房に一部を依頼し、借金をして家を建てるのだ。
そんな大きい買い物で妥協はできない。
「ありがとうございます」
だから僕は親方の言葉に甘えることにしたのだった。




