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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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アイデアの絞り出し

僕が使えそうだと判断し、まとめた資材の確認を終えた親方は僕に言った。


「……ああ。今見たやつはお前の見立てで間違いない。次はあるか?」


どうやら親方は今日、できる限り資材の状況を確認するつもりらしい。

確かに早く把握しておかないと発注が遅くなってしまうのだから、そうするしかない。

自分の見立てに問題がなかったことに安堵した僕は、少し緊張を解きながら材料をどのようにまとめてあるのかを先に伝えることにした。

どこから確認するのかは親方が決めた方がいいだろうと思ったのだ。


「はい、次はキズを削れば木材としてまだ使えそうなものです。最後に破損は酷いけれど小物くらいにはできるかもしれないものと、工房では使い道がないと思われるものを見てもらいたいです」

「最後のやつは……まあいい。まず削れば使えそうなやつだな」


中央の山には目を向けたくないらしい。

これが工房の被害そのものだからだ。


「はい、お願いします。壁から少し離して内側に置いてあるものがそうです。たぶん傷を削って残る部分を想像して、残るだろう大きさごとに並べてあります」


親方はうなずいて、今度は削らないと使えないだろう材料たちをしっかりと見て回った。

親方は一つ見ては持っていた炭のようなもので材料に何か印をつけては次に進むことを繰り返していた。

壁に立てかけてあった材料よりもチェックを入れながらじっくり見ているのと、量が少し多いのとで、かなりの時間をかけている。

僕はその間に見立て通りだと言われた材料を元の位置に戻す作業を行った。



壁沿いにある要加工の材料についても一通りチェックを終えた親方は、僕が置いた資材をそのままにして、中央の一番見たくないであろう資材の山に目を向けた。


「で、最後がこれか……」

「はい。薄い板の方が割れたり折れたりしやすいので、被害が大きいみたいです」

「こりゃ、さすがに参ったな……。壁側にこの種類の木材がなかったから、まあ、そうなんだろうとは思っていたが……」


一番被害を受けたのはこの薄くて幅のある、どこかの世界で言うならベニヤ板と似ているものだ。

他にも縦にひびの入った角材のようなものなどがあるが、親方を悩ませたのは幅広く平たく薄い板の損傷だ。

積み上げられた薄い板を見た親方はため息をついて頭をガシガシと掻きむしった。

感情のやり場がないのだろう。

だが僕だって頑張ったのだ、親方に目を背けられては困る。

だから僕は親方をじっと見て、無言の圧力をかけることにした。

別に全部捨てろと言うのならそれでもいい。

とにかくこの事実をしっかりと受け止めて欲しい。


「おまえ、さっき小物くらいには使えるかもしれないとか言ってたな」

「はい」

「何を作ることを考えて言ったんだ?」

「それはこの工房では作っていないようなものですが……」

「そんなこたぁ、気にしないから言ってくれ」

「例えばこの板のこの部分をうまく削ってくぼみをつけたり、口に入れても大丈夫なくらいやすりをかければ、スプーンや箸のようなものにできるかなとかですね……」

「ハシ?」


親方が聞き返した。

僕からすれば一番使いやすく作りやすいまっすぐで均一で量産できる棒としてのアイデアだったがここにその文化はなかったのにうっかりしていた。

この世界に箸はない。

少なくとも僕の周りでそのようなものを使っている人はいない。

だから慌てて取り繕った。


「あ、いえ、フォークとか、食べ物をつかむ道具とかですかね。もちろん金属の道具には劣りますが、木材でできたものだと食べた後、火にくべたら処分できますし、森で食事をする時とか帰りの荷物が減らせて便利だなって」

「一度で捨てちまうには随分高価なもんだがなぁ」


高価な木材で作った食器を使い捨てにするという意見に親方は驚いていた。

確かにうちも道具が道具として機能しなくなるまで使いにくくても使っている。

それは貧乏だからなわけだが、言われてみれば使い捨てという商品をあまり見たことがないし、どこかの世界で使い捨てされるようなものも、ここでは何回も使用できる高級品だ。

でも口にしてしまったものを引っ込めるわけにはいかない。

僕は何とかその理由を考えた。


「もともと捨てる予定で、工房で使えないだろうものという意味での提案です。ここの木材はすごくいいものだし、木の食器は洗って乾かせば何回も使えます。そのまま捨ててしまうくらいなら、せめて一回くらい使ってからにしたいです。でも僕ならこれを普段から家で使って、ボロボロになってきたら収集日に森へ持っていって最後に燃やします」

