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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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自宅の改修相談

再び兄弟子の不満が親方に向かっていたことも、親方が兄弟子を説得していたことも知らされることがなかったため、僕はいつも通り言われた仕事をこなすだけの日々に戻っていた。

兄弟子と最低限の会話しかないことはいつものことだし、特に挨拶に返事がなかろうと、必要な情報さえ伝えてもらえて、自分の作業が妨害されるようなことがなければ特に支障がないと判断して気にもしていなかった。

親しく話しかけてもらえることは減ったけれど、嫌みな言葉を言われることも減っていたので、僕としては関係は改善したものと思っていたくらいだった。

正直、僕の見えないところでは何か言われているのだろうなとは思っていたが、元は引きこもり、見えないところのことなど気にしても仕方がないとその辺は割り切っていた。

そうして数ヶ月、仕事に専念し、安定したお給料を手にした僕は、次の目標を考えようと決めていた。

もちろん給料を貯蓄していくつもりなのだが、何をするのにいくらかかるのか、僕にはまだよく分かっていない。

だから、その件について親方に見積りをお願いしようと思ったのだ。



「親方、相談があります」

「お、何だ?」


仕事の相談、すなわち僕が何か新しいものを考えたのかと少し期待をした目を向けられたので、僕は少し申し訳なくなって声を落とした。


「あの、仕事のことではないのですが……」


僕の声が小さくなったので親方は僕が期待したような話をするわけではないとわかったのだろう。

それでも親方は、がははっと笑って快く受け入れてくれた。


「ああ、何でもいい。お前が相談してくるなんざ、珍しいことだからな。遠慮するこたぁねぇ。話してみな。また何かされてるって感じでもなさそうだしなぁ」


僕の口調から兄弟子たちには関係ない話であることは察しがついていたらしい。

何も知らない僕はいつも通り過ごしていたので、兄弟子との関係に変化がないと肯定してから、本題に入ることにした。


「はい。それは特に何も……。実は、今の家が生活するのにかなり苦しい、というか、危険な気がするので、何とか少しでも快適に過ごせるように改装したいと思ってるんです。でも、相場とか全然わからないし、親方に見積りとか、相場とかを教えてもらえないかと思いまして……」


僕が要件を言いきると、親方はまたがははっと笑ってから言った。


「なんだ、仕事じゃないって言いながら仕事の話じゃねぇか。見積もりと言われてもだなぁ、俺はお前の家を知らんしなぁ。どんなことをしたいのかを聞いて、どんくらいの費用がかかるのか考えてやるくらいしかできんぞ。本当に見積もりすんなら正式な依頼がないと受けられん」


