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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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荒らされた倉庫

翌朝、そんなことがあったとは知らない僕はいつも通り工房に出勤するとその足で倉庫に向かった。


「これは……」


倉庫の入口を開けた僕は愕然とした。

倉庫が荒らされていたのだ。


「誰がこんなことを……」


僕は入口に立ったまま全体を見回してすぐに状況を確認することにした。

中に入らないと分からないが、目を凝らして見ると奥の方にある大きめの資材なども含め、壁に立てかけてあったものがことごとく床に倒されて、他の資材はその大きい資材の下敷きになっているようだ。

棚にまとめておいた道具棚も倒れていて、床には資材だけではなく道具も散乱している。

そして入口に積み上がっているのは、おそらく帰りの遅くなった兄弟子たちがいつも通り帰る時に中の様子など気にすることもなく、そのまま置き去りにした資材や道具と思われる。

とりあえず入口に積まれた資材をどけて中に入らないことには何もできない。

だから僕は荒らされた倉庫の入口から中に入るための道を作るべく片付けを始めた。



片づけそのものは苦痛ではない。

仕事の時間にしていることで、ちゃんと給料も出る。

単にこれは今日の僕に割り当てられた仕事という認識だ。

けれど片付けながら、この仕打ち、恨みや妬みが明らかに僕に向けられたものだということは流石にわかる。

その現実は、僕が昔、引きこもった原因と似たものなのではないかと、どこかで感じていた。

あまり思い出せない過去だけど、時々、こんなことがどこかであったような気がする、という感覚に襲われることがある。

過去の映像まで浮かんでくることはきっと体験したことなのだろうが、感覚的なことになると、今世なのか前世なのか、はたまた遺伝子にでも組み込まれた記憶なのかもはやわからない。

頭の中はそんな考えに支配されていたが、僕は片付ける手を休めることはしない。

不思議と作業とは違う部分でものを考えることができるようなのだ。

周りに人がいないので、考え事をしている僕が周囲からどう見られているかはわからない。

独り言とか言ってないといいなあとか、迷惑かけてなければいいなあくらいには思うけど、今まで誰にも指摘されたことがないから、恐怖や苛立ちで暴れたりものを壊したりはしていないはずだ。

