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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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家と倉庫

僕はとりあえず欲しい設備から目をそらすように、再び間取りにだけ注力することにした。

最初に考えた必要な家具を収める、もしくは備え付ける、もし材料が余るのならそれで家具も作る。

家具だって別に必ずしもあるものでなくてはならないわけじゃない。

ベッドなら布団を置いて寝られるだけの機能があればいいし、机だって僕が作業台に使っている小さいもので充分だ。

食卓だけは皆で囲みたいからちょっと大きいテーブルが置けたらいい。

そう考えるとやはり最初に考えるべきは、寝室とリビングということになる。

僕が頭の中で悶々と考えていると、その様子を見た親方が楽しそうに笑いながら話しかけてきた。


「何だ、随分悩んでるようだなぁ」

「親方……」


声を掛けられて僕は思わずうつむいた。

あれだけ大きなことを口にしておきながら何も進んでいないなんて、気まずくて言えない。

けれど僕の行動で親方はそれを見抜いたらしく、やはりがははっと大きな声で笑った。


「どうせ、いいもんにしねぇとーとか考えて、抜け出せなくなっちまったんだろ?」

「はい、その通りです。よく分かりましたね……」


親方には敵わない。

ばれているのなら隠しても仕方がないので、僕は顔を上げて親方を見た。

すると親方は笑うのを止めて、頭をガシガシとひっかいた。

それから僕の表情がよほど思いつめたものだったのか、親方は急に僕を心配し始めた。


「いや、お前は真面目だからな。そんなこったろうと思っただけだ。で、どんなことを考えたんだ?」

「え?」

「いや、悩んでるってことは、何か浮かんだものくらいあるってことだろ?」


親方は僕が今、悩んでいる内容をそのまま説明するように促した。

親方が僕の考えをどこまで見抜いているのか分からないけれど、いいアイデアが浮かんでいないことは察してくれているし、ここで僕の考えを聞いてもらってアドバイスをもらうのが賢明かもしれない。

僕はどう説明するか少し悩んで、自分がどうやって家のことを考えようとしているのかから説明することにした。


「……そうですね。家に何が必要なのかって考えたんですけど、浮かんだのは家の中にある家具ばかりで……」

「家に必要なものねぇ。そりゃあ、家具は必要だろうが……」

「でも、家具って家ができてから中に入れなければならないものですよね。だから、その家具が入るような間取りにしないとって思ったんですけど、まとまらないんです」


僕は真剣に部屋ごとにきれいに家具を収めて快適な部屋を作りたいという思いを込めて説明したが、親方は思うところがあったらしい。

それは次に親方の発した言葉が物語っていた。


「……お前、家は家具のためにあるのか?」

「え?」


親方の言葉の意味がわからず僕は思わずぽかんとした。

親方はそんな僕を見て、眉間にしわを寄せる。


「今のお前の考え方だと、出来上がるのは倉庫だろ」

「倉庫?」

「お前、今ある家具を入れるために、それが収まる建物を造ろうとしてるんだよな。それは倉庫と何が違うんだ?もし考えがあって、その家具がどうしても必要で、それを入れる事を優先するってんだったら、倉庫みたいな形にして丈夫な外枠と高い壁で完成じゃねぇえか。部屋を仕切るような壁も収納もいらねぇだろ?むしろない方が好都合ってなもんだな。家具を自由に置けるし、障害物になる壁がない分、移動も簡単だ」


僕は親方の説明を聞いて、その説明通りの家にした場合を想像した。

確かに外枠と屋根があれば、隙間風のない、雨漏りのしない家にはなる。

僕が考えていた家具を配置するのも自由だ。

けれどそう考えた時、すぐに足りないものがある事に気が付いた。


「いえ、それは……。水回りとかは付けたいと思ってますし」


僕が倉庫に家具を配置するだけでは水回りのことができないと言うと、親方は大きくため息をついた。


「そんなもん、壁側にいくらでも付けられるだろ。今ある倉庫にだって、使えないようにしてるだけで、手洗い場はあるぞ?」

「そうなんですか?」


ずっと倉庫を片付けていたのに、僕はそこに水場があることを知らなかった。

使えないように、見えないようにしているだけらしいが、毎日通っていれば気付きそうなものなのにそんなことにも気が付かなかったなんてと僕が衝撃を受けていると、親方は言った。


「もし工房が大きくなって人が入りきれなくなったり、広い作業場が必要な作業が発生した場合に使えるように倉庫は設計してあるんでな」

「そっか。さすが親方ですね」


今でも充分、この辺りでは大きい工房だが、親方は人手が必要になった時のことを考えてちゃんと倉庫でも作業をできるようにと考えていたのだという。

僕ではそこまで頭が回らない。

きっと倉庫は倉庫、水場は水場、工房は工房としっかり使い分ける事を考えて終わったに違いない。

僕は思わず感心して親方を見た。

だが親方はそんな僕を見てため息をついた。


「でだ、お前は家を倉庫にしたいのかって話だな」

「そんなつもりはないです」

「そうだろう?新しい家には、家具じゃなくて人間が住むんだろ。お前たち家族が」

「そうです」


僕が親方の質問に即答すると、再び親方は頭をガシガシと掻いてから言った。


「じゃあ、その考え方は止めんだな。……お前は言われた通りにしそうだから、あんまりこういうのを教えるのはよくねぇと思ったんだけどな、ヒントくらいはやった方がよさそうだ」

「はい!お願いします」


親方から考え方のヒントがもらえると聞いた僕が気合を入れて返事をすると、親方の提案は予想外のものだった。


「次の休み、お前、出かけないで一日、家の中で生活してみろ」

「え?」

「そうすりゃあ見えてくるもんもあるだろう。それで生活しながら自分が、家族が家の中にある、何を使っているのかをよく観察するんだ。よく使うものほどその家に必要で、あまり使わないものは家に置かれていようが不要なもんだ。家はそこで生活する人間のために造りゃあいいんだよ。いつ壊れるか、使わなくなるか分からん家具のことなんか気にしてどうすんだ」


言われてみれば確かにそうだ。

どこかの世界で生きていた時、もし仮に引越しをすることになったら家具はどうしたか。

きっと家に合わせて買い替えるなり、使えるものだけ使って後は処分したりしていただろう。

だが、この世界では貧乏暮らしが長かったのでどうしても今あるものを大切にしなければならないし、全て持ち出さなければならないと僕は考えていた。

けれどもういつから使っているか分からず、何度も雨風にさらされた家具など、いつ壊れてもおかしくない。

奇跡的に頑張ってくれているが、それらだっていつかは使えなくなるのだ。

だから使えなくなるものに合わせるのではなく、そこに住む人間に合った家というものを考えなければならなかった。

それは僕から大きく抜けていた視点だった。


「わかりました。やってみます」


とりあえず僕は、家のことを考えるのは一度うちの生活をしっかり観察してからにすることに決めた。

確かに親方の言う通りだ。

僕は自分が新しいものを作ろうと外にばかり目を向けていて、中のことはほとんど知らない。

それは両親が家の中のことをうまく回してくれているからで、その中に僕はいなかった。

そこにいない僕は、家のことなど何も知らないのだから、その家に必要なものなど考えても理解できるわけがない。

その時、両親が僕の助けを必要としていないという言葉の意味も同時に納得できた。

どちらも当然のことだったのだ。

今までのことは僕の独りよがり、そして両親はそれを受け入れてくれているだけ。

これでは僕が両親の役に立つなんて程遠い。

だからこれから僕は、家と、その生活と真剣に向き合わなければいけないのだと悟ったのだった。

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