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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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深刻な被害

倉庫が荒らされた話は僕の予想を大きく上回る大事件として扱われていた。

正直に言うならば、過去の世界ならここまで大事にはならなかったと思う。

彼らがやったことは、小学生のイタズラか軽いイジメとか、癇癪を起した子供が教室で大暴れして備品をたくさん壊したというレベルだ。

もちろん内容に関わらずイジメが許されていいという訳ではないし、過去ではまだ子供として扱われる年齢とはいえ、ここでは大人として扱われ給料をもらって仕事をしている身分なのだから癇癪を起こすのもダメだ。

親方は工房の中でこういうトラブルはたまに起こるというが、それはきっと学校に通って集団生活という者を学ぶこともなく、子供のうちから大人に混ざって働かなければならない子供が多く、そのようなことを学ぶ機会に恵まれることのないまま育ってきてしまったからのような気がした。

働くという形で実践的な共同生活をしていても、仕事となれば上の言ったことができていることでしか評価を得ることはできない。

学校ならばお互いの特技を尊重したりするような場面もあるのかもしれないが、仕事の場合は言われたことができていればいいし、上司の気に障らないような生き方をしていければそれなりに出世が見込めてしまうのだ。

だから彼らは下のことはあまり見ない。

見るのは上の人。

工房で言うなら親方の意に沿っていればいいということになる。



そうして彼らは自分たちを認めてもらうために僕を下げようとして今回の事件を起こした。

その結果、工房の被害は予想以上に深刻なものになってしまっていた。

まず、彼らが結果的に破損した木材。

単に倒しただけではない。

長さのあるものが途中で折れたり欠けたりしている。

削ってごまかせるものもあるかもしれないが、実はそう単純にはいかない。

何故なら工房は多くの木材の予備を抱えられないからだ。



木材はキズがなく大きく太く真っ直ぐというのが、材料として使えると判断される最低の基準だ。

他にも太くてまっすぐであるとか、薄くて幅の広いものが貴重だったり、色々複雑だ。

太くてまっすぐな木材は、建物の柱のような丈夫にしなければならないところに使用することの多いものだが、木は自然に育つものなので、必ずしもまっすぐ育つとは限らない。

貴重な木材は重いものを支えたり、建物の床や壁を平らに保ったりするのに必要だが、この世界では手に入りにくいものの一つだ。

厚みがあるものを薄くすることはできるが、逆はできない。

幅の広さは元の木に太さや幅が必要だからだ。

特に建物を作るならばその条件が必須だし、他のものを作るとしても、より良い木材を使えば、良いものが完成する。

それに折れた木は元のサイズで使うことはできない。

そんなことをしたら欠陥品ができてしまうからだ。


条件の良い木材ほど値段が高い。

だから、代わりの木を手に入れようとすると、その費用を負担しなければならない。

木材は国が管理しているため、国に依頼して購入する。

僕は親方の手伝いで何度か作成した発注書の中にあった書類を見ているので、それがどれだけ高額なのかは分かっていた。

取引先が国であり価格が一律で明示されているため、ぼったくられてはいないという安心感はあるが、とにかく高い。

だが兄弟子たちがそれをどのくらい意識していたかはわからない。

何せ彼らからすれば倉庫に行けば常に材料が揃っていて、それを持ってきて作業をするだけなのだ。

高価なものだから無駄にするなと言われても、その材料の値段を気にすることもなかっただろうし、そもそもどのように仕入れているのかなど興味もなかったに違いない。

その一連の流れも知らず、ただ技術だけ磨いていれば、自分が工房で上位にいれば認められて一流になれるのだと勘違いした結果が今回の破損だ。



ちなみに僕も子供のころからよく行っている森というものが近くにあるが、森の木を切り倒すことは許されていない。

森は国の管理で、許可なく伐採すると国の資材を盗んだとして罪に問われる。

これは木材だけではなく、森に住む獣に関しても同じ扱いだ。

だから僕たち貧困層は国が許可している採集日になると合法的な狩りに行くのだ。

ちなみに採集日も木の伐採は認められていない。

例外としては、木材が自然に折れたり落ちたりしたものを拾う、草や茎、花を摘む、気に実った果実を採る、川の水や石を持ち帰る、森の獣が街に入り込もうとしたり人間を襲った時に対処する場合などである。

だから僕はすでに折れて落ちている枝を拾い集めて簾を作るしかなかったし、森へ行って獣に襲われたら門まで走っていって門番や兵士たちに対応してもらうのだ。

最初のうちは子供だけでは対応できないし危険だから大人に任せろという説明を受けていたが、あれがそれだけの意味ではなかったことは次第に理解できた。

子供が逃げてきたという事実が門番や兵士たちが獲物に対抗していいという口実になるからだ。

そこで取れた肉は皆でおいしくいただくので、危険は伴うがボーナスみたいなもの。

そうして貧困層と兵士たちはそういう意味でも共闘し仲良くやってきたのだ。

そして馬や牛など動物に引かせた荷車を使えない理由、それも収集日だからと言って人力で運べない量の動物が乱獲できないようにするためだし、大きな木材など、荷車がなければ運べないものをこっそりと街に持ち込ませないようにするためのようだ。

そういう意味では国はうまく管理しているなぁと感心してしまうところなのだが、兄弟子たちは僕よりも裕福な暮らしをしているようなので、貧困層では常識とされる森のルールすら知らないのかもしれない。



僕はそのままでは使えなそうなものを中央に、他は確認しやすいように考えながら倉庫の整理に励んだ。

僕が大丈夫だと判断したものでも、親方の確認で破損が見つかるかもしれないからだ。

結局使えそうなものはすぐに戻せるよう、本来の配置の壁側、削ったら使えそうなものは削った後に戻すだろう位置の側に、工房の商品としては使えなそうなものは中央に配置して僕は整理を完了とした。

あまりきれいに並べてしまうと親方が確認して移動しなければならなくなった時に他の物まで移動させなければならず面倒なので、少し隙間を空けたから、一見雑然としているように見えるが、僕からすれば満足だ。



事情を説明しに来てくれた昼から、兄弟子たちの分の仕事を替わりにしていたのか疲れた様子の親方は、夕方に再び倉庫にやってきた。


「親方、まず大丈夫だと思ってまとめたのを確認してもらえますか?」


疲れた様子の親方に僕は容赦ない言葉だと思ったが、親方には工房の代表として早く被害状況を把握してもらいたいと僕は思った。

仕分けをしてみて、被害の大きさが浮き彫りになったからだ。

親方も僕の落ち込んだ声のトーンで察したのか、文句を言うことはなかった。


「ああ。それはどれだ?」

「壁沿いに立てかけてあるもののだけです」


僕がそう伝えると、親方は壁に沿って置かれた資材を一瞥してため息をついた。


「……そうか。お前から見てもこれしか残らなかったんだな」

「完全な状態なのは、そうです。でも僕が見落としてるキズとかあるかもしれないので……」


親方は壁沿いに僕が置いた材料を壁に沿って歩きながら見て回った。

何となく展覧会の展示品のような扱いになっているが、親方から見立てが正しいと言われたらすぐに資材としていつもの通り重ねてまとめるつもりだ。

もし見立てが間違っていたら僕は指示をもらってその資材を移動させなければならない。

僕は自分の見立ての審査を受けている気分になり、緊張しながら少し離れて親方の後ろをついて歩いたのだった。

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