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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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答え合わせ

僕は模型の欠陥をしっかりと理解できたこともあり、喜び勇んで親方の元に向かった。

そして工房の中に入って親方を見つけると、思わず駆け寄って言った。


「親方!わかりました!」

「あ?何がだ」


急に声をかけられた親方は僕を見て眉間にしわを寄せた。

親方は僕が興奮していたのは工房に入ってくる様子から察していたようで底まで驚いた様子はない。

親方はというと、また兄弟子たちから何かされたのかと思って警戒していた。

けれどその当人の第一声が、わかりましたという言葉なので、悪い話ではないと密かに安堵しながらも、手を止めたのだ。


「これです!」


そんな心配にも気がつかないくらい高揚している僕は、倉庫から抱えてきた模型を親方の前に突き出した。

それで何が言いたいのか理解した親方は僕をじっと見て言った。


「そいつの欠陥がってことか」

「はい!」


僕の興奮した様子に、親方は若干驚いて顔を引つらせたが、すぐに、にやっと笑った表情に変わる。


「ずいぶんと自信満々だな。まあ、こいつの欠陥もわからねぇのに家を自分で造るなんざ無理だしな。お前の出した答えを言ってみな」


僕が出した答えをきちんと聞いてくれるらしい。

長くかかった宿題の答えをようやく提出できる気分だ。

僕はまず大枠の答えとなる部分を言った。


「はい。僕はこの構造だと排水できないと思いました」


すると親方は何かを見極めるような目で僕を見ながら尋ねる。

でもこれはただの質疑応答ではない。

きっとこの答えで僕の観察眼と本当に家を作る能力があるのかを問われるのだ。


「どこがだ」

「全てです」

「理由は」

「まず水を流す、排水の穴が底にないこと。でも親方なら排水できると分かったら、最後に底に穴を開けると思いました」


まず僕は気が付くきっかけとなった底板に穴がなかった事を理由に挙げた。

すると親方はうーんと唸る。


「底に穴がないのは、俺がしくじったことに途中で気づいたからってか。やっても無駄だから開けてねぇと。まあ、その通りだが、それだけじゃあ、正解はやれねぇな」


それはそうだ。

僕の今の答えは気がついたきっかけを答えただけ、穴が開いていない理由ではない。

だから親方が正解と言わないのは分かっていた。

ここからが僕が分解して確認した内容の正否が問われるところなのだ。


「もちろんです。それで僕は水場の構造を確認したんです」

「ほう?」


僕が模型を分解したと聞いて、親方は僕の答えに期待を持ったようで、笑みを浮かべた。

親方も僕があの模型を大事に扱っているのを何度も見ている。

もちろん、それを憧れの眼差しで見ていた事も知っている。

そして、僕が模型を移動させるのにも大事に扱っていて、分解しようとは考えていない事もお見通しだったはずだ。

その僕が今、この模型を分解したと告げたのだ。

しかもその模型は分解されたというのに、すでに元の形に戻されている。

つまり僕が分解して戻した、それだけの技術というか勇気と、家を扱うために必要な一歩を踏み出したと認めてくれたのだ。

僕はそんな親方の期待に応えようと、自分の思いついた答えとその解決法を説明した。


「確かに排水のための穴はありました。でも、位置が良くないです。水場の位置や大きさを変えられないなら、排水はもっと内側にしないと、穴を開けたときに水場の壁の下の方が削れたり弱ったりすると思います。あれだと壁伝いに水が流れていくことになりますから、仮に上手く穴を開けられたとしても、木材が腐って壁が削れてしまいます。あと、仮にこの材質の木材をそのまま使うことになるのなら、底に穴を開けようとした時点で縦の繊維に沿って底板が裂けてしまうような気がします」

「……」

「どうですか?」


僕の説明を聞いて黙りこんでしまった親方に僕は恐る恐る尋ねた。

自信満々に言ってみたけど、黙りこまれると自身がなくなる。

僕は一度過去に大人になった事はあるものの、基本引きこもりの小心者なのだ。


「正解だ。まずは底に使った木材、そして穴の位置。二つを一回で当てたやつは初めてだ。しかも代替案を二つ出すとは思わなかったな」


どうやら正解を出せたらしいことに僕はホッと胸をなでおろした。


「正解で良かったです……」


けれど親方は目を細めて僕を見て何か考えた様子でつぶやいていた。


「何と言うか、この年齢でこの観察眼、正確に欠点を言い当てるってーのは、何なんだろうな……。天才だからって事で片付けられるもんか?」


親方がぼそぼそ何かをつぶやいていたのを、僕は舞い上がって聞いていなかった。



親方がどんなに不思議に思っても、この職に就くにあたって報告を上げた段階で、申告している出生内容等に間違いがない事は確認されている。

だからどんなに子供っぽくない子供であっても、恐ろしい観察眼を持っていても、新しいものを開発しても、あいつはまだ見習いの子供であるはずなのだ。

現に入ったばかりの頃、工房の道具の使い方は理解できていなかったし、手先も子供にしては器用な方かもしれないが、見習いの職人には及ばなかった。

だから他の弟子たち同様、見て学ぶところから始めたし、簡単な作業からしか始めなかった。

倉庫の事件がなければ、まだ簡単な作業から卒業させていなかったと思うが、あの時は仕事に対して本当に人手が足りなくなっていた。

なので仕方なくギリギリ修正のできるところまでの作業を任せることになったのだ。

結果それは彼の技術を向上させたし、今ではその作業を安心して任せられるまでに育っている。

それでも今いる職人たちと比べたらやっとスタート地点に立ったレベルだ。

一方で倉庫の整理の方法が合理的だったりするし、知識が多いからか物覚えがよく、なぜか文字をよく理解しており、その辺の子供ではしないような変な気遣いを知っているという不思議な面を持っている。

その振る舞いだけを見ていると、大人なのではないかと勘違いしてしまうくらいだ。

どうしてこんな子供らしくない良い子になったのか。

彼の両親はとてもいい人間だが、それだけであのような子に育つ者だろうか。

自分が知る限り、例え貴族の子息として生まれながらに英才教育を受けても、同じ年齢であのレベルには到達できないはずだ。

おそらく彼に備わっているどれか一つを得られるかどうかだろう。

それを全て身につけている少年は何者なのか。

そんな自分の中にある、消えない疑問は、いつか解ける日が来るのだろうか。

親方は自分の出した課題の答えを持ってきた新人を見ながら、そんなことを思っていたのだった。

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