表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/261

休み明けの朝

休み明けの朝。


「おはようございます、親方……」


倉庫に向かう前、工房に顔を出した僕が挨拶をすると、親方が不思議そうな顔でこちらにやってきた。


「どうした?昨日は休みだろ。休み明けに何でそんな疲れてんだ?」

「疲れているというか……時間が長く感じたというか……」


午前中、家で手伝いをしていて滑り出し順調だった僕は、午後にぐったりしてしまった。

家族は休みだと知っているから、僕が転寝をしてしまっても起こしたりはしない。

だから、休めたには休めたはずだった。

けれど普段寝ない時間に睡眠をとってしまった僕は、夜中に目を覚ましてしまった。

そして目が覚めたので、その日に感じた色々な事を消化するために頭を使ってしまった。

そうして気が付いたら朝になっていたのだ。


「なんだ、普段休まねーから、休み方がわからなかったってか?」

「はい」


親方が冗談めいたように言った言葉に僕は素直にうなずいた。

本当にその通りだ。

正に家でどう過ごしていいか分からなくて、変な気を使ってしまったし、慣れないことをしたせいで生活リズムが狂ってしまったのも事実だ。

ただ、それは昨日一日の話で、今朝は無事に出勤できたのだからすぐに戻るだろう。

僕はそう思っていたのだが、親方は何やら考え込んでいる。


「おい、それは良くねぇやつだな」

「え?」


僕が親方のつぶやきを上手く聞きとれず聞き返すと、親方は頭をガシガシと掻いて続けた。


「で、お前は家で何をしてたんだ?」

「親方の言う通り、一日家にいました。でも何もしないのも気が引けたので、水汲みとか、洗濯とか、手伝いをしてしまいました」


僕が家にいないで井戸に行ったりしてしまった時間があると話すと、親方はため息交じりに言った。


「いや、それくらいは別に構わねぇが、森にも出てないんなら、普段よりやってることは軽作業だろう。お前その後に何かしてたんだな?」


親方は僕が森に行っているのは基本、採集のためだと思っているのか、朝から森に入って、夕方に捕獲したものを持ち帰っているイメージなのだろう。

僕からすれば井戸の水汲みも、家との往復もそれなりの重労働だったが、もしかしたら、それは普段僕がやっていなかったからそう感じるだけなのかもしれない。

意識して考えてみれば、家でも工房でも、僕はすでに甕に組まれた水を使っているだけだ。

でもそれは誰かが毎日補充してくれているものということになる。

そのことに気が付いた僕は、水汲みのことには触れないことにした。


「家のことをしていたら、アイデアがたくさん出てきて、それを考えていたら朝でした」

「……そうか。まあ、発見があったのは良かったじゃねーか」


親方のアドバイスのおかげで、家のアイデアが具体的になってきて、一歩進めた気がしている。

そして具体的になったことで、それを実現するにはどうしたらいいのかを考えられるようになったが、その結果、多くの不明点や課題にもぶつかっている。

だから僕は親方にそれを伝えた。


「はい。昨日一日、親方に言われて家で過ごしたおかげで、見えていなかったものがたくさんあったってわかりました。あと、わからないこともたくさんありました」

「わからないこと?」

「はい。水を運ぶのが大変なことも改めて体感したし、排水はどこに行くのかとかも僕は知らないし、家の設備も何となくしか見てなくて、あのままだったら足りないものだらけで、本当に倉庫になるところでした」


家具を入れる倉庫、昨日一日、家で見てきて、僕がもし親方に指摘されずにそんな家を建ててしまっていたら、今の家より生活しにくくなっていたかもしれない。

見た目はきれいでも中身のない、そんな家。

きっと外から見たら新築の素晴らし家だろう。

あの地区では明らかに浮くくらいきれいな建物になるのは間違いない。

でも外側がどんなにきれいでも、家族は家の中で生活をするのだ。

親方から倉庫と言われたこと、その日の家での生活について考えているうちに、僕は前の世界の学校の体育館や公民館に避難している人の様子を思い出した。

確かに雨漏りや隙間風はなくなるから、それだけでも快適といえばそうなのだろうが、僕は別に家で避難所生活のようなことをしたいわけじゃない。

確かに最低限の生活はできる。

でもそれは一時的なものだと思っているからであって、どんなにきれいに管理されていても、そんな環境では休まらない。

避難所の場合は、同じ空間に他人がいるということもあるが、もし仮にそうでなかったとしてもきっと同じだ。

その考えに到達した今なら、きちんと家について考えられる気がしたのだ。

僕が感謝を伝えると、親方は僕の言葉の一部に何か引っかかりを覚えたらしくぼそっと何か言った。


「排水なあ……」

「親方?」


その言葉を聞きとれなかった僕が親方に声をかけると、親方は僕の方を見てにやっと笑った。


「いや、何でもねぇ。今のお前ならわかるかもしれねぇと思っただけだ。とりあえず、考えがまとまったら教えてくれ」

「はい!ありがとうございます」


そうして親方への挨拶を済ませた僕はいつも通り倉庫へ向かったのだった。



彼を見送った親方は、大きくため息をついてつぶやいた。


「それにしてもあの年で休み方がわからねぇとかなぁ。遊んだりはしてんだろうが、貧困地区の子どもはみんなあんな感じなのか?」


採集日に休みをぶつけている自分が言うのも何だが、あの地区は大人から子供までが働いてようやくあの暮らしということは知っている。

けれど彼らが、休み方もわからないような暮らしをずっと続けているのかと思うと、少し心の痛む部分があった。

それは親方が彼を基準に考えてのことだが、おそらく他の家庭も似たようなものだろう。

多かれ少なかれ、子どもは家の手伝いをするし、貧困地区の子どもの方が早く職を求めて面接を受けていることは知っている。

それは彼らにできることが少ないからで、単純労働の仕事しかできず、そういう仕事は倍率が高いからでもある。

そんな彼らもきっと採集日に仕事の休みを合わせてもらって休んでいないに違いない。

だからといって彼らも同情されることなど望んでいないだろう。

親方は倉庫の方にちらっと目をやって、一旦その考えを落ち着かせると、再び仕事に戻るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