衛生面と関連設備
そして衛生面のメインとして僕が諦めたくないもの、それはトイレの手洗いだ。
トイレは組み取り式、いわゆるぼっとん式と呼ばれるものと仕組みはほぼ同じだ。
そうは言っても、仕組みの違いとかは正直、前世は水洗トイレが多数だったこともあって正直詳しいわけではない。
ただ、前のところでは穴の上にトイレがあって、そこに落ちたものを定期的に処理するため、専用の機械で吸い上げて運んでいたはずだ。
でもこの世界で吸い上げるような機械は見た事がない。
ただ似たような仕組みはある。
この世界のトイレは基本的に、汲み取り式と同じなのだが、大きな違いはトイレそのものが壁側の少し高い位置にあることだ。
そこまでは階段やスロープのようになっていて、そこを少し登らなければいけない。
そしてそこから落ちたものは、専用の入れ物のようなものに溜まっていく。
専用の入れ物の出し入れは家の外から行うのだが、この中身を例え家主でも勝手に処分する事は認められていない。
なんと中身を国に引き渡すのだ。
彼らは突然荷車を持ってやってきて。壁からそれ専用の入口をあけて、中身をスコップのようなもので回収していく。
荷車を引いた良くわからない人が突然来るので、最初は何かあったのかと思ったが、彼らは彼らの都合でやってきて、それらを回収したらすぐに去っていき、また他の家で同じ事をしていくのだ。
そうして荷台一杯に積んだものを馬や牛にひかせて森の奥へと去っていくのだ。
おそらく農地の肥料か何かとして有効利用されるのだろうが、僕はまだこの世界で農地を見た事がないのでわからない。
ただ、小麦製品であるパンや野菜が市場にあるのだから、当然それを育てている土地はどこかにあるはずだと思っている。
ただ、そういった事情で、定期的に回収してもらえるので、僕たちが処理をしなくていいのはありがたい。
ちなみに、トイレのあとの手洗いは桶に汲んだ水を置いているからそれを使う。
汚れたら取り替える程度なので水の交換頻度は低めだ。
できることなら、交換頻度を上げるなり、ここにも水甕と流しを付けて、常にきれいな水で手洗いができるようにしたいと思っている。
それと今のところ風呂というものの話を聞かない。
もしかしたら偉い人とかお貴族様のようなお金持ちならば、シャワーなどはなくとも湯船に浸かるような生活をしているかもしれないが、少なくとも僕の周りにそんなことをしている人はいない。
なぜならそれが贅沢だからだ。
飲み水の確保が優先されるし、無料で使える井戸があるとはいえ洗濯だって重労働だ。
風呂は洗濯の何倍もの水を必要とするし、本当に温かい湯船に浸かりたいのなら、その水を全てお湯にする必要がある。
木材を中心とした燃料となるものだって、森から伐採してこられるわけではないので購入しなければならない。
これがなければ料理などができないからだ。
そんなわけで、水も燃料もそんなことには使えない。
けれどさすがに体を全くきれいにしないというのは気になるので、僕で言うならば体を洗うなら川で水浴び、汚れを落とすだけでいいのなら体を拭くくらいだ。
そして僕は休みの度に森に行くので、増水していなければ川に入ったりもする。
ただ、小川ではない、それなりに流れの強い川なので、一人の時に間違って流されるような事になれば命に関わる。
だから本当は体ごと浸かりたいのを我慢しながら、浅瀬で手足を洗って、体は洗った布で拭き、頭は川に突っ込んで洗っている。
これも大事な節約方法なのだ。
ちなみに森を流れている川から水路を引けばいいのにと僕は思った事がある。
貯水池をつくってしまえば井戸からの汲み上げよりも楽になるし、そこを起点に水路を作れば上下水道設置に近付けるのではないかと考えたのだ。
ただ、ここに建つ家の構造を聞いてしまったら、それができない理由がわかってしまった。
それはこの住宅地、貧困かどうかは関係なく、巨大なクレーターだらけなのだ。
家の下はすべて穴。
そして土。
たとえ水路のようなものを作ったとしても、それを水が漏れないようコンクリートで固めるとか、石畳にして補強するとか、そういう技術と労力がない。
そうすると、家の近くの土に水分がしみ込んでしまい、おそらくだが水路の近くから側面が削れていき、家の下にある元々ある穴を広げることとなり、土の上にある板に支えられているだけの家は崩落してしまうだろう。
それなら雨の時はどうなのかとも思うのだが、常に流れて少しずつ削っていく水とは違うので、劣化はしても住むには問題ない程度なのだろうと思う。
それに親方は領主様が家をどけた後で土台を確認し必要なら補修するとも言っていた。
それは土が削れて橋のように乗せた時に崩れないかどうかを確認するということに違いない。
未だに領主様については分からない事が多い。
そういう能力がある人が選ばれるのかと思ったら、選挙は展示された模型で判断しての投票制だ。
そもそも、立候補している人たちがいるのか、推薦で代表にされているのか、その辺りも非常に曖昧で、もし立候補制度だとしたら、模型だけすごく良くて当選した場合、その人の代で家を建て替えるのは危険ということになるのかもしれない。
そうはいっても僕は候補者の顔も名前も知らないし、当然能力も分からない。
領主関連の事は僕の中の七不思議のようなものだ。
僕がこの街全体の事なんて考えても仕方がない。
自分の家ひとつ、形にすることができないのに、そんな壮大な妄想をしても仕方がないのだ。
そんなことができるのなら、家についてもっと妄想できたら、あとはそれに向けてどうするかを考えるだけなのに、そもそもの理想の家というのが妄想できない。
おそらく普段生活してしまっているせいで、どうしても現実のものとしてしか見られないのと、ここではありえない、おそらくこの世界では最上級になってしまうだろう一般の暮らしを僕が知ってしまっているので、この世界にそれらが存在しない時点で、当時の普通の暮らしに近付けることですら容易ではないと思って諦めてしまっているのが大きいだろう。
妄想しようとしても、頭の中ですぐにその考えを否定してしまうのだ。
そんな雑念のような事も考えながら、僕は新しい家に何を取り入れていけばいいのかを真剣に悩むことになるのだった。




