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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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自宅観察

洗濯が終わって家に戻ってきたらすでにお昼の時間を過ぎていた。

思ったよりも時間が経っていたし、考え事をしながらではあったものの、自分が考えていた以上に水を何度も運んでいたらしく、椅子に座った途端、どっと疲れが出た。

そのため母親はすぐに食事の支度を始めるが、僕と父親は慣れない仕事をしたせいか、すでに少し疲れ気味だ。

だが、こんなことで疲れている場合ではない。

僕は本来の目的を果たすべく、座ったまま調理をしている母親の様子を伺った。

煮炊きはかまどで、上に鍋を乗せて燃料を入れて燃やしている。

鍋は数少ない鉄のような金属でできているもので、母親の嫁入り道具として先祖から受け継がれたものらしい。

それだけこの世界では金属は貴重なものということだろう。

食器やへらなどは全て木製、陶器っぽいものも見当たらない。

ちなみに燃料となる木や葉は採集の時に拾ってくるだけでは足りない。

だから、市場で購入している。

市場の木材は国から許可を得て販売されているらしい。

販売許可を持つ業者が安く国から買い上げ、それを売ることで利益を上げているのだそうだ。

ちなみに燃料用の木材は安いが、不格好で空洞があるようなものばかりのため、大きくても工房の資材としては扱えない代物だが、空洞がある分、空気を含みやすいので燃えやすい。

ただ、ちりも積もればとはよく言ったもので、燃料用の木材も使いすぎれば家計を圧迫する。

だから時々、森から燃料になりそうなものを持ち帰るし、それが暇な子どもの手伝いの一つでもあった。

以前、危うく作りかけの簾がかまどの餌食になりかけたのもそのせいだ。



ちなみに今、その簾にはさっき洗ってきた洗濯物が乗せられている。

空気の入りやすい状態で広げて置けているので、日が沈むころまでには乾くだろうと思う。

けれどいつまでもこんな危ういものに頼ってもいるわけにはいかない。

そこでようやく僕の頭は水回りから離れたところに移った。

もし場所が許すのなら、洗濯物を干すような場所を作りたい。

広くなくてもいいが、どこかの世界での言葉を借りるのなら、物干し台や物干し竿をひっかけられるような、ベランダのようなスペースを常設しておけば、いちいち空いている場所を探して濡れたものを引っ掛ける必要はなくなる。

決められた場所に干せばいいだけだ。

それに水回りの近くであれば、洗ってすぐに干すことができるし、もし干そうとした際に落として汚してしまったりしても、近くに水があればそこですぐに洗い流すことも可能だ。

仮に家で洗うことになった場合、少量をコツコツ洗うことになるが、家の洗い場はそんなに広くない。

けれど手近なところに物干しがあれば、一つずつ洗って、洗い終わったものを干していくという方法も使えるようになる。

そう考えるなら、干場は風通しが良くて屋根がついている洗い場の近くが理想だ。

僕の頭の中には真っ先に、集合住宅にあるようなベランダや、一軒家がちょっとおしゃれに見えるルームバルコニーのようなものが浮かんだ。

だが、ベランダやバルコニーに水場があったかと考えると、ほとんどの場合はない。

一軒家だと庭の水やりのため、外に水道を付けている家もあるが、それを使っても少し干場からは少し距離があった気がする。

もちろんそれは用途が違うから仕方がないのだが、もしこれを実現したいのなら、台所に物干しを設置するか、水場を二つにすることを考えなければならない。

僕はそれがいい考えなのかを吟味するため、一旦、この考えを眠らせることにしたのだった。



そうして午後は親方の言葉通り、ずっと家にいて、のんびりというより疲れを取りながら過ごすことになった。

観察しなければと思っていたのに、途中で何度も夢の世界に誘われてしまった。

その間もそれとなく拭き掃除や夕飯の支度を進めている母親がとても目に付く。

僕はその動きなどもできるだけしっかりと観察するつもりだったのだが、その記憶が微妙に歯抜けになってしまった。

けれど今頭の中にあるものを整理した時、その抜けた部分がどうしても必要なら、別の休みにもう一度、その部分を補てんすればいい。

それにすでに午前中だけでたくさんの改善点を見つけることができた。

それを改善できるような設備を新しい家にできるだけ入れたい。

まずはそこからだろう。


「今日はとても助かったわ。だけど、親方の気遣いは無駄になってしまったわね」


午後からほとんど手伝いをせずにぐったりしてしまった僕を見て母親は申し訳なさそうに言った。


「そんなことないよ。充分ゆっくりしたし、何もしないのってそれはそれで苦痛だからさ」


家の手伝いをしながら改めて生活する場としての家を見ると、今まで当然だと思ってきたことがそうではないとわかった。

特に水回り、これは使うだけの僕からすれば面倒だと思うくらいだが、運んでくるのは重労働だ。

この世界に水道のような上水は存在していないけれど、何とか楽ができるような仕組みにしたい。

僕が母親に笑顔で答えた後、急に考え込んでしまったことで表情が深刻な感じに見えたのだろう。

母親が僕を心配して僕に声をかけたが、先に答えたのは父親だった。


「まあ、本人がそう言ってるんだ、いいんじゃないか?」

「父さんの言う通りだよ。僕が自分でやるって言ったんだから」


僕が父親の言葉に賛同すると、母親は疑いの目を向けてきた。


「それならいいけど……。疲れが溜まって、仕事に影響を出したから言われたんじゃないかって気になったのよ。だって、この子、あなたと違って、仕事が疲れたとかちっとも言わないものだから……」

「そういやそうだな」


僕は気を遣わせまいとそういう言葉を使わなかったのだが、それは却って不自然だったようだ。

そして十年以上、一緒に生活していて、二人は自分の子として見てくれているのに、無駄に記憶の残る僕は、育ててもらっていることに恩を感じてしまうし、どうしても気を遣ってしまう。

本当の親子なら、不要なはずのことをしているのだから、何を言われても仕方がない。


「僕のことは気にしなくて大丈夫だよ。疲れたらちゃんと言うから」

「わかったわ」


とりあえず本人である僕が疲れを感じたらちゃんとそう伝えるし、無理をするつもりはないと笑顔で伝えると、母親もそれ以上は突っ込めない様子でうなずくのだった。

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