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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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土台と床下

僕がすっかり落ち込んだ様子でうつむいていると、親方は少し眉間にしわを寄せて言った。


「あー、まず、新築の家を建てる時、途中で領主に依頼するってのがどういうことかわかってるか?」

「え?」


僕が驚いて声を上げると、親方は再びため息をついた。

考え事をしていて急に声を掛けられたので驚いたのもあるが、親方の言っている言葉の意味は少し落ち着いて考えてもわからない。


「やっぱりそこからか……」

「すみません、よくわからないです」


やはり僕にはこの世界の常識が足りない。

無駄に違う世界の知識がある分、この世界の常識を常識として受け入れられていない部分があるのは間違いないが、きっとそれだけではなく、僕はどこかで彼らよりも自分の方が知識がある、多くの便利な文明を知っているし、ある程度ならそれを再現できると驕っていたところがあったのかもしれない。

確かに工房は僕が来てからトラブルが続いた。

それは僕がらみというか、僕が妬まれてのことも含まれている。

僕にそんなつもりはなかったけれど、僕が色々こなしていく様子を見た皆、親方も兄弟子も、そしてもしかしたら両親も、僕には何も教えなくてもいいと思ってしまったのかもしれない。

僕も周囲を見て覚えることに注力していたので、本当に分からないこと以外、こうして質問した事はなかった。

初めて新築の家が降りてくるのを見た時、もし父親が家のできる過程を知っていたら、自慢げに話してくれたかもしれない。

公開された家を見た時、その主だけではなく、きっと設計した人もいたのだから、庭をぐるっと回ってとかだけではなく、ちゃんと細かいところまで見ていれば、そういったことに気がつけたのかもしれない。



僕は今さらながら過去の自分の行動を振り返り、色々と反省しなければならないと実感した。

けれどここまできたら、呆れられようがどうであろうが、自分の力で自分の家だけは完成させなければならない。

これ以上の後悔をしないために後で聞こうとか、恥ずかしいという気持ちは全て捨てよう。

僕がそう決心したタイミングで親方は僕に言った。


「じゃあ、まず、お前が自分で家を作ったら、それを領主に預ける。そこまではいいな」


領主に作ったものを預けると親方は言った。

僕は何を作って預けるのか。

というか預ける物とは何か。

それもわからない。


「えっと……僕が作るのは……?」


僕がそうつぶやくと、親方はうーんとうなりながら頭をガシガシ掻いた。

けれど僕が本当に何も知らないのだと理解したらしい親方は、始めに戻って大まかな流れを説明してくれた。


「そこもか……。まあいい。細かい寸法のことは後で説明するが、まずお前がここで家を作る。サイズはこんなもんだ」


親方はそう言うと、両手を胸の前に持ってきてそのサイズを大まかに示した。

それはどう見ても手で運べる小さなサイズだ。

だがここで疑問を投げかけたら話が進まなくなってしまう。

親方も細かい寸法は後と言っているのだから、それは後で確認すればいい。

僕はそう考えて黙ってうなずいた。


「でだな。そのサイズで作った家を領主に預ける。ここからが領主の仕事だ。まあ、そもそもこの先を知ってるやつはあんまいねえがな。この仕事をするなら知っといた方がいいだろう。特に家を作るんならな」

「はい」


別に職人だからといって皆が完璧にその知識を持っているわけではないらしい。

けれど僕は家を作るのに知っておくべき知識なら教えてほしいと思って返事をした。

すると親方はそのまま続きを話し始めた。


「領主は家を預かったら、配置する土地にその家が設置できるのかを確認する。できなきゃもちろん作り直しだ。ちなみに領主は欠陥を見つけたら教えてくれるが、まあ、領主も人間だからな。欠陥を見落とすこともある。だから一人の目で確認したもんを領主に預けるのは危険なんだ。それでまぁ、今回の場合はお前が作ったもんを俺が、そして領主が確認すればいいだろうということだな。それで問題なさそうなら、当日は警報出したりなんなりしてだな、まず古い家を撤去、で、その後、撤去された家の下にある、簡単に言やあ、穴の状況を確認すんだ。それで問題なければ家を設置。その穴が家を設置して崩れそうなら補強してから設置。まあ、そうして家が無事にその場所に収まったら、領主の仕事は終わり。あとは家を請け負った工房の職人を中心に家の中に不具合がねぇか確認して、問題なければ終了。もし問題が見つかったら領主と家の主に報告して直す。大きな問題がなければ完了だ」


