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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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版画への興味

親方の版画への興味は尽きない。

スタンプは目の前にあるが版画は目の前にないからなのか、それとも版画の方がより手元に欲しい理想の形をしているのかは分からないが、とにかく分からないことをたくさん聞かれることになった。

僕が商売になるのかと聞いてしまったこともあり、親方は再び商売モードになってしまったようだ。


「ちなみにこいつはどのくらい手間がかかるもんなんだ?角材より少し薄いくらいの板でいいんだったらそんなに原価はかからねえ。問題はどのくらいの技術が必要なのかってことだな。見た感じだと、彫るのはそんなに難しくねぇだろう」


親方は僕の掘ったスタンプを見ながらそう言った。

確かに親方や兄弟子たちの中には細かい細工を正確かつきれいに加工できる技術を持っている人も多い。

仮にその人たちが仕上げをしたら、もっと文字の滑らかな線の部分とかをきれいに削れるかもしれない。

けれどスタンプや版画で考えなければならないのはそこではない。


「そうですね。確かに下書きさえあれば彫るのはそんなに難しくないと思います。ですが、これの一番面倒なところは、文字を反転させて彫る必要があるところです。なので一番難しいのは下書きのところかと思います」

「反転?なんだそりゃ」


聞いたことのない言葉だったのだろう、言ってしまってから失敗したとは思ったがここで慌てるのはかえって不自然だ。

だから僕はそのまましれっと反転という言葉をぼかしつつ説明することにした。


「スタンプでも版画でもそうなんですけど、こうして紙に押すと、向かい合わせになるんで、鏡を見ている感じになるんです。上下は変わらないんですけど、左右は逆になってしまうので、文字が逆さまにならないよう考えて彫らないといけないんです。例えばこの一行目の一番左の文字、スタンプだと一番右側にありますよね。さらに文字だけを比較すると左右が逆になっているでしょう?」


僕が紙に押された部分と、そこに当たるスタンプの部分を指で示して説明すると、親方は唸り声を上げた。


「ああ、言われてみればそうだな」

「だからこうなることを考えて文字を彫らないといけないというのが一番難しいかなって思います。ちなみに僕は角材に下書きしてから彫ってます。これはスタンプですから紙の上に押しますが、版画にするなら紙の方を押し付けます。ですがどちらも文字はこのような形じゃないと紙に正しい文字として写せません」


僕がスタンプをひっくり返して紙を乗せる仕草をした。

当然本当にスタンプの上に紙を乗せても安定しないので、版画のように擦るのは無理だ。

だから版画はこういう感じだと、ひっくり返したスタンプの上に紙をかざして、上から擦る真似をしてみるけれども、親方にはそれがどうなるのか想像がつかなかったらしい。

まぁ、スタンプもないようなところで、版画やら印刷やらといったことを次々言われたところで理解するのは難しいだろう。


「とりあえず、その版画ってやつを俺が理解せにゃならんな」


僕の仕草から結局理解することができなかったらしく、親方は諦めたように言った。

けれどもその言葉から、版画というのがどういうものなのか知りたいと思っていることは理解できる。

だから僕は親方の期待に応えようと決めた。


「それなら見本を用意します。まだもらった材料はありますし、一度だけ使う、小さいものなら端材でも作れます。見本なので全文は作れませんが、使い方と形が同じで、親方が使い方を理解できるようにすれば、見本の役割りを果たしますよね?さっき必要な材料は使っていいって言ってくれましたけど、親方が見たいのは版画の性能であって完成品ではないと思うので……」

「ああ、その通りだ。だが端材で似たようなものを作るのは手間だろう?」


さっき版画には板が必要だと言ってしまった。

親方は端材の中にそんな板はないことを察していたのだろう。

けれども僕はそんなことは深く考えず、全文作らなければ何とかなるだろうと押しきった。

せっかく興味を持ってもらったのだから、形だけでも知ってもらいたいと思ったのだ。


「そうですね……時間は欲しいですけど、そもそも見本にそこまでの時間はかけないつもりです。あくまで親方に見せるもので、お客さんのところに持っていくものではないですし。それにこれで少しでも役に立てるなら、僕はそれだけで嬉しいです」


すでに僕はスタンプを作成していて少し寝不足が続いていてハイになっていた。

もらったひび割れた板を仕事終わりに持ち帰り、それを使ってすぐに家の雨風を少しでもしのぐよう工夫をし、スタンプのことを思いついてからは、スタンプを削るだけではなく、文字の下書き用に森で葉を採取したり、インクにでんぷんのりを混ぜるため、森で採取したイモっぽい実をこっそりと煮たりする時間も必要だった。

親方は僕があまり寝ていないのを察して眉間にしわを寄せたが、僕の気合に圧倒されたのか、親方は渋々うなずいた。


「……そうか。じゃあ、任せてみることにするが、急ぐもんじゃねぇからな。しっかり休んで仕事に支障が出ないようにしてくれ」

「はい!」



結局スタンプは試しに利用されることになったが、本来の目的である端材の有効活用ではなく、版画による印刷の提案になってしまった。

しかも親方は、正式に採用することになったら、新しい板を使って作ってくれていい、仕事の時間を使って工房で作ればいいと、僕に仕事として作業をする許可までくれた。

まずは見本、それで採用が決まれば工房の分、そして工房で使ってみて売れるものだと判断されたら、この版画が商品として街に出回るようになるかもしれないということだ。

評価されたことが素直に嬉しいが、僕は残った端材も何とか有効利用する方法を考えなければ、それを提案して無駄になる端材を減らせるようにならなければ本来の目的とずれてしまう。

でも、今は親方が喜んでくれているし、売れる商品を作ることができるのなら僕としても嬉しい。

だから今は、親方に認められるものを提示できたということを素直に喜んでもいいかなと思った。

でもこんなチャンスをくれた親方のためにも、ちゃんと端材のことを忘れずに後で考えなければと密かに思うのだった。

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