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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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別居という選択肢

結局父親は快く僕が家を建てることを許可してくれた。

次はずっと僕たちの話を聞きながら渋い顔をしている母親だ。

父親の手が僕の頭からどけられるのを待って、僕は母親に尋ねた。


「それから、これは母さんにも聞きたいことなんだけど」

「なあに?」

「親方の話によると、もし本当に家を作ることになったら、僕のお給料が最低で数年分消えてしまうって言うんだ。今まで働いて使わなかった分を全部支払いに当てて、僕ができるだけ自分で作れるところを作ったとして、それでもそのくらい……。そうなると、少し助けになれると思ってた生活費を支払いの間、ずっと入れられなくなっちゃうかもしれない」


僕が深刻に告げると、両親は顔を見合わせてため息をついた。

そして先に口を開いたのは母親ではなく父親だった。


「何だ、そんなことか」

「父さん?」

「子供に家計のことまで心配されるとは……。まぁ、元々お前の稼ぎを当てにするような生活はしてない。そんなことは気にする必要ないぞ?」


僕がお金を稼ぐようになって、両親に少しは楽をしてもらえていると思っていたがそうではないらしい。

そしてちょっと当てにもされていないのかと思うと、この年から働き始めた僕としては少しへこむ。


「そうなの?」

「ああ。違うか?」


そんな僕をよそに父親は何事もなかったかのように母親に話を振った。


「違わないわ。だってあなたからもらったお金はほとんど手を付けていないもの。でも、さすがにお給料日はねぎらってあげたいから、少しそこから使わせてもらって食事におかずを一品足してるけど、それ以外は、何かあった時のためにとってあるのよ?うちは確かに苦しい生活をしているけれど、渡されたお金はあなたが一生懸命働いたお金だもの。だからできるだけ手をつけないで預かっておいて、この先まとまったお金が必要になった時に渡すつもりだったの」

「父さん、母さん……」


最初は僕の稼ぎが役に立っていないのかと落ち込みかけたが、使わなかったのは当てにされていなかったという話ではなく、僕への愛情からだったとわかって、思わず感極まった。


「だから何も心配しなくていいわ」

「そうだぞ。俺が働けるうちはな。お前一人くらい養ってみせるさ」


二人が僕に何も心配いらないと声をかけてくれる。

だから僕の決意やより強固なものになった。

確かに父親が働けるうちに始めた方がいい。

父親に何かあったら僕が二人の生活を支えるために働かなければならない立場なのだ。

無理をするなら今しかない。


「うん。わかった。ありがとう。じゃあ、僕は親方に家を作りたいって伝えようと思う」

「そ、そうか……」


父親はさすがに了解したとはいえ、僕がすぐ親方にその話をすると聞いて驚いた。



家を建てる了解を得たところで、僕は親方からあったもう一つの提案についても報告をしておくことにした。

もしこの話をしないまま、後でこの条件の方がよかったと言われては困るし、それによって機嫌を損ねて欲しくない。


「あと、他にも親方からこんな提案があったんだ。必要ないと思うし、多分断ると思うって親方には伝えたんだけど……」

「何だ?」

「工房にある住み込み用の住居に引っ越してきてもいいって言われたんだ。家族にも来てもらっていいって。でも、工房だと父さんの仕事がしにくくなっちゃうだろうから……」


さっきの話で、すでに父親にはぎりぎりまで、少なくとも僕の借金返済が完済されるまでは頑張ってもらわなければならないことが確定した。

だから生活環境が良くなるとはいえ、仕事がしにくい場所に引越しをしようなどと勧めることはできない。

それに僕自身がこの家に、この場所に、思っていた以上の愛着を持っているということに、親方と話して気が付いてしまった。

でも、もし二人が良い環境での生活を希望するのなら、僕はそれを優先すべきなのではないかと思ったのだ。


「それはそうだな。でもそれならお前と母さんだけが工房の住居に行くって選択肢もあるんじゃないのか?」

「え?」


僕が思わぬ提案に驚いていると、父親が続けた。


「俺は森に行くのが仕事だ。だからこの場所のほうがいいし、庭で肉も裁かなきゃならない。その住み込み用の住居というのは工房の近くとか、工房の中とかにあるんだろう?もし場所が借りられるとしてもそこまで獲物を運んだりするのは大変だ。だから俺はここに残る。でも、二人だけでもちゃんとした家に住めるんなら、何も一緒に苦労しなくたっていいんじゃないか?」


