森の採集日
結局初めての森では、父親の言う河原で母親の作ってくれたお昼を食べて帰った。
短い時間だったがこの森を歩くことができたので、どういうものがあるのかは少しわかった気がした。
森からの帰り、父親は少し寄り道をして、次の採集に僕を連れていくことを取りまとめの人に伝えてくれた。
次の採集日が数日後ということもあったが、僕がいるところで伝えることで約束を守ることをアピールしたかったのかもしれない。
そうして迎えた採集日。
その日も天候に恵まれて快晴だった。
集合は森に出るための門の前だ。
僕は背中に空のカゴを背負い、父親は中に槍やナイフのようなものと二人分の昼食を入れたカゴを背負い、小さな荷車のようなものを引いて出かけて家を出た。
僕が荷車は邪魔にならないのかと聞くと、もし動物を持ち帰ることになった時に鳥に行くのは大変だし、せっかくの貴重な食料を森に放置するのももったいない、何も収穫がなければ荷物を荷車に乗せて引くこともできるから持って行くのだという。
もしかしたら僕が疲れて歩けなくなった場合も、これで運んでくれるつもりなのかもしれない。
そうして集合場所に到着すると、荷車を引いているのはうちだけではなかった。
大きい動物が襲って来たり、これだけ大量の肉が狩れると期待できる環境なのかもしれないと、僕は気を引き締めることにした。
取りまとめの人が出欠を確認しメンバーがそろったことを確認すると、門を出る前にメンバーを紹介してくれた。
僕が初めてだから紹介されたのかと思ったが、参加メンバーは毎回異なるし、全員が参加者を把握していれば、迷子が出たりした時にすぐにいない人が分かるから必ず行っているそうだ。
集合場所にいる大人は男性だけだったが、子供の中には女の子も混ざっていた。
木の実を拾ったり荷物を運ぶ人数は多い方がいい。
貧困世帯では戦力になるのなら男女は関係ないということだろう。
メンバー紹介が終わると、早速大人たちが前後について子供を挟む形で森に出発することになった。
とりあえず大人から離れないように歩いていると、メンバーの男の子たちが僕の側にやってきた。
「今日が初めてなんだってな!」
「分からないことがあったら何でも聞いてくれよ!」
僕より少し年上なのか少し大きい男の子たちが声をかけてくれたので、僕は素直にうなずいた。
「うん。お兄さんたちを頼りにして頑張るね!」
大人がいるのだから大人に聞くのが正解だろうが、彼らのプライドを傷つける必要はないし、森の採集に関しては彼らの方が先輩だ。
それに森の採集では子供と大人で役割が違う。
子供である僕がやるべきことは子供の先輩に聞くのがいいだろう。
そして僕が頼りにするという言葉を使ったためか、それ以降、彼らは何かと僕にかまってくれた。
「荷物重かったら持ってやるからな」
「疲れたら遠慮なく言うんだぞ!」
なぜこんなに親切にしてくれるのだろうと考えているうちに、もしかしたら先輩風を吹かせられるのが嬉しいのかもしれないと、途中で気が付いた。
初めての場所に行くのに気にかけてもらえるのは僕としてもありがたいし、本人たちが喜んでいるのならこのままでいいかなと、過干渉なことには目をつぶることにした。
そんな感じで川に行くのとは違う比較的広い道をしばらく歩いていくと、急に道を外れて道なき道を進むことになった。
木の根で盛り上がったでこぼこなところばかりで、僕たち子供は前の大人について歩いていくのが精一杯だった。
振り返って後ろの大人を確認する余裕などない。
そんなことをしていたら置いていかれてしまう。
そうして進んでいくと、気持ち平らな地面の多い拓けた場所に出た。
拓けたと言っても木があまり生えていない地面だけの場所が少しあるだけで、周囲は木に囲まれていて太陽の光もあまり届かない。
「いいか、今日はここを拠点にするからな」
「はい」
取りまとめの男性がそういうと、子供たちは元気に返事をした。
説明がないのでよくわからないが、とりあえずここは拠点ということなので、何かあったらここに戻って来いということなのだろう。
僕はこの後何をすればいいのかよくわからないため、キョロキョロしていると、さっきのお兄さんと言った子供たちが僕のところにやってきた。
「やり方分かんないだろ?一緒に行こうぜ」