少なくとも一人の時に不自然に壊れたものを発見したことはないから大丈夫だと信じている。



考え事をしながらとりあえず仕分けをしたり元に戻したりと体を動かしていると、まだ工房にはさほど人が来ていないはずの時間に倉庫のドアが開いた。

僕はその音を聞いてもう人が来るような時間になってしまったのかと慌てたが、そうではなかったらしい。

入口に立っていたのは親方一人だった。


「こりゃあまた……」

「親方……」

「お前、心当たりはあるか?」

「いえ……」


心当たりがないというのは嘘だ。

だが証拠がない。

仮に兄弟子たちに目を付けられていたとしても実行犯は分からないし、僕が何人の兄弟子にそういう目で見られているのかは見当がつかなかった。

確かにこれは人為的にやられたものだと思うが、本当に兄弟子たちなのかも分からない。

もしかしたら僕が帰って兄弟子たちが道具を戻しに来るまでの間に酔っ払いが入り込んでひっちゃかめっちゃかにして出て行ったのかもしれない。

そして当然だが僕がやったわけではないし、この地に昨晩、大きな自然災害などは発生していない。

犯行現場を見ていたわけでもないし、それが記録されていて証拠として提出できるわけでもない。

だからそう答えるしかなかったのだ。


「そうか。……悪いが今日はここの片付けを頼む」

「はい。一応、ダメになってる材料は別にしておきます。削ったりすれば使えるならそうしますが、とりあえず無事なもの優先で」


僕が事務的に片付けの手順を親方に説明すると、親方はさらに表情を曇らせた。


「すまんな」

「親方が謝ることじゃないですよ」

「ああ……」


親方には心当たりがあったのだろうか。

さっき僕が心当たりはないと答えてから、急に表情を硬くしてそのままだ。

すでに片付けるために僕が動いていて、この有様ということは、元はもっとひどい状況だったに違いないと親方は察したらしい。

とりあえず僕は一日時間をもらって徹底的にこの倉庫の中を整理することになった。



僕が必死に倉庫の中を片付けている間、親方は兄弟子たちと作業場で話し合いを設けていた。

昨日に続いて今日も僕はその話し合いのことは知らされていなかった。


「お前ら、昨日倉庫に行ったな」

「え、行きましたけど……」

「倉庫で何を見てきた?言われた言葉の意味は理解できたのか?言ってみろ」


そこから親方の追及は激しくなった。

怒鳴り声が作業場に響き渡っていたという。

しばらくして彼らは追及を逃れることはできないと判断し、自分たちが倉庫を荒らしたことを認め、事の顛末を話し始めた。



彼らは倉庫に行き、言われた通りじっくりと片付いた倉庫の中を見たという。

自分たちが片付けた時との違いと言われても、やる人が違うのだからその内容が違うのだろう程度しか思わなかったそうだ。

真面目に倉庫の中を見てから、兄弟子たちはふと短絡的な考えを持った。

朝になってきれいになっていなければ新人の評価が下がるのではないかと。

そして親方の評価のことでイライラしていたこと、同じように考えている仲間が数人いて気が大きくなったこともあり、彼らは倉庫内で派手に暴れ、その荒れた倉庫を見て満足して帰った。

翌日、新人はこの倉庫を片付けきれず作業場に来ることができないだろうし、作業場に来なければ目につくこともない。

そしてこれ以上、先に行かれることはないとそう考えて。



全ての事情を兄弟子たちから聞いたらしい親方は、その話が終わると兄弟子たちを帰らせて僕の片付けている倉庫にやってきた。


「何か、悪いことしちまったな」


親方はそう切り出してて、僕は今回の件は一部の兄弟子が、書類仕事をしている僕を見て妬む気持ちを持っての行動だったと説明してくれた

そして親方は兄弟子にそんな感情を抱かせたこと、そしてこのような事態を招いたことを僕に謝罪した。


「いえ。僕もそこまで気が回りませんでした。兄弟子たちの方が先輩なのに、彼らがやってないことを教わっていたら不愉快ですよね。今回直接何かしなかった方も、何もしなかっただけで同じ気持ちだったのかもしれません」


僕よりも長く言われたことをひたすら頑張ってこなしてきたのに、突然現れた後輩に先を越されたのだから、よく思わない人がいても不思議じゃない。

人との関わりが薄い僕にだってそのくらいのことは分かる。

だから僕は感じたことを素直に言葉にした。

すると親方は頭をガシガシと書いて唸り声を上げてから言った。


「あのなあ……。お前はよくできたやつだと思うぞ。それに今回だってお前が悪いことをしたわけじゃない。あいつらに対して理解してやれるのは良いことだけど、新人に気を使わせてでかい顔するなんざ、許されていいことじゃねぇ。ましてや、道具や材料を丁寧に扱えないやつなんざ論外だ」

「道具や材料に関してはそう思いますが……」


仮にも仕事で来ているのだ。

そこで使う仕事の道具や材料を粗末にして工房に損害を与えていいわけがない。

職人の心意気という部分でもダメだが、仕事をする人間としても失格だと正直思う。

ただ、この世界はそこまでリテラシーが高いとか、規則が決まっているとかそういうのはあまり見かけない。

どちらかといえば義理と人情と罰則で世界が回っているようなところが多いのだ。


「これは俺の責任だ。工房やってりゃあ、たまにはあることだ。だからお前が気に病むこたあないぞ」

「はい……」


素直に返事をしてみたけれど、僕は今まで誰かにこんな風に言われたことはなかった。

何かされたのはされる原因となった僕に責任があるようにどこか感じていたし、どこかでやっぱり僕のせいなんだろうと考えずにはいられなかった。

だから何もされないためには人とできるだけ関わらないようにするのがいいと。

たぶんこれは僕の前世の記憶、というより、前世で染み付いた傷つかないための防衛手段で、そして本能のようなものなのだと思う。

でもそんな風に考えなくていいと親方は言ってくれた。

だから僕はそんな親方の期待に答えて前を向けるようになろうと密かに決心した。

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