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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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妬みによる行動の末路

今回の件で実行犯の兄弟子たちは工房を去ることになった。

彼らはここにきてようやく事の重大さに気が付いたのか何度も親方に謝罪したらしい。

ちなみに彼らは僕の所へは謝罪に来ることはなかった。

彼らに僕に対する謝罪の気持ちがなかったのもあるだろうが、親方が見ていないところで僕と接触した彼らが、逆恨みして僕に危害を加えてくる可能性もあるから、親方が先にくぎを刺していたのかもしれないとも思う。

そもそも今回の行動が僕の評価を妬んでと言っても、僕自身が怪我をしたわけではないし、まずは親方に許してもらうことの方が先だから後回しになったという可能性もある。



最後は親方の元に、彼らの保護者が謝罪に来て、何とか働かせてもらえないかと頼んだというが、複数人を相手にしても、親方は職人としての毅然とした態度で、もしどうしてもというならと条件を二つ出した。

一つは、今回の損害金額の一括払い、もしくは同等の材料の一括納入。

もう一つは、今後同様のことを起こした場合、大小に関係なく損害を負担した上で解雇という内容だ。

もちろん彼らにそんな支払い能力はないので、分割でとか、働いて返すとか色々交渉したらしい。

けれども、最初から残す気がなかったこともあり、親方は首を縦には振らなかった。

ちなみに損害に関しては、分割で返済していくことになったそうだ。



結果、材料が足りない事と、人手が減ったことで、客先への納品が遅れる可能性が高く、工房側もかなりの痛手を負うことになった。

親方は彼らを解雇した後、すぐに残っているメンバーに仕事の割り当て変更を伝えると、取引先への謝罪行脚を済ませてから、総出での作業に加わった。

そんな訳で僕も戦力として実作業に駆り出されることになった。

新しい弟子を募集してもすぐ即戦力にはならないため、当面は募集せず、この人数で回すという。

実は元々、若者を育てるため、少し余裕を持って採用していたらしい。

余裕がないと育てるために人と時間を割けないからだ。

そのため、兄弟子たちの中には丁寧に仕事をしていることを言い訳に、のんびりと作業している人も出ていた。

今までは親方もそれなりに目をつぶっていたらしいが、工房の面子のかかっている今回ばかりはそうもいかず、気を抜こうものなら容赦なく怒鳴られている。

今までも工房は慌ただしく見えていたが、本当に忙しいというのはこういうことを言うのだと肌で感じた。

僕も親方からもらった工具を使って、教わった大枠を削る作業をひたすらこなす。

数を捌いているうちにだんだんコツが掴めてきて、僕もいつの間にか作業速度が上がっていた。



そして就業後の僕はというと、親方が新しい材料の発注を済ませたので手配されるまでの間にできるだけ工房の木材を家に持ち帰り、その材料で家を補修、さらに残りの材料を有効活用する方法を考え出すべく木材と向き合っていた。

工房では新しい仕事をどんどん覚えなければならず、集中して仕事をこなさなければならないので以前の倉庫掃除だけをしていた時のように考え事をしている暇はないのだ。

気が付けば睡眠時間が削られている毎日だったが僕の心は充実していた。

ランナーズハイという危険な状態なのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

とにかくやりがいがあって、人に必要とされて、ああ、僕は生きているんだと実感できた。



そうして残った兄弟子たちと親方と日々をこなし、一時的に受注量を押さえて何とか対応した結果、工房はようやく落ち着息を取り戻した。

そして久々に僕は親方に書類仕事を頼まれることになった。


「何だかこの仕事、とても懐かしく思います」

「そうか?」

「はい。最近はずっと木材を削ってばかりだった気がしますし」

「確かにそうだな。あの状態で新しい発注なんぞ受けられんからなぁ」


本来いるはずの作業員がいなくなって、工房を守るために皆が必死だった。

親方が納期が遅れることを謝罪して、どうにか待ってもらっていた取引先もあるのだから、新規など受けられるわけはない。

目の前の仕事に必死すぎて、そんなことも考えられなくなっていたのかと僕自身が驚いた。

そして親方の言葉に、ようやく出口を見つけられた気がした。


「じゃあ、もしかして……」

「次の発注を受けるだけの余裕ができたってことだ。あとは……、まぁ、あいつらが手を抜かなきゃ、それなりに早く作業を上げられるってことがわかったからな」


親方は最後に今までのんびり作業をしていた兄弟子たちの方に目をやって言った。


「でも、あのペースでは……」


僕の寝不足は自業自得の部分もあるが、兄弟子たちは自分たちに任された仕事を多くこなそうと遅くまで残って作業をしていた。

早くできると言っても、こなせる量には限度があるのだ。

このままでは作業負担が比較的軽い僕はともかく、兄弟子たちは過労死しかねない。


「ああ、今回のような無理はさせねぇから安心しな。っつーか、あいつらは相当堪えてるはずだから、一度休みをやろうと思ってる。もちろんお前も、そしてたぶん俺もだな」


親方は工房の従業員全員に休みを与えると言った。

けれど僕が今書いているのは、次の仕事の見積書だ。

これを出したら仕事が回り始めてしまうのではと僕が親方に尋ねると、親方は、がははっと大きな口をあけて笑った。


「先方が見積もり見て考えるって言ってるからな。相手さんが考えている間は休みでいいさ。それに見積もりの段階じゃあ、うちに来るとは限らない。今回の納期の遅れの件もあるからな。それでもうちに仕事をって言ってくれてんだから、それを無碍にはできねぇよ」


そう言った親方の表情に少し安堵の色が見えた。

確かにそうだ。

今回、兄弟子たちの不祥事で納期が遅れ、取引先に迷惑をかけた。

工房内の不祥事など取引先には関係ないことなので、決められた納期を守れない工房という汚点が残ってしまっている。

僕が知る限り、普段ではありえないし、取引先もこんなことは初めてだろうから許してくれたのだろう。

けれど二度はない。

工房は仕事をくれるところから受注して、少しずつ失った信頼を回復していくしかないのだ。

僕が不安そうに見積書を書いていると、親方は続けた。


「今工房に残っているメンバーでこなせる仕事量しか引き受けないから安心しな。ただ、長期間仕事を受けないわけにはいかねぇからな。そんなことしたら本当に仕事も信頼も失っちまうし、工房つぶれたらお前らの生活が支えられなくなるからな。最低限、給料払えるくらいの仕事は受けるしかねぇんだ。そこは分かってくれ」

「はい。よろしくお願いします」


僕は一度手を止めて親方に頭を下げた。

そして、そう言えば親方が笑っているは久しぶりだということに気が付いた。

いつもは良く笑っていた親方ですら、笑う余裕もなかったのだ。

けれど今は笑っている。

これでもしかしたら工房の雰囲気も活気ある明るいものに戻るかもしれないなと、僕はぼんやりと思ったのだった。

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