「なるほどなぁ」



僕は無理やり理由を考えて焦っていた。

だからもっと何かを言おうとして、そこで墓穴を掘ってしまった。


「あとは本当に子供が使うおもちゃとか、あまり経験のない見習いや、僕のように見習い上がりの職人の練習材料として使うとか……」

「そのおもちゃってのはどんなものだ?」


親方は使えそうなもの時いてすぐに食いついた。

使えるものは何でもいいから形にして売って、少しでも損害を押さえたいという話をしているのだから当然だ。

僕は具体案がないまま口をしたことを反省した。


「すみません、まだそこまで具体的に考えがあったわけじゃないです……。でも、僕たちは森でよく遊んでいて、どんなものでも遊び道具に見立てることができました。だから見ていたらこれで楽しいことができるんじゃないかって思って……」


あまり良いことではないが素直に謝って、本来の僕らしくない子供だと主張するような発言をした。

見た目もここでの生存年齢も子供だからその発言が通ってしまうことは分かっている。

元は僕の迂闊な発言のせいなのに、都合が悪くなって逃げていることには少し罪悪感があったが、ないものはない。


「ああ、悪い。そんな落ち込む必要はない。俺もちょっとこの被害を見て、何とか材料を無駄にせず利益を上げる方法がないかと思って焦っちまった。さっきのスプーンやフォークってなアイデアだけでも充分なのに、子供のお前にそこまで背負わせちゃあ、工房の親方失格だ。それにお前の言う通り、確かにこれらは工房で普段扱う商品を作るのには使えない。何の使い道も考えられなければ間違いなく廃棄するだけのものだからな。そこから俺には何も浮かばなかったアイデアを一つでも絞り出したお前はやっぱり俺が見込んだ……いや、それ以上の才能の持ち主だ」


そう言って親方は僕を褒めてくれた。

申し訳ないがそれで少し僕の罪悪感が増した。


「ここにあるものは捨てることになりますか?」

「ああ。最終的にはそうなるだろうな」


結局親方は形にできなければここにあるものはすべて捨てるという。

大半が木材なのでおそらく調理の際の燃料にされる感じだろう。

でもそれはもったいない。

僕はこの木材が欲しいと思った。


「あの、もし捨てるだけなら、僕に使わせてもらえませんか?僕はまだ、あまり色んな種類の木材を削ったことがないんです。捨てる前に練習したり、さっきのアイデアも形にしてみたいです。あと、いただけるなら亀裂の入った板でも僕の家の補強に使わせてもらえたら……。もちろんその作業は仕事が終わってから、ここに置いていると邪魔になるのなら持ち帰ってやりますから……」


ここに置いておいたら燃料にされてしまうというのならできるだけ家にキープしようと思った。

簾の時のように邪魔者扱いになるかもしれないが、これで天井の補強ができて雨漏りが減らせると言えば両親も納得するだろうし、父なら作業を手伝ってくれるかもしれない。

僕の話を聞いて親方は複雑そうな表情を浮かべた。

工房はもちろん雨漏りをすることも風が吹き込むこともない。

僕の住んでいる家の悲惨さがなかなか改善されないという事実を突き付けられて思うところがあったのだろう。


「そうだな。使えるものがあるなら使ってもらって構わん。家の補強……。まあ、確かに細くてちっこい枝でやろうとしてたくらいだ。それよりは上質な材料に違いない。でももし、この大きさになっても売り物になりそうなアイデアが浮かんだら教えてくれるとありがたい。こんな量の木材、全部はお前の家には置けないだろうから、次の仕入れで材料が来るまでだったら置いておいて構わないぞ。もう同じようなことはないと願いたいところだが、またないとも限らないし、他の工房で同じようなことがあったら買いとってやることもできるようになるからな」


今回、この工房であったのは人的被害だったが、これが自然災害のような形で起こることもあるらしい。

そうなった時の対策として、僕が何を形にできたのか知っておきたいのだという。

もしそれが新しい使い道として、今まで処分されていた木材が有効活用できるアイデアなら取り入れていきたいし、それが工房内でできるようになれば、他の工房で被害にあった材料があれば、それを買い取ることで、その工房を少しでも助けることができるかもしれないというのだ。

人情に厚い親方らしい意見だと僕は思った。


「わかりました。僕はこの木材を家のために使わせてもらえるので充分です。工房のためになりそうなアイデアを頑張って考えたいと思います」

「ああ。ほんとに……頼りにしてるな」


悪いな、という言葉を飲みこんで、代わりの頼りにしていると親方に言ってもらえた僕は、やっぱり親方の期待にこたえられる案を出したいと思った。

もしかしたら親方の手のひらの上で踊らされているのかもしれないが、別にそれでもかまわない。

こんなことがあった時にどうかとは思うが、今の僕は大人として認められた気がしてとても幸せな気持ちになっていた。

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