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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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新築の相談

親方と話をして決心を固めた僕は、家族の揃った夕食の席で話を切り出すことにした。


「父さん、母さん、相談があるんだけど」

「どうした?改まって」

「僕、どうしてもやりたいことがあるんだ」


僕の真剣さが伝わったのか、父親も母親も真剣な眼差しを僕に向けた。


「そうか。何がしたいんだ?」


すぐに父親が話を聞く姿勢を見せてくれた。

ちゃんと聞いてくれるのなら、細かい説明ではなく、先に何をしたいのか明確にしたほうがいいだろう。

だから僕は簡潔に、最初の一言でやりたいことを告げた。


「家を建てたい」

「は?」

「何を言い出すの?」


僕の現実的ではない話についていけないと二人の目が点になった。

まあ、それは想定の範囲内だ。

けれど二人が何も言葉を発せないのなら、説明するのは今しかない。

二人が我に返ったら、きっと即座に反対されてしまい、話を聞いてもらえないだろう。

だから僕は真剣に、両親が言葉を挟めないくらいの勢いでしゃべった。


「本気だよ。前に雨漏りを直そうと思って天井に登ったのに直せなかったのは、子供の僕の体重ですら支えられないほどに、この家を支えている柱がダメになってるから、僕が作った簾を、あんなものですらつけようとしたら軋んじゃう、そのくらいこの家は限界なんだ。だから最初は補修して何とかしたいと思ってた。それで親方に相談したんだ。それでうちの状況を話したら、修繕するより建て直した方が安全だって言われたんだよ」


僕が肩で息をするくらい頑張って話したからか、僕が話し始めてから程なく、すぐに正気に戻ったらしいが、僕が頑張っているからと最後まで話を聞いてくれていたらしい。

僕がひとしきり話し終えると、父親がため息をついて言った。


「わかったから、とりあえず落ち着け。言いたいことはわかる。けど、新築の家なんて……」

「そうよ、今の生活ですら精一杯なのに、家を建てるなんて……」


僕の思った通り、やはり現実的ではないと二人は判断したようで、あまり好感触ではない答えが返ってきた。

やっぱり家より生活が優先、普通に考えればそうだ。

食べるものも、着るものも、できれば父親は仕事の道具だって良いものにしたいはずなのに、それを妥協している。

不健康でも非効率でも、そうしなければならないのがこの家の現状なのだ。

だけど僕はどうしてもここで許可が欲しかった。

親方が言うように、先延ばしにしてこの二人に何かあったらと思うと気が逸る。

仮に今から始めたって時間がかかるのだ。


「実は今日、親方に家を建てるにはどうしたらいいのかって聞いてみたんだ。もちろんお金もかかるし、時間もかかる。できるところは僕が作ることになる。だから今すぐってわけにはいかないけど……」


僕がすぐではないという言葉を発したからか、父親は僕が思い付きだけで話しているわけではないし、説明をしていた時よりも冷静になっていると判断したのだろう。


「……そりゃまぁ、本当に家を建てるってなったら一生もんだからな。それから何代も使い続けることになるだろうし、どんな家にするのか決めて、依頼もしなきゃならないし、完成したら領主様の力も借りなきゃいけない。費用だって単純に材料だけじゃ済まないぞ」


