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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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引越しの提案

僕がどのタイミングで新築の家作りをスタートさせるのか、いつ両親に話せばいいのか悩んでいると、親方は別の提案をしてきた。


「あと、家のことだけどな。うちの住み込み用の住居を使ってもらうってのもあるぞ。だが両親にもプライドってもんがあるだろうしなあ。難しいかもしれんけどな、お前が働いている間なら、そこで家族で一緒に生活してくれて問題ねぇぞ?」


僕は驚いて思わず目を丸くした。

それは僕が全く考えていなかった提案だった。

僕が黙りこんだので考え事をしていることくらい察しはついていただろうけど、目を丸くしたのを見て、そんなに驚かせたのかと親方は少し反応に困っている様子だ。

だがこの答えは慎重に出さなければならない。

申し出その者はすごくありがたいものだし、どこかの世界のように、引越しも移動も簡単にできるならばこの話を前向きに検討するだろう。

けれど、親方の言った通り、両親のプライドもあるし、ここで家から離れるとこの先どうなるのか見当がつかない。

そもそも引越しをすることは考えていなかったのもあるが、この世界で人が土地から離れたらどうなるのだろうか。

土地は売れるのか。

それは収益になるのか。

それで両親が一生楽に暮らせるだけの利益を得られるのなら、僕が働いている間は一緒に暮らしてもらい、僕がお金を貯めて土地を買い戻せばいいとも思う。

その間に人手に渡ってしまったらとも思うが、そもそも貧困地区の土地を好んで買おうという人はいないだろう。

だがそもそも、この世界に土地を管理するような記録などは存在するのか。

改めて色々考えるとまだまだわからないことだらけだということを思い知らされる。

でも僕はあそこにいて、多くのことを学んだからここにいる。

どんなに貧しい人の集まる地区でも、皆、人がいい。

僕は彼らの人の良さに救われて、前のように引きこもりにならずにすんでいるんだと思う。

だから引越し先が歩ける距離であっても、僕はあの土地からできるだけ離れたくないと思ってしまった。

あとは父親の仕事に影響が出る。

ここは今の家より森から距離がある。

森での狩りの後、ここまで運ぶのも大変だし、運んだとしても動物を捌かなければならないが、あの血なまぐさい作業を工房や住居スペースでやるわけにはいかない。

だからといって父親にここに引越すからという理由で転職してくれとも頼めない。

とりあえず自分のことはあまり言わず、当たり障りのない答えをまとめると僕は口を開いた。


「ありがとうございます。でもさすがにそれは……。それにあの地区で働くなら、やっぱりあそこにいるべきだと思うんです。僕はともかく、父に他の仕事をしてほしいなんて頼めません。僕もあそこの皆からたくさんのことを教えてもらいましたし」

「まあ、長年住んだとこなんだ、愛着もあるだろうけどな、お前の話を聞いてると何かなぁ……」


親方は僕の考えを見抜いたのだろう。

すぐに愛着があって離れられないことを読み取られてしまった。

だから僕は、自分の思いを隠すことなく親方に話すことにした。


「確かに家はボロボロです。住んでる僕でもちょっと危険を感じる時があります」

「それじゃあなおさらだ。俺は見たわけじゃねぇから、お前が危険だというなら危険なんだろうってことしかわかんねぇ。けど危険だとわかってんなら、そこに長く執着するべきじゃねぇ。執着したが故に大事なもんを失うかもしれねぇぞ」