僕の提案に対して、父親はまさかの別居を提案してきた。

確かに倒産の言うことにも一理ある。

皆で体を壊しそうな、そしていつ崩れるか分からない、環境の悪い家に、何も皆でいる必要はない。

家族が離れるのは寂しいが、子どもの僕が毎日歩いて通うことのできる距離だし、会おうと思えばいつでも会える。

それに家で誰か一人でも生活していれば空家として扱われることもないだろう。

だから父親は、自分が残って家を守るから、二人は少しでも良い場所で生活して欲しいと言っているのだ。



父親の提案に真っ先に異を唱えたのは母親だった。


「そんなことしないわ。私はここで暮らすわよ。でも、あなたは別よ。工房の住み込み用住居に入れば通うのも楽になるし、ここよりずっといい環境で生活できると思うの」


母親は父親と共にここで暮らすという。

父親と母親にとっては知らない場所、知らない人たちと暮らすことになるのだから、デメリットの方が大きいのかもしれない。

だが僕はそもそも従業員だし毎日通う手間が省けるというメリットがある。

それにここを往復する時間も含め、ゆっくり休む時間も取れるだろうし、何より環境がこの家よりはるかに良いものになる。

けれど別居することなどそもそも想定していなかった僕は混乱した。


「そんな……。僕は父さんと母さんと暮らすことしか……」

「そうだな。でも家を建てるんだろう?それまでっていう考え方もあるぞ?何も皆で苦労を背負う必要はないんだ」


僕だって余計な苦労を背負う人は一人でも減る方がいいと思うし、皆で背負うなんてことは望んでいない。

でも、僕の感情が二人との別居を拒否していた。


「だけど……」

「まあ、せっかく親方が提案してくれたんだ。一人で住むという選択肢もある。それも含めて考えてみなさい。返事は急かされてないだろう?」

「うん」



本当はこの後、どんな家にしたいか、どういう設備がほしいか希望を聞いて、そんな夢のような話をしたいと思っていたのだが、思わぬところで話が逸れて終わってしまった。

両親からすれば新築の家は夢物語で、僕が工房の住み込み用住居に入って生活するという方が現実的と考えたのだろう。

もしかしたら、家のことは冗談で、本当は僕が両親に、工房の住み込み用の住居に入るのを勧めたかったと捉えられてしまったかもしれない。

僕はこの話をしたことを少し後悔したが、僕が黙っていることで両親の選択肢を僕が減らすのは間違っていると思ったのだから、言い出したことは間違っていないと思い直すことにした。

そして、僕は決めた。

新築の家を本気で作る気なのだと両親に示そう。

そのためにできるのは、具体的な案を提示すること。

こういう家を考えている、足りないものはないか、欲しいものはないか、そうして両親の希望を取り入れた家を模索しよう。

僕はそこまで考えをまとめて今日は寝ることにした。

やりたいことはたくさんある。

考えなきゃいけないこともだ。

だけど、今の状態で良い案を出せるとは思えない。

空回りするのが目に見えている。

家のことも、工房の住み込み用住居への転居のことも、急ぐことじゃない。

それにしても、両親が僕だけで、なんて言い出すとは思わなかった。

父親に関しては森での仕事のことがあるから、断ることになるとは思ってた。

だけどまさか、僕だけでも、母親と二人だけでも快適な暮らしをなんて、考えなかった。

でも、今の両親は、僕の意見を尊重して、大事にしてくれている。

そう考えたらどんなに貧しくても、今の僕は恵まれている。

だから僕は家族を幸せにしたい。

もう寝るのだからと、何度も考えないようにと努力したが、その夜はそのことが頭を離れなかった。

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