「うん!」
僕が返事をすると、彼らは拠点から道のない森に僕の手を引き向かうのだった。
ルールはいたってシンプルだった。
まず、拠点が見える場所までしか森の奥へ入ってはいけない。
動物が出てきたら拠点まで走って、大人に連絡する。
木の実は木をゆすって落として拾うか、必要であれば登ってもぎ取る。
自分で取ったものは、自分で持ち帰る。
こんな感じである。
僕たちは、固い実のなる少し大きな木を見つけ、全員で木に体当たりをしてその実を地面に落としては拾うことを繰り返した。
最後に見つけた果実のついた木だけは、ゆすって実を落とすと潰れて持ち帰れず、食べられなくなってしまうので登って取ることになった。
僕も木登りして取ろうと思ったが、お兄さんたちが僕に気を使って僕の分まで取ってくれたのでその必要はなくなった。
こうして僕たちのグループは何事もなく採集を済ませて拠点に戻ることができた。
拠点に戻った僕が見たのは、狩られた何頭かの獣と、イノシシのような者に追いかけられて拠点に戻ってくる子供たちのグループだった。
子供たちが声を上げながら戻ってくると、声の方に向かって大人が攻撃の準備をする。
そして、子供が安全なところに避けたところで動物を捕獲するのだ。
僕が呆気に取られていると、お兄さんが説明してくれた。
「そうそう、獣がきたら声を上げながらここに駆け込むんだ。そしたら大人が助けてくれるから。ここに来る前に追いつかれそうならそう叫べば森の中まで助けに来てくれる。あいつら、僕たちが落とした木の実や果実を狙って出てくるんだよ」
説明されている間に、大人が無事獣を狩り終わっていた。
森に出かけた子供たちが戻り、大人が揃うと、拠点で休憩を兼ねてお昼ご飯を食べた。
こうしているとピクニックか遠足にでも来ている気分でとても楽しい。
お昼ご飯を食べた後、獣たちを引きずった大人と、重くなったカゴを背負った子供はもと来たでこぼこな道を戻っていくことになった。
午後も採集を続けると思っていた僕はここで帰るのかと拍子抜けしたが、帰りの体力がなくなる子供が出ては困る。
僕たちのグループは今回運が良かっただけで、よく考えたら獣から逃げて拠点まで走ったりしている子供はかなり疲弊しているのだ。
それに大人もすでに捕まえた獣を持ち帰って腐る前に加工しなければならない
時間が経ったらせっかくの獲物がダメになってしまう。
こうして収穫物を持って広い道まで戻ってきたところで、大人たちは獣たちをそれぞれの台車に括りつけたり乗せたりしはじめた。
子供たちはそれを見ながら少し休憩である。
僕がカゴを置いて座っていると、一人のお兄さんがやってきて、僕に切った果物を分けてくれた。
「これ食いなよ」
「いいの?」
「ああ。ちょっとつぶれたやつだから持って帰ってもすぐ食べないといけないからな。それに水分取らないのはよくないからさ」
そう言いながら切った果物にかぶりついたお兄さんに習った僕も果物にかぶりついた。
「おいしい!」
分けてくれたのは水分の多い果物で、口の中に入れた途端、喉が潤うのが分かる。
よく考えたら僕はこの森に入ってから水分を口にしていなかった。
お昼もパンを食べただけで水も飲んでいない。
確かにここで水分を取らないと脱水症状で倒れるかもしれない。
僕はありがたくもらった果物を平らげた。
お兄さんは僕が喜んでいるのを見ながらしばらく自分の果物を食べていたが、大人たちから集合がかかると自分のカゴを取りに戻っていった。
僕たちは誰も体調を崩すことなく、無事に街まで戻ってきた。
取りまとめの人が全員いることを確認して解散、後は家に帰るだけとなる。
正直言うと、塀と門が見えた途端、ホッとして気が抜けてしまいそうになったが、そんなことでダウンしたらずっと言われる気がして、僕は何とか家に帰るまで気力で持ちこたえた。
家に帰りついた父親は早速持ち帰った獣を加工している。
僕はというと、カゴを置くなりぐったりとしてしまい、気が付いたらベッドの上で朝を迎えていた。
昼過ぎから夕飯も食べずにそのまま朝まで眠っていたということだから、よほど疲れていたのだろう。
まだまだ体力が足りないなと僕は思いながら、無事に森の採集日を終えたことに安堵するのだった。




