日用品の分析
森の採集日に参加したことで僕が外に出るようになったことが分かると、同じ地区に住む子供たちはすぐ仲間に入れてくれた。
もちろんその中には採集の時に僕によくしてくれたお兄さんたちもいる。
この貧困地区は子供が少ない。
若者は金を稼ぐために住み込みで手稼ぎに出てしまうためだ。
ここにはそうした若者の仕送りで生活している人が多い。
だから子供の遊び相手となるのは子供しかいないのだ。
そして何より、お金がないから子供も森に採集に行くし、親が同じ仕事をしていてこの地区に住んでいるということは、僕も彼らも同じ境遇というわけで、何とも言えない仲間意識のようなものが芽生えるのはよくわかる。
そして子供たちが仲間に入れてくれたことで僕の行動範囲は格段に広がった。
まず、塀の外に出るのは……意外にも簡単だった。
通行証も許可も何も要らずに出入りができる。
それは子供だけでも同じだった。
僕が聞けばこの塀は戦に備えているというよりも、近くの森に住む獣たちに街を荒らされないようにするためのものだという。
門番は門の開け閉めと、獣を追い払うのが主な役目で、有事の際は別の担当が駆けつけるそうなので、もし獣に追いかけられたらこの門に向かって走ってくれば彼らが対処してくれるというのだ。
ちなみに森で獣に襲われた時、ベースに逃げるのと同じように、門に向かって声を上げながら走った方が、何かあった時に助けてもらえる可能性が上がるそうだ。
父親は通行税の話も教えてくれたが、門番は子供にその情報は必要ないと判断したのだろう。
その代わりに森で何かあった時の対応を教えてくれた。
門番の話で分かったことは、一人で森に出かけるのなら、自分が全速力で走って門まで逃げられる距離を行動範囲にすれば、何とかなるということだ。
他の子供たちもそれは理解しているのか、門からあまり遠いところに出かけることはない。
遊び場を求めて森へ行くため、子供だけで声をかけると、門番は子供が出られる幅に門を開いてくれる。
「いってきまーす」
子供たちが手を振りながら森に向かって歩いていくと、門番はいつも笑顔で見送ってくれた。
「気をつけてな」
「はーい」
そして子供たちが出たのを確認するとすぐに閉めるのだ。
森に出た子供たちは僕に知っていることをたくさん教えてくれた。
小さな洞窟や、登りやすい木、河原の浅瀬など、子供目線でしか必要のない情報かもしれないが、どこに何があるのか覚えていて損はないし、何より目印になるものが多い。
森で道に迷うようなことがあったらこれらを頼りに帰り道を探すことができるだろう。
大人と遊ぶことが少ないので、もしかしたらこの地域では子供たちが、子供である間に次の世代に情報をつないでいるのかもしれないと僕は思った。
そして、僕もいつか、こうして森で遊ぶ子供のうちに後輩ができたら、ここで教えてもらったことを後輩たちに伝えようと決めたのだった。
そんなある日、父親が狩った動物を台車に乗せて戻ってきた。
いつもと違うのはその台車の上に壊れた狩りの道具が乗せてあることだ。
「すまん、また刃が折れちまった。コイツは仕留めたんだが、こうなっちゃ、コイツは使えないな」
無事に動物を仕留めて帰ってきた父親が、折れた破片と棒に結ばれた銛のようなものを交互に見ながらボヤいた。
「まあ、仕方がないわ。厚みのある丈夫なものは高いもの。これでよく仕留めてきたと思うわよ」
母親は感心しながらそう言ったが父親はよほど悔しいのか、口をへの字にしている。
僕はそんな父親に声をかけた。
「ねぇ、それ、もういらないの?」
「これか?棒はまだ使えるから使うぞ」
父親は動物の脇に置かれている棒を手にしながら言った。
一方の僕は台車に残された鏃の欠片を指さす。
「こっちだよ」
「先のほうか。使わないが、危ないぞ?この部分で動物を刺して殺すんだ。使い方を間違えたら怪我をする」
割れて原形をとどめていないとはいえ、この世界で刃物として使われていたものである。
僕は父親を安心させるため、元気よく答えた。
「大丈夫だよ。いつも父さんがやってるの見てるから。これで小さいの作れるかやってみたいんだ。僕も皆と森に行くようになったし、皆、こういうの持ってるんだ」
子供たちは森で遊び道具を調達する。
だが、全く道具を持っていないわけではない。
何度も森に遊びに出かけている子供たちは、親からこのような鏃の欠片など、ポケットに入るような小さな刃物を持ち歩いている。
これで森で取った果物に亀裂を入れて割れやすくしたり、遊びに使うツタなどを切ったりしているのだ。
それを知ってか、父親は深く追求することなく欠片をくれた。
「わかった。怪我だけはしないでくれよ」
「うん」
僕は台車に乗せられた鏃の欠片を集めて手に乗せると部屋に戻った。
そして一人になったところで割れて二つに別れた欠片をじっくりと観察する。
僕の見立てでは、どうやらこれは安物だけあって、尖った石の上に溶かした鉄をまとわせて形を整えたもののようだ。
芯が脆いものに表面がメッキ加工されただけのものを、狩りで割るなという方が無理だろう。
僕はそんなことを考えながら、これをどうにか再利用できないかと考えていた。
幸いこびりついた鉄は欠けた状態だが、鋭利な部分を残している。
形を整えることができれば、狩りはできなくても、細かい作業用のナイフくらいにはなるかもしれない。
石も研いで形を整えられるのなら、矢の先にでも付けて使い捨てにすればいい。
そこまで考えてふと思った。
そういえば、この世界でまだ弓を見ていない。
狩りをする文化がありながら、飛び道具を使わないとは不自由ではないのか?
そう思う反面、もしかしたらうちに使い捨ての道具を買う余裕がないだけかもしれないという考えも浮かぶ。
どちらにせよ、僕はアイデアを形にする方法を考えなければならない。
安価で、家族の誰もが使える簡単なものがいい。
とりあえず狩りに使える便利なものを作りたい。
弓というところまで整っていなくていい。
紐に縛って勢いよく叩きつけて刺すなり、勢いよく振り回してぶつけるなりして落とすことができるようにすれば、小動物や鳥くらいなら取れるのではないだろうか?
何が必要になるかまとまったら、森に材料を調達に行こうと僕は頭をフル回転させるのだった。