親方は真剣だった。

僕に家への愛着より大事なものがあるだろうと言う。

おそらく親方が言っているのは家が倒壊する可能性のことだろう。

毎日そこにいて、何となく住めてしまっているから大丈夫なように感じていたが、確かにあの家はいつどうなるか分からない。

もし人がいる時に倒壊したら、倒壊しそうになってから家を離れようとして逃げ遅れたら、家族の誰かの命はないかもしれない。

僕は親方に言われて、思ったより深刻な事態なのかもしれないと考えを改めた。


「そうですね……。でもそれなら新築の家に早く建て替えをするべきだと思います」

「いや、けどなぁ、あそこに新築は目立つだろう?いっそ新しい土地を探すってのも考えたらどうだ?」


親方は新築の家を作るのなら、ついでに貧困地区ではない場所に引越すことをそれとなく提案してきた。

やっぱり僕はあの場所を離れたくない。

親方にあの土地を離れることを提案されて完全に自覚した。


「そうですね……。でも貧困地区一番のボロ屋が、一番の新築になるだけです。あの家はあそこまで耐えたんだから、充分ですよ」


僕がはっきりそう言うと、親方はそれ以上の提案はしてこなかった。



「しかし、親が元気なうちに息子が家を建てるとはなあ」


しかも借金して家を建てるということは、お金を返し終わるまで工房を離れない覚悟ができているということだ。

仕事をしているとはいえ、子どもがこんなことまで考えるのかと思いながらも、その心意気は大事にしたいと、親方は感心しながらもそれを口に出さずに代わりに唸り声を上げた。

けれども僕はてっきり親方が親の面子を気にしているのかと勘違いしていた。


「大丈夫です。もし本当に面子を気にするなら、そもそも工房への就職だって認めてくれなかったと思うんです。でも父は、僕がやりたいならって、僕以上に頑張ってやりたい仕事につけるようにって探してくれたんです。それに……」

「何だ?」

「父は新しい家を見るのが好きなんです。それはいつか自分もって思っているからだと僕は思ってます。だから僕は、そんな父の願いを叶えてあげられたらと思っています」


僕はこうして子どもが親の願いを叶えたいという夢を語ったのだが、親方はやっぱり唸り声を上げると、頭をガシガシ掻いた。

親方からすれば、僕はやはりできすぎた子供で、この件でも少し違和感が残ったらしい。

けれど今まで年齢や経歴を詐称していないか調べても、何も出てきていない。

ただ、できすぎた子供であるため、いい子を演じて無理をしているのではないかと感じて気になっていたのだ。


「とりあえず、家のことは親とよく相談するこった。お前がいいと思っても両親が住みにくいんじゃあ喜んでもらえねぇ。違うか?」

「そうですね。まずは両親に親方に自宅を中途半端に改修するなら新築の方がいいって言われたことを話して、それから、新築ならどういうのがいいか希望を聞いて、それを作ると僕のお給料が何年も入ってこなくなるってことも言わないと」


僕が両親に許可を取る内容を説明すると、親方はうなずいた。


「ああ、ますはそっからだろうな。反対されたら止めるんだろう?」

「はい。今の家長は父親なので、僕の一存で勝手に家を建てることはできません」


僕が即答すると、親方は大きく息をついた。


「じゃあ、とりあえずじっくり話し合ってきな。安い買い物じゃあねぇし、下手すりゃあ一生もんだ。お前のやりたいこたぁわかったし、何となく急ぎたい理由も分かった気がする。けどな、急いで結論を出さなきゃならんもんでもねぇ。始めちまってから途中で止めても、材料費なんかの赤字はかぶることになんだ。そこまで考えて決めなきゃならんからな」

「はい。じっくり相談したいと思います」


親方は始まったら中断はできないし、中断しても材料費はかぶることになるのだから、始めるならそれだけの覚悟をするようにと強調した。

だから僕も、その覚悟があることを両親に話して納得してもらわなければならないと理解してうなずいた。

僕の返事を聞いて、きちんと両親と話し合うというのだから、即決することはないだろうし、しばらくかかると踏んだのだろう。

親方は、本当に建てることが決まったら、その時、改めて相談するようにと言った。


「決まったらまた言ってくれ。そんときゃあ、見積もりからしてやる」

「わかりました。お願いします」


僕はそう言って親方に頭を下げた。

そして早く帰って両親を説得しようと決意した僕は、工房を出ると、その日はまっすぐ家に帰ったのだった。

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