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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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アレンジとアイデアの違い

僕が親方に版画についての説明を全て終え、仕事をする毎日に戻ってからしばらくして、僕が親方のところに行かなくなったのを確認した兄弟子が親方のところに出向いていた。

ただ僕はこの時、今までは親方が僕の版画に興味を持って、そこに時間をかけていたから、兄弟子たちが確認したいことを確認できず、仕事が滞ったりしていたのではないかと思って見ていただけだった。

だから全くと言っていいほど兄弟子たちに気に留めることもなかったし、僕は僕で、任された仕事の完成度をできるだけ上げて、親方たちの手直しが少なくなるように技術の向上に努めるので手いっぱいだったのだ。



「親方があいつとずっとコソコソ何かしてるのはみんな知ってます。しかも商談の部屋まで何度も使ってますよね。何をしてるんですか」


ついに親方と二人の時間を作ることに成功した兄弟子が親方に単刀直入に尋ねた。

皆に見える工房内で話しているのも何となく気に障るのに、彼だけ優遇されて商談室に何度も呼ばれていると言うのは解せない。

しかも仕事中に行われていることなのだ、せめて何をしているのかを知る権利くらいあるだろう。

もし仕事をさぼってお気に入りの新入りと雑談をしているだけだったら、その時は工房を辞める覚悟を決めようとも思っていた。

そんな兄弟子の心を知ってか知らずか、親方は飄々と答えた。


「ああ、あいつなあ。なかなか面白いもんを持ってきたもんで、詳しく聞いてただけだ。どうかしたか?」


あまりにも堂々としたもの言いに、細かい突っ込みを入れることが躊躇われたが、親方の言葉が引っ掛かったためそこに食いついた。


「いえ。……その、面白いものって何ですか?」

「そりゃあまだ言えねぇ」

「何故ですか?」

「その案を考えたのも、形にしたのも俺じゃねぇからだ。あいつ、俺が詫びにって使えなくなった端材をやったら、それで新しい商品を考えてきやがった」


そこまで聞いて兄弟子はようやくその内容が新商品の提案だったのだと理解した。

ただ、それならば今まで多くの兄弟子たちともそういう話をしていたはずだが、彼らが商談室に何度も呼ばれて話をしていたという記憶はない。

それに工房で販売する商品ならば、いずれ自分たちも作業をするのだから、見えないところで話をする必要はないはずだ。

だから素直にその疑問を親方にぶつけた。


「それならこの前、兄さんだって見せていたじゃないですか。その時は何回も何日もなんてかけてませんでしたよね?」


他の兄弟子と彼との違いは贔屓なのではないかと、そういう意味を込めたもの言いをしたつもりだったが、親方は少し考えてから、ようやく兄弟子の言いたいことを理解したのか、口を開いた。


「ああ、あれか。あれはいい出来だった。だけどあれは新商品じゃあないな。今ある商品の新しいデザインというだけだ」

「何が違うんですか?」


新しいデザインは工房の新商品として世の中に出る。

今までそうして多くの商品を販売してきたはずなのに、親方はそれを新商品ではないという。

兄弟子が怪訝な顔をしていると、親方はため息をついて頭をボリボリ書きながら説明を始めた。


「あいつが持ってきたのは、俺が知る限りこの世にはまだ存在してないもんだ。つまり発明品だな。うまくやりゃあ、それ一つで工房が構えられるような代物だ。あいつはその価値をあまり理解できていなかったようでな、その作り方と使い方を工房に無償で提供すると言いやがった」

「そんなにすごいものだったんですか?」


兄弟子は過去の兄弟子の作品の素晴らしさを知っている。

だからその商品を見ていない以上、新入りの作った物の素晴らしさなど評価できない。


「ああ、元は工房の仕事を楽にできるように考えたって話だったがな。こんなもん初めて見たって言ったら、じゃあこういうものを作れば売れますかってな、それを使った商品を提案してきやがった。使い方を聞いてみたら、世の中が大きく動くかもしれねぇ、とんでもねぇ代物だった。だから安易に人には言うなとあいつにも口止めした。そして無償で提供するっていうから、その作り方と使い方を俺があいつから教わって、工房で扱うかどうかを決めることにしたってわけだ」

「じゃあ、親方が商談室にあいつを呼んでたのは……」

「その作り方ややり方を説明させるためだ。あいつはその説明のために時間外に家で作業してサンプルまで作って持ってきた。しかもあいつ、それがまだ世に出回ってないと言ったら、販路まで提案してきやがった。まあ、一部は却下した訳だが……」

「販路?」


兄弟子が話についていけないと言った様子で思わず親方の言葉を遮った。

そもそも販路の開拓は職人の仕事ではない。

確かに親方ともなれば自分でそういうこともしなければならないかもしれないが、彼は工房の新人職人の一人にすぎない。

しかもまだ仕事に就いたばかりの子供だ。

そんな子供が自分の考えた商品をどこにどうやって売るかまで提案していると言われてもにわかに信じがたい。

それに販路の開拓をしている人は工房に別にいる。

その人たちが作った新商品を持って売りに行けばいいはずで、親方がそこまで関わらなければならない理由に繋がらない。

兄弟子が眉間にしわを寄せているのを見て、親方は新商品という言葉をまだ理解できていないのだと判断して説明を足した。


「ああ。新しい商品なんだから、新しく売る相手が必要だ。新しいデザインなら、今までの顧客に新しいものがあるって言やあ終わりだが、全く違う商品はそうはいかないっつーことだな」


今まで工房で扱ったことのない商品、それどころか、この世の中に存在を確認できない商品。

そのため売りに行く場所も、売り込み方も今までの商品とは当然異なる。

そしてもし、自分たちが売り込みに行く前に情報が漏れてしまったら、その情報を得たものによって先に商品化されてしまったら、その時点でこの商品の価値が一気に下がってしまう。

だから例え工房の従業員であっても、商品化のめどが立つまでは話すことはできない。

今後、他の新商品を出すことになった場合でも同じだ。

もちろん、それはデザインに関しても同じことが言えるのだが、彼らはそういう認識が甘く、すぐに自分の作ったものが優れていると周囲に自慢したがる傾向がある。

今回の商品でそれをされてしまったら、工房が商機を失ってしまう。

親方からすれば、新人の持ち込んだ新商品はそのくらい大きな事業になるものとして捉えられていたのだ。

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