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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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スタンプ試作品の完成

僕が親方に紙とインクの相談をした数日後、僕は親方に呼びとめられた。


「ああそうだ、この間の紙の話なんだが……」

「何でしょう?」

「あんまり書くとこがなかったり、茶色く変色してるようなやつでもいいのか?」


親方は先日の話を覚えていたらしく、使えなくなった紙について質問してきた。

要らない紙が出てきたということなのか、随分と説明が具体的だ。

現物を見ていないが、おそらく使えるものだろうと思った僕は、親方にその紙を見せてもらおうと肯定した。


「はい!そういうものでも僕が試したいことはできると思います。そういうのがあるんですか?」

「ああ。けど、こんなやつだ」


どうやら契約書の書きかけらしいが、上からバツが書いてある。

おそらく間違えたのだろう。

そして破棄したはずがどこかに落ちてしまい、そのまま放置されていのか、少し日に当たっていたと思われる部分が、端から斜めに茶色く変色している。

けれども裏面は使われていないし、僕が作ったのは上の部分の文言だけだから何回か押すことはできそうだ。

文字の部分に押すことはできないが、バツが書いてある部分だって、スタンプが正しい文章になっているのか確認したり、紙にインクがきれいにつくのかを確認するだけなら充分使える。

ひっくり返してみると薄っすらと文字が写って見えるが、こちら側も充分に使えると僕は判断した。


「これ、僕に譲ってください!」

「ああ、もとよりそのつもりで出したんだ。また何か出てきたら取っておけばいいか?」

「はい。ありがとうございます。うまくできたら親方に見てもらいたいのでそれまで待っててください。きっと工房の役に立つと思います」


僕がそう言うと親方は少し驚いたように言った。


「何だ?仕事のものを作ってるのか?」

「あ、はい。書類仕事が楽にできるようになるかもしれない道具を作ってます」


完成してから話そうと思っていたのについ口を滑らせてしまったが、僕の言葉に親方は納得したらしい。


「書類仕事……それで紙とインクか。わかった。新しいものを作るってのはなかなか難しいものだが、お前には過去の実績があるからな。まぁ、行き詰まったら相談してくれ。仕事のものを時間外に作ってるのは良くないが、趣味って言われちゃあなぁ」

「今回のがうまくいったら、買い取ってもらってもいいですよ」


僕が冗談で言うと親方はうなずいた。


「わかった。考えておこう」

「ありがとうございます。良いものを作れるように頑張ります!」


親方が買い取ってくれるかもしれないと言うことより、僕の作ったものを価値あるものとして見てくれることが嬉しかった僕は素直にいいものを作りたいと思った。

紙が手に入るとは思わなかった僕は少し浮かれていたが、親方はそんな僕にちゃんとインクのことも教えてくれた。


「あとインクだが、調べた限りじゃ外で買うと割高だ。今度多めに発注しておくから、もし空き瓶とか持ってくるなら工房で使ってるのを量り売りしてもいいんだが……」

「本当ですか?」


僕が親方の提案に食いつくと、親方は苦笑いしながら言った。


「じゃあ、瓶を用意してきな。届いたら教えるから。代金は給料から天引きしとくか?」

「それでお願いします」


いちいちお金のやり取りをするのは面倒だ。

僕は親方を信用しているし給料から天引きしてくれた方が僕としても助かる。

だから僕は親方の提案を喜んで受け入れたのだった。



そうしてさらに数日後、僕は再び親方に声をかけられた。


「インクがきたんだが、瓶はあるのか」

「瓶はないので、普通の入れ物でいいですか?」


僕がそう聞くと、親方はため息交じりに言った。


「インクを入れるのは瓶じゃなきゃだめだ。それからフタがしっかり閉まるのを使わないと、すぐ乾いて使いもんにならなくなるぞ?あと、一度インクを入れた瓶は他のもんには使えねぇから一応専用のやつがある。それも取り寄せてあるが、いるか?」

「はい、お願いします」


親方は僕が瓶を手に入れられないだろうことに気が付いていたらしい。

親切にも専用の瓶まで用意してくれていた。

工房にはすでに瓶があるのだから取り寄せる必要はなかっただろうに、そんなことは一切口にしないのが親方らしい。


「瓶は俺が仕事で使ってるやつより小さいこれか、同じやつだ。どっちにする」

「仕事のと同じ方でお願いします」


僕は仕事で使っているのと同じ容量の大きい方を選択した。

大きいと言ってもあくまでペンにつけてたくさん書けるくらいの量しか入らない。

スタンプに使うとしたら、それなりの量が必要になるので、これでも足りないかもしれない。


「わかった。しかし何の道具を作っているんだか知らねぇが、文字を練習するのにこんなに使うか?随分熱心だな。そういや、ペンはどうすんだ?」

「ペンは要らないです」


親方は僕にペンが必要かを確認しながら、その間、新しい瓶にインクを注いでくれた。

書類仕事を楽にする道具ということを伝えていたので、僕が作っているのはペンのようなものかもしれないと思ったのだろう。

ペンに関しては確認されただけで、それ以上聞かれることはなかった。


「そうか。んしゃあ、これ持ってきな。約束通り、次の給料からインク代と瓶代は引かせてもらう。ああ、ないと思うが、もしインクなくなったらその瓶を持ってきてくれたら、瓶代なしで、追加で売ってやる」

「はい。ありがとうございます」


僕はしっかりとフタのされたインクの瓶を受け取ると、書き損じの紙と一緒にカバンにしまった。



インクと紙を手に入れた僕は、スタンプと簡易スタンプ台を完成させた。

スタンプは試しに紙に一度押してみて、文字に間違いがないかを確認してから、糊で持ち手を接着して乾かした。

スタンプ台は木の入れ物に古布を折って入れたもので、布にインクを染みこませて使えるようにした。

ちなみに布と入れ物はバラバラにして洗うことができる。

布に染み込んでしまった色は洗っても落ちないけれど、洗えば固まった布は柔らかくなるのでインクがつけやすくなる。

何でも使い回しがきくようにするのは大切なことだ。

これがあれば書類仕事はかなり捗るはずだし、文字の書けない人でも雛形を作ることができるようになるはずだ。

ちなみにスタンプに使うインクにも少し工夫をすることにした。

普通のインクに糊として作ったデンプンを少し混ぜたものを使うことにしたのだ。

こうすると紙への定着がよくなり液垂れや擦れも防ぐことができる。

ただ、インクもデンプンも乾くと使えなくなるため、使う分だけを調合してスタンプ台に染み込ませるのが最適だ。

だから僕はスタンプ台の中でインクと糊を混ぜられるよう、布を出したスタンプ台に糊を少しだけ入れておくことにした。

そこにインクを垂らして布で混ぜ、その布をスタンプの文字のところにこすりつけるようにすれば、何回か試すくらいはできるだろうと考えたのだ。

たくさん押すならばインクを布にしみこませてスタンプをそこに押し付けるのがいいだろうが、数回しか押さないのならこれで充分だ。

こうして僕はスタンプを親方にお披露目する準備を整えたのだった。

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