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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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晴れた日の休み

そうして迎えた休みの日。

僕は親方に言われたこと通り、休みの一日を家で過ごすことにした。

いつもの僕は天気の良い休みの日、ほとんどを森で過ごしている。

森へ行って、材料として何か使えるものはないかと探したり、お腹が空けば木の実を食べたり、たくさん実っているのを見つけた時はそれを持ち帰って家族にも提供していた。

ちなみに採集日ではない日は、大人がいないので森の奥には入らない。

自分で門まで走って逃げられるところをうろうろしているだけだ。

僕が朝食を食べてからも出かけないことを両親は不思議に思ったらしく、何かあったのかと心配そうに父親が尋ねた。


「今日は天気も悪くないのに森にいかないなんて珍しいな」


そう尋ねられた僕は、親方から家のことを知るために家で過ごすようにと告げられたことを素直に伝えるか悩んだが、何か違う気がして別の理由を伝えることにした。


「うん。今日は一日家にいようと思うんだ。親方にそう言われて……」

「親方に?」

「休みの日にちゃんと休息してないように見えたみたいたいで、気にしてくれたんじゃないかな。僕の休みはたいてい森で何が探してたり、それを元に何か作ったり、採集日だったりするから……」


僕の行動内容に嘘はない。

採集日には毎回欠かさず参加して、荷物を運んだり果実の採集をしたりと一日手伝いをしているし、それ以外の休みで晴れている日は森に行って試作品の材料を集め、その後はずっと机に向って何かを作っている。

両親は何かを作っていることは理解しているが、内を作っているかまでは理解していない。

ただ、工房に持っていって親方に見てもらいたいからとだけ伝えているので、仕事のために必要なことをしているのだという認識はあるはずだ。

父親は僕の言葉を聞いて思うところがあったのか、少し困ったような表情を浮かべた。

どうやら僕の考えた言い訳によって、自分もきちんと監督していなかったと責任を感じさせてしまったようだ。

それを理解して少し申し訳なくなったが、今さら後には引けないし、全くの嘘ではないので、とりあえずそのまま話を進めることにした。


「確かにそうだな。それで、一日家で過ごすのか」

「そうしてみようかなって。でもいつもと違うから落ち着かないんだ」


僕が休みの日に家にいるのは雨の時だけだ。

雨の日は家の中が水浸しにならないよう、天蓋のようにしている布の水を絞ったり、雨水を色々な容器を使って受け止めて、それを水甕に移したりする作業を行っている。

雨水をより多く水甕に移せればその分、井戸に水を汲みに行く必要がない。

だから雨の日は、家の中でやらなければならないことが多く、どうやって過ごすかなど考える暇もないのだ。

今回も家の設計を考えるために観察の必要があるという名分がなければ、おそらく親方が何を言っても、せっかく晴れているのに家にいるなんてしなかっただろう。



正直、晴れの日に家で過ごすなんてどうしていいか分からない。

僕がそう言うと、父親は笑って言った。


「そりゃそうだろうな」

「だから、家の中でできるお手伝いとかしようと思う。親方も一日寝てるようにって言ってたわけじゃないし」


家で過ごすようにとは言ったが、寝ていろという意味ではない。

ゆっくり過ごすようにという意味は多少あったと思うが、親方は家のことをもっとよく観察しろといった。

それは普段の生活のことを知らなければ、僕の目指す両親の喜ぶ良い家にたどり着けないからだ。

それならば僕が、家のことを体験するのが一番早い。

それに何より、お手伝いをしていれば暇を持て余すようなことにはならないだろう。


「そりゃあ、母さんが喜びそうだ」

「あら、何の話?」


ちょうど父親が母さんという単語を口にしたところで、母親が洗い物を流しに運び終えて戻ってきた。


「今日は一日家にいるから、母さんの手伝いをするって言ってるぞ」

「本当?じゃあ、力のいる仕事は今日やってしまおうかしら?じゃあ、早速だけど水汲み、手伝ってちょうだい」

「わかった」



そうして僕は、母親と一緒に井戸にやってきた。

公共の井戸なので、いつもそれなりに人がいるが大半が女性だ。

そして女性たちが交互に水を汲みあげながら雑談に興じ、情報を交換する場でもある。

正に井戸端会議が行われるところなのだ。

僕も母親が目を離せないような幼い頃、母親が僕を背に背負っていたくらいの時はここで話を聞きながら市場の安売り情報などを一緒に聞いていた気がする。

そして、働くようになってから、僕はここに来ていないとことに気が付いた。

つまり僕は自分が自由に動けるようになってから、家の手伝いをまともにしたことがなかったのだ。

確かにこれでは生活に必要なものがわからないのは当然だ。

僕は少し反省しながら、その分、たくさんの水を汲んで持ってきた入れ物に入れると、こぼさないようしっかりと抱えた。

母親もいるのでそれなりの量を一度で持ち帰ることができる。

この水を家の甕に移すまでは油断できない。

僕はなれない水運びに苦戦しながら、母親は僕の見ていないところで毎日のようにこの作業をしているのかと思うと、少し申し訳なくなった。

出かけている時、僕は森で果実などを食べ、川の水を飲み、家の食料をできるだけ使わないようにすることで家に貢献できていると思っていた。

けれどそれはその日の昼だけのことで朝も晩も家でご飯を食べているのだ。

だから僕も家の水は使っている。

それなのにこの作業はほぼ初めてだ。

次からは晴れた日の休み、森に行く前に一往復でもいいから水汲みをしてから出かけよう。

僕は密かに心に誓った。



そんなことを考えながら、僕は水をこぼすことなく無事、水甕に水を写し終えることに成功した。

一往復でこんなに神経を使うのかとぐったりしつつ、とりあえず終わったので安堵したその時、水甕の隣にある流しが僕の視界に入った。

今のところ、この世界で水道というものは見たことはない。

水は基本的に共同の井戸から汲んで家に運び、うちの場合は大きな甕があるのでそこに水を溜めておき、それを使う。

うちの甕は流しにあるので、基本的にきれいな水は甕から大きい柄杓のようなものですくって使うことになる。

ちなみに川の水も飲めるくらいきれいなので、それを運んできても使える。

そうすれば井戸のように汲みあげなくてもいいのだが、距離があるので運ぶのは大変だ。

そこで僕は今まで当たり前のように使っていた流しの存在が少しおかしいことに気が付いた。

改めて考えると、上水がないのに下水があるというのは不思議だ。

水道はないのに、なぜか流しはあって、そこで洗い物をして水を流すと、その水は下のどこかに消えていく。

そこから水が溢れてきたり、逆流してきたりしたことは一度もない。

もちろんゴミなどを流すようなことをすれば詰まってしまうことはあるのだろうが、液体はずっと流し続けている気がする。

ちなみにトイレは別の作りになっているので、流しの下水とは関係ない。

この水はどこに行ってしまったのか。

上下水道のある生活が当たり前の環境から来てしまったせいか、この世界の基本的な構造が理解できていない。

きっと家を作る時は、下水のことも気にしなければならないに違いない。

僕は早速一つ、重大な発見をしたのだった。

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