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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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簡略版の版画作成

僕は仕事を終えて家に帰ると、版画の見本作りの作業に取り掛かることにした。

まずは版画を作るための木材を選ばなければならないのだが、工房で使えなくなった端材から版画を再現するのに適した板は残念ながら見つからなかった。

割れたり、傷が付いていないきれいな板ならば、工房で他の商品を作るのに使えると判断しているはずなのだから、ここにないのは当然だ。

分かっていたけれど、実際に作業をしようとした時、適した材料がないというのは残念でしかない。

仮に混ざっていたら工房に戻さなければならないのだから、ある意味、僕の見立てが間違っていないことの証左でもある。

本当ならば僕の目に狂いはなかったと喜ぶべきなのだろうが、まずはどのくらいの大きさの見本を作るべきなのか、使えなかった端材のサイズで紙を乗せてこすることはできるのか、そこから悩まなければならないのだった。



結局僕は材料を見ながらあれこれ考えて、所々ヒビは入っているものの、辛うじてくっついているそれなりの大きさの薄い板を二枚重ねて厚みを出すことにした。

そこで僕は気がついた。

薄い板の一枚に普通に文字を書いて、その通りに彫り進めて貫通させる。

ただ枠とくっついていないとバラバラになってしまうから、文字と枠を部分的に繋いだままにする。

形がわかるくらい貫通させたら、その板をひっくり返して繋がっている部分を、紙につかない程度まで彫る。

こうすることで葉っぱの切り抜きは不要にはなるし、紙を貼り付けて反転させる必要もなくなる。

理屈上は上手く行くはずだ。

ほとんどの場所を貫通させるのならば、反転させた下書きはいらない。

直接板に文字を書いて、あとはひたすら彫り続ければいいだけだ。

森に行って葉を拾ってくる時間も、その葉を切り抜いて並べ直す作業も必要ないのだから、そこに割いていた時間を彫る作業に当てることができる。

夜だから森には行けないと思っていたけど、家でできる作業なら今すぐ始めることもできる。

そう気が付いた僕は、早速作業に取り掛かった。

そして気が付けば夢中で木の上に文字を書いて彫っていたのだった。



こうして文字を彫り進めたあとは、二枚の板をくっつけるだけだ。

僕は彫り終わった板より一回り大きく厚みのある板を取り出して、文字を彫った板をはめ込むためにその板に合わせて四角い穴を彫った。

彫り終わった板を当てて調整しながら横や底が彫りすぎて抜けないように慎重に作業を進める。

このあと、のりを使って板同士をくっつける予定なので、ただ重ねるより、枠の内側にしっかりのりを塗って押し込んで乾かした方が剥がれにくくなるはずだと考えたのだ。

枠はすぐに彫り終わった、

底が抜けず、文字を彫った板がはめこめれば問題ない。

少し深く掘ってしまったところもあったが、結果的にこの枠と文字の板が平らになればいいので、文字の方が少し沈んでいるくらいがちょうどいいのだ。

僕はたくさん作ってあった糊を枠の中にたくさん塗って、文字の板をはめた。

そして乾くまでは何もできないので、その間にしっかりと睡眠をとることにした。

乾いたら外枠の高くなっている部分を文字の高さと平行になるように整えるだけだ。

幸い両親は僕が作っているものが工房に持っていくものだと理解してくれているので、作業中の物を動かすようなことはしないでくれる。

最初父親には、工房以外で仕事をするのかと怪訝そうに言われたが、家に持ってきた端材をもらったお礼をしたいから、この端材で親方に提案するものを作っている、これは親方へのお礼なんだと説明して理解してもらった。



あとはこの方法で作ったものがどのくらい上手く機能するか試してみるだけである。

翌朝、のりが乾いていることを確認した僕は、それが動かないかどうかを念入りに確認した。

こうして見本用の版を完成させた僕は、いよいよ試し刷りをすることにした。

僕は板を貼り付ける時に残ったのりと瓶に入ったインクを混ぜて特製インクを作ると、スタンプ台に使っていた布で文字のところにだけインクを付けて伸ばしていった。

それから親方からもらった書き損じの紙の隅を使おうと、インクを付けた版画版の上に静かに紙を乗せた。

こするものがないので、手のひらで丁寧にこすりつけてから静かに紙をはがした。

そしてはがした紙を表に向けて乾かす。

予定より大きな版を作ってしまったので、すでに書き損じの文字があるところに重なってしまっているところもあるが、そこは逆にインクが乾いていないのでどういう形になっているのかは確認できた。


「できた!」


僕は思わず声を上げた。

確認の結果、きちんと文字の部分だけにインクを付ければこれでも充分使えるということが分かったし、見本としては僕の想像通りになったのだ。

喜んでもいいだろう。

両親がその声に驚いてこちらを見たが、二人は一生懸命何かを作っている僕を、何も言わず温かく見守ってくれていた。

そして僕は完成した見本の版と、版画に使うために作ったインクを手に、少し早く工房へと向かったのだった。



「おはようございます!」


テンションの上がりまくっていた僕は倉庫に行く前に工房を覗いてそう声をかけた。


「ん?ああ。もうそんな時間か……」


そこには机に向かっている親方の姿があった。

兄弟子たちはまだ来ていないらしく他に人の気配はない。

親方は眠そうにしているが、もしかしたら寝ないで何か仕事をしていたのかもしれない。

僕のことは言えないのではないかと思いながら、時間を勘違いしている親方に言った。


「いえ、今日は僕が早く来ただけです」

「そうか……。で、どうした?」


いつも決まった時間に来る僕が早く来たこともあり、何かあったのかと親方は頭をぼりぼりと掻きながら聞くので、僕はうずうずしながら言った。


「実は、見本ができまして……」

「あ?もうできたのか?ちゃんと寝たんだろうな」


僕が見本を一日で完成させてきた時いた親方は、僕の言葉で目が覚めたのか急に大きな声を出した。

親方の声に興奮で目が冴えている僕でも少し驚いたが、それは僕を心配してのことだ。

僕は心配してくれる親方をありがたく思いながら、安心してもらおうと思って言った。


「はい。手抜きをする方法を思いついたので、その方法で作ってちゃんと寝ました。早くできたので早速見てもらいたいと思って」


僕がハキハキしゃべっている様子をじっと見て、親方もとりあえず僕の健康状態に問題はないと判断したのだろう。

机にあったものを引き出しにしまって立ち上がると、親方は僕の方を見た。


「……そうか。じゃあ、今から見せてもらうとするか。移動するぞ」

「はい!」


僕はすぐに返事をして移動を始めた親方の後についていくのだった。

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