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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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見積もりの基準

僕が黙り込んだので、説明を終えたと判断した親方は、僕とは違う意味で色々考えてくれていたのか、しばらく無言だった。

だが、思うところがあったのだろう。

先に沈黙を破ったのは親方だった。


「まあ、ちと、領主にでも相談してみるか」

「親方がですか?」

「まあ、今の領主は顔なじみだしなあ。そんなんで大事な弟子とその家族が怪我をしたりしたんじゃ、寝覚めが悪い」

「ありがとうございます」


僕の話に同情したのか親方は領主にまで相談をしてくれるらしい。

新築の家をあんな簡単に設置した領主様なのだから、もしかしたら何か知恵を貸してくれるかもしれない。

僕が期待を込めてお礼を言うと、親方は現実的なことを聞いてきた。


「で、建て替えできないとして、何をどこに設置すれば、残りは自分で直せると考えてんだ?難しいのは高くつくぞ?」


親方は僕がお金をかけられない事を察して安く済ませられる方法を考えてくれるらしい。

だから新築ではなく修繕で済ませられるのかと聞いてくれている。

でも僕には見積もりをするのに必要な情報がないし、何が難しいと判断されるのかが分からない状態だ。


「あの、費用ってどう計算すればいいんですか?」

「ああ、まあ、それは交渉次第なんだが……領主が設置する場合は警報が出るからな、警報出すだけなら定額だ。パン一個分くらいで済む。問題は技術、撤去、設置だ。仮に現物を用意したとしても、設置が難しいものは高い」

「あの、安く済ませる方法は……?」

「そりゃあ、まずは現物を自分で作ることだな」


僕がストレートに聞くと、親方はあっさりと答えた。

現物というのは家のことだろう。

それは確かに自分で作れば安くなるに違いない。

でも、今の僕の力でどのくらいの機関があればできるのか想像がつかない。

親方が手伝ってくれるとはいえ、年単位で考える方がいいだろう。

もしかしたらそうして作っているうちに僕の腕も向上するかもしれない。

だが、今は費用全体を把握したい。

だから僕は内訳を知りたいと質問を続けた。


「じゃあ設置を安くするには?」

「そこは交渉だ。例えば、デカイのを狭いとこにはめ込むのは難しいだろう?あとは、細かいものを扱うのも神経を使うよな?」

「はい」

「まあ、つまりはそういうことだ」


言いたいことは理解できるが、それが家や領主とどう関係しているのか良くわからない。

でも親方にそう聞いてもそういうものだという答えしか返ってこないに違いない。

だから僕は具体例を挙げながら親方にアドバイスをもらった方がいいと判断した。


「例えばですけど、柵のようなものを建物の周りに置くとしたら、どうなりますか?」

「建物との距離と空き地の広さによるな。撤去しないで建物の近くにってのは、かなり面倒だ」


家の周りに高い塀のようなもの、もしくは丈夫な柱がたくさんあればそれを使って梁を渡すなり、今の家を支えるなり、新しい屋根を作るなりすればいいのではないかと考えたのだが、確かに建物の近くにそのようなものを建築するには技術が必要だ。

前に生きていた世界ならできなくはなかっただろうが、それでも足場を作るためのスペースなどが必要だったはずで、僕の家の周りにそのような広さがあるのかと言われたら微妙だ。


「じゃあ、かぶせるというのは?」


僕が前に見た新築の家は上から降ろされた。

上から降ろすように設置されるのがこの世界の常識ならば、家を囲うように箱の蓋をかぶせてしまえばいい。

そんなイメージでアイデアを伝えると、親方は顔を引きつらせた。


「採寸間違えたら、下にある建物が潰れて大惨事だ。下の状況が見えない設置なんて受けたくないだろうな。潰れた際の保証や撤去をなしにするか、保証する代わりに高くするかだ。俺なら断るぞ」

「そうですか……」


家そのものを保護する家が必要なレベルなのだと親方は理解したのか、親方はうなり声を上げながら頭をガシガシとかいた。


「そんな酷いんなら、一番いいのは建て替えだな。話を聞いてると、未熟でもお前の現段階の技術で作ったものを設置した方が、今よりまともなもんになりそうだ」

「え?僕が作れるんですか?」


親方の言葉に驚いて聞き返すと、親方はまたうなってから、あいまいな回答をした。


「そうだな。できそうな気はするが……」

「じゃあ、材料を手に入れて僕が作れば、費用は警報代、撤去代、設営代だけで済むということですか?」

「ああ、それはそうだ」

「作ります!親方、教えて下さい!」


僕の食いつき具合に親方は驚いていたが、熱意は伝わったらしい。

親方は大きくため息をついた。


「そうだな。お前、腕は悪くないんだ。コンペ前に自宅の改修するやつはなかなかいないが、実績にはなる。まあ、うちの工房で受注する案件だ。お前ができないところは俺がやってやればいいってことならいいだろう。お前だけでやって、数日で家が壊れたってんじゃあ、工房の名誉に関わるからな」

「ありがとうございます!」


僕が小躍りしそうなくらい喜んでいると、親方はそれを制した。


「ただな、一度親に相談してからにしろ。家のこともそうだが、本当にやるんなら、そこまで節約しても数年分くらいは給料なくなるからな?」

「数年ですか……」


僕は給料の大半を手元においているが、それを家にも入れている。

僕が給料を持って帰る日なんて食事が豪華になるし、少しは家計の助けになっていると思う。

それをまったく入れられなくなってしまうのだ。

両親がどのくらい僕の給料を当てにしているかはわからないが、払えなくなるのなら、親方の言う通りきちんと話をした方がいい。

そして親方はさらに追い討ちを掛けるようなことを言った。


「それから、材料いいもん使えばもっとだ。それなりの覚悟が必要だな」

「わかりました……」


今すぐに新築の家を作るのに取り掛かればローンが確定、返金の方法は僕の給料からの天引き。

貯金をしてから取り掛かるとしたら数年後。

でも想定外の出費などがあったら後回しになってしまう。

それ以前に、僕が貯金をする数年、あの家が建っていてくれるかどうかはわからない。

何かあってからでは手遅れだし、そもそも今から作ると言っても、すぐに完成するわけではない。

だったらすぐにでも取り掛からなければならないのではないか。

僕は再び頭を悩ませることになるのだった。

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