さすがに家を見るのが好きで、家主から色々話を聞いているだけのことはある。

父親はこれから僕がやらなければならないことをざっくりと言ってのけた。

その内容は大まかには親方から聞いていてものと同じだったので、僕は一度うなずいてから、親方が協力してくれる話を追加した。


「そうみたいだね。親方も領主様のことは言ってた。でも、そこは親方が知り合いだからなんとかなると思うって。でも最初の問題は家を作る費用なんだ」

「まぁ、確かに家もできてないのに、その先のことを心配いても仕方ないとは思うが……」


そもそも家族でどんな家に住みたいのかということすら話し合っていない。

今日の僕が進められるのは、二人の許可を取る、もしうまく話が進めば要望を確認するところまでだと思っていた。

ただ僕は何が何でもやり遂げるつもりでいた。

本当なら一人で全て決めて話を進めてしまおうと思っていたくらいなのだが、そこに待ったをかけてのは親方だった。

僕の納得できる、僕が勝手に考えた二人も喜ぶ家を考えようとした僕に、一緒に住む人の意見は聞かないのかと。

そのことを思い出した僕は、一応その話を二人にすることにした。


「何でこんな話をしてるかって言うと、親方にその話をしたら、まず両親に相談しなさいって言われたんだ。両親が守ってきた家なんだから、勝手に建て替えるのはどうなのかって」

「義理堅い親方さんらしい話だな」

「だから僕は父さんと母さんに確認しようって思ったんだ」

「そうか」


親方がそう言ったと伝えると何か納得できることがあったのか、父親は何度も首を縦に振った。

母親は僕の話に乗りそうな父親の反応に少し困惑した様子を見せたが、僕はこのまま押し切ってしまおうと決めて続けた。


「まず、父さんと母さんは、もし費用の心配がなかったらこの家を新築の家にしたい?」

「そりゃあ、できるもんならそうしたいが」

「そうね、雨漏りも隙間風もない家に住めたらいいと思うわ」


突然の話だからか、新築の家では当然起こり得ないような、ごく当たり前の希望を母親は言った。

それを聞いて、改めて僕はこの環境は生活するのに適さない環境なのだと痛感したし、過去の世の中で引きこもりとして、雨風を通さない家に当たり前に居座っていたことが本当は恵まれていたのだと少し心が痛んだ。

けれど感傷に浸っている場合ではない。

強引でも僕は話を進めておきたいのだ。


「あと、父さんは、僕が家を建てることに反対する?」

「なんで俺なんだ?」

「だって、この家の家長は父さんでしょう?だから……」


家を管理している人が父親だからという意味でそう言ったのだが、父親は少し違うように捉えて言った。


「ああ、そういうことか。親方は俺の家長としてのプライドみたいなもんを気にしたんだな。たまにいるからなぁ、子どもに先を越されたとかってトラブル起こしているやつ。新築の家を見に行くと、たまに親が乗り込んできてたりするんだよなぁ」


どうやら子どもが親よりも先に家を建てたりするとトラブルになるらしい。

詳しく聞いたところ、家を建てるというのが若者の場合、結婚などを機にとか、親元を出たいからという理由があることが多いのだという。

けれど子どもが独立すること自体はいいが、その環境が自分たち親よりもいいということを許容できない心の狭い親がいるのだという。

結婚などの場合は双方の親、もしくは相手の親が援助したりする場合もあるので問題にはなりにくいが、子どもが自分の力でそれを成し、親がそれを成せていない場合などは、親としてのプライドが許さないらしく、文句をつけに来ていることがあるのだという。

新築には大体見学会があるので、完成直後、家の周りには多くの見学者希望者がいるのだが、そういう親はそれを無視して乗り込んでくる。

そしてその声は大きいので、そこにいる人たちの耳には嫌でも入ってくるそうだ。

親方もそのことを気にしたのかもしれないが、僕は今ここで言われるまでそんなことは考えもつかなかった。


「そうなんだ……。じゃあ、父さんはどうなの?僕が家を建てたら、その家で一緒に住んでくれる?」


僕が家を建てたいのは独立したいからではない。

両親と安全な家に暮らしたいからだ。

僕がそのことを強調すると父親はその言葉に感動したらしい。

急に僕の方に手を伸ばしてくると、頭をくしゃくしゃと撫でた。


「当たり前だろう!むしろ完成することにはお前が嫁をもらって、俺たちはこのままこの家にいなきゃならんかもしれない気もするが……。お前のその気持ちだけで充分嬉しいぞ」

「父さん、ありがとう」


僕は頭にある手を振り払うように首を横に振りながら、父親の嬉しそうな顔をちらちらと見たのだった。

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