本格的な見積もりをするのはやはり手間がかかるのだろう、さすがに親方もそこまではできないという。

僕としては相場と、どのくらいの期間、どのくらいの費用で修繕ができるのか、それが分かれば充分だ。

それが分かれば、その金額を目指して蓄えていけばいいし、どのくらいでその金額に到達できるのか目星が付く。

どうせ最初にやるべきことは貯金になるのだ。


「ありがとうございます。とりあえず、どこを修繕するのにいくらかかるのか分かれば、あと何カ月給料を貯めたらどこが直せるか分かるので、それで充分です」

「そうか。まあ、話してみな。役に立てるかは分からんがな」

「はい」



僕は親方に促されて、今までどのようなことをしてきたのかを話すことにした。

最初は雨漏りを防ぐ方法がなくて、一番濡れなそうなところに家族で集まって布をかぶったりして雨をしのいでいたこと。

僕が森に行くようになって、小枝などで少しでも隙間を埋めようと考えたこと。

親方からすれば、僕の話した生活環境が、思っていた以上に悪いものだったのだろう。

親方は僕たちが工夫しながら何とかしのいでいるという現状に真剣に向き合い、話が進むにつれて確認と称し、色々聞いてくれた。


「そういやお前、昔に何か、変わった布団干し作ったんだったな」

「そうですね……本当は違うものに使うために作ったのですが、僕が、シーツを乾かすのに使ったら、それがメインになってしまっただけですが……」

「そうか。じゃあ、本来の用途は何だったんだ?」


細かい隙間を埋めていくのも、板を買うのも難しいのならと、木の枝をたくさん拾ってつなぎ合わせて、板の代わりに使えるようにと考えて簾を作ったのだ。

けれども完成品は想像以上の重量だったし、下見をしようと上ってみたら僕が長く作業するのも危険な状態だった。

他にも方法はあったかもしれないが、あの時の僕では無理だった。


「本当は家の雨漏りを直したかったんです。でも、柱を登ってみたら、とてもそれを渡せるような状況じゃなくて、僕の作業中とか、乗せた後とか、天井や屋根が落ちるかもしれないと思ったので、さらに別の使い方をしたんです。その後、シーツを乾かすのに使ったら、それが定着してしまったのがそれです」


それを設置する前に雨が降ったので、ベッドの周りに家具を置いて、その上に簾を立てて置き、その上に布をかけて天とのようにしてその夜の雨をしのいだこと。

そして翌朝、その簾を家具から下ろして濡れたをかぶせて一緒に乾かしたら早く乾いたのを見て、母親が布団を置いて干すのにも使うようになったこと。

そして、僕が屋根の確認しようと柱を登ったら、僕が作業できる状態ではないくらいボロボロになっていたこと。

僕は自分が柱を上ったときに感じたことも含めて親方に話をすると、親方は眉間にしわを寄せてうなり声をあげた。


「雨漏りか……。しかも柱や梁がダメになってんなら、補強じゃ無理だな。やったとこで、補強した木材が腐るだけだ」

「そうなんですよ。でも、建て直しをしたくてもそんな余裕、うちにはないし……」


そして親方にもらった割れた板は割れ目が広がらないように工夫して家の中に立ててあり、今はそこに布を天蓋のように張った状態にしていて、雨の日はそこに家族で身を寄せること。

僕は親方からもらった端材や割れて使えなくなった板が、今は家族を雨風からしのぐのに役立っていると告げると親方は複雑な表情をした。


「いや、役に立ってるのは嬉しいんだが、何と言うか、そんな生活をさせちまってて、俺は甲斐性がねぇんだな。弟子がそんな苦労してんのになぁ」

「そんなことは気にしないでください。僕はあの端材に助けられたし、前にもらった食事も家族でおいしくいただきましたし、それに親方は僕が貧困地区の出身でも、こうして雇ってくれて、ちゃんと仕事も教えてくれてるじゃないですか。先輩たちだって、新人の僕がでしゃばっていることには不満を持ってしまっているかもしれませんが、僕を貧しいからって差別したりしません。僕はそれで充分、恵まれていると思っています」


前にいたどこかの世界ではやはり恵まれていた人とそうでない人で、どこか境界があった。

貧しい国に生まれたら、どんなに這い上がろうとしてもなかなかそこから脱することができない。

確かに支援とか援助はあったとしても劇的な改善などなされなかった。

それは僕がいた国の中でもそうだった。

一番大きいのが学歴で、やはり勉強できる環境が恵まれている人というのは、良いところの人が多い。

まれにそうではないところの人もいるのだが、そこには入れるのはほんの一部、それ以外、もしくは一度底から落ちてしまえば、悪い待遇の中でどうにか生き延びなければならないのが現実だ。

けれどここは少し違った。

見習いには誰でも立候補できるし、何回もチャレンジできる。

それに実力さえ身につけばこうして弟子として迎えてもらえて、仕事ができて給料も出る。

もともと何度もチャレンジするのが当たり前で、一回で上手くいくなんて誰も考えていないから、失敗を誰も責めたりしない。

僕は自分の言葉で引きこもり時の記憶が少し甦ってきて、感傷に浸ってしまったのだった。

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