とりあえず自分が作った模型をベースに、領主様が家を建築してくれるらしい。

そして最後の仕上げは職人たちで、彼らが家を確認して完成させるのだという。

職人が入っていってというのは、父親から説明を受けていたので知っている。

領主様の仕事は僕にはできないので、一旦、その話はおいておくことにした。

僕が今一番知りたいのは、再び出てきた穴のことだ。


「家は穴の上に置くんですか?」

「ああ。だから家の床は穴よりでかくするのが最低条件だ。で、さっきの排水ってのは床に穴を開けて、水をそこから穴ん中に流せりゃいいってわけだからな。少しコツは必要だが、水を流すなんてのは、上手く流れるように最後に穴を開けていきゃいいだけだ」


基本的に水は上から下に流れていくものだ。

話を聞いた僕の中には、今まで気にすることもなかったひとつのことが浮かんでいた。

この世界の家の下には大きな排水を受けられるだけの穴がある。

そしてその穴が大きいからこそ、うちはあの状態を維持できているに違いない。


「だから浸水しないのか……」

「浸水?」


僕が思わずつぶやくと、親方が何を言い出したのかとぽかんとしたので、僕は慌てて説明する。


「えっと、家の雨漏りが酷いという話はしたと思うんですけど、その時、確かに水浸しにはなるんですけど、随分と水はけがいいなって思ったんです。多少の水たまりはできるし、柱の木くずとか落ちて来るんで、どうせ水浸しだしって水をまいて泥を落としたりするんですけど、掃除しているうちに床も乾くし、どんなに大雨でも家の中に大きな水たまりとかできなかったなって。気にしたことなかったんですけど、今親方に言われたことを考えたら少し理解できた気がします。きっと床に溜まった水も床の隙間から下に落ちていて、その穴が受け止めてくれているのでしょう」

「おう、そうか……」


改めて聞くと、雨漏りの話も壮絶だが、その後の話も微妙である。

親方としては渋い顔をせざるを得ないところだが、本人は吹っ切れたように明るい。

だから中途半端な返事になってしまった。

けれど僕はそんな親方の返事はきっと僕が正しい答えを導き出したからだと解釈していた。


「それに、床に穴を開ければどこからでも排水ができるってことは、どこに水場を作ってもいいってことですよね。とは言っても、今の話では家の中心に水をたくさん溜めて置いたら危険そうだし、結局壁に近いところにはなってしまうと思いますけど」

「それはそうだな」

「ありがとうございます。参考になりました」


僕が頭を下げると、親方は急に心配そうに言った。


「そうか。まぁ、なんだ。すっきりした顔してっから大丈夫だとは思うけど、あんま根を詰めんなよ。仕事に影響するようなら給料下げなきゃなんねえからな」


給料のことを言われた僕は、慌てて仕事に影響させないことを約束した。


「それは困ります。でも、今、すごく考えるのが楽しくなってきた気がします!頭が冴えてきたというか……。だから大丈夫です!」


僕は親方にお礼を言って頭を下げると、工房を後にした。

今は早く家に帰りたい。

そしてこの考えは何とかまとめたい。

終業後、親方は僕への説明のために時間をたくさん割いてくれた。

これは最後のチャンスかもしれないし、親方がまだ僕に期待を残してくれているかもしれない。

どちらにしても僕は親方の期待に応えたい。


「水はけのいい家なぁ。そりゃ少し危険な気もするがな。まあ、土台や床が危険なら歩いただけで沈んだりするだろうから、それがないうちは大丈夫だろうが、そりゃ、床に穴がいているってことだろうが……」


親方は僕を見送った後そんな心配をしてくれていたらしいが、とりあえず僕は家の排水と家の土台についての考え方の違いが少し理解できたことで、また一歩進めるような気がしていた。

だから親方にさらなる心配をかけることになっているとは考えもしなかったのだった。

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