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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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妬み

正式採用されてから、僕はますます忙しく働くようになった。

朝と夕は倉庫の片付け、空いた時間は兄弟子と同じように部品の一部を作ったり、親方に呼ばれて書類の雛形を書き写したりを繰り返す日々だ。

ちなみに親方からもらった工具だが、すぐに出番が来ることはなかった。

親方からもらった工具を使うのはもう少し先の工程に進んでからなのだ。

だから僕が任されている部品を作るのに必要な工具は、残念ながら親方からもらった中には入っていなかったので、倉庫から借りていたのだ。

けれども僕はいつでも使えるように常に持ち歩いていた。

それは工房の仕事の時だけではない。

家の中でも、用事をこなす時でも肌身離さず持ち歩いた。

いつしか僕にとってこの工具はお守りのようなものになっていた。



とんとん拍子に親方から仕事を教えてもらう立場までになった僕は、作業場でも少し目立つ存在となってしまっていた。

僕としては工房に残るため、できることを増やそうと一生懸命アピールした結果なのだが、それがどうも仇となってしまったようだ。

意識するようになった当初は気のせいだろうくらいに思っていた。

見習いの頃からそういう目を向けられていたからだ。

けれど正式に採用されて僕の仕事量が増えてしばらくすると、それは顕著になった。

特に仕事について質問することもなく、ただ黙々とこなせるようになっていたので気が付くのが遅れたのもあるが、先輩である兄弟子たちから少しずつ遠巻きにされるようになっていった。



そして僕の知らないところで兄弟子が親方に意見をしに行ったらしい。


「親方、なんで新入りにばっかり声を掛けるんですか!」

「そうですよ。それに何で一つもまともに作業のできない奴が正式に採用されてるんですか。俺たちの時は言われた作業ができないと採用されなかったじゃないですか」


作業場での仕事が終わり僕が倉庫の片づけに向かってほどなく、兄弟子たちが親方の周りに集まって口々に意見を言い始めた。


「何の話だ?」


親方が怪訝そうに言うが、兄弟子の勢いは止まらない。


「親方は随分と新入りを可愛がって面倒見ていますよね。自分たちの時は兄弟子からしか学べなかったのに、直接指導しているじゃないですか!」

「そうです。なぜ彼がそんなに贔屓されてるんですか!」

「自分たちも親方から指導を受けたかったですよ!」


まず兄弟子たちは自分たちは直接指導を受ける機会がほとんどなかったのに、新人に関しては何かと目をかけていて、事あるごとに声をかけているのが気に入らなかったらしい。

実際は作業をしろ、倉庫を掃除しろと指示を出しているだけなのだが、それを嫌な顔一つせずやっているため、自分たちよりやりがいのある仕事を任されていると解釈したのだ。


「……ああ、なるほどな。だがお前たちはもう決まった仕事があるだろう」


親方は新人にはまだ特定の仕事を任せていないから、いちいち指示を出さないといけないし、指示した内容を教えられる手の空いている人間が自分しかいないから自分で教えたのだと説明した。


「そうですが……じゃあ、自分たちには新しいことを教える価値はないってことですか?」

「いや、そんなこたあ言ってねえだろう」


聞かれれば答えるし、声をかけていないわけではない。

基本的に日々同じ作業の繰り返しになりがちではあるが、きちんと能力を見極めて良いタイミングで次の工程の仕事を覚えられるように指導してきた。

進めば進むほど技術が必要だし、失敗の許されない作業を任せることになるのだから、技量不足であれば途中の工程で頑張ってもらうしかないのだ。


「じゃあ、何で新入りばかりに声をかけているんですか!」

「そうですよ。自分たちが任されてないようなことまで教わってるのはおかしいですよ」


だんだんとエスカレートしていく内容に親方はどうしたものかと考えながら頭をガシガシと掻いた。

親方もここに来て何の話をしているのか理解できたのだ。

ここにいる人たちが言っているのは、おそらく書類仕事をさせたことだと。

書類仕事はどうしても親方の目の前で行うことになる。

実際に作業している時。向かい側で違う仕事をしているのが大半だが、向かい合って座って同じ机を使って作業をし、時々確認のために手元のものを見せたりしていれば、それが確認のためではなくマンツーマンの指導に見えてもおかしくはない。



「お前ら、倉庫見たか?」

「倉庫ですか?」


急に話が変わったため、意味が分からないと兄弟子が強い言葉で返すと、親方はため息をついて続きを話した。


「お前たちにも、あいつが来る前まで片付けを任せていたと思うが」

「もちろんやってましたよ」


この工房で見習いを経験した者なら誰もが通る道である。

当然兄弟子たちも倉庫の整理は経験した。

だから堂々とやっていたと宣言したのだ。


「じゃあ、あいつが管理してる今の倉庫と、お前たちに任せてた時の違いを言ってみな。材料取りにくらい行ってんだろ」


倉庫は場所も広さも変わっていない。

塗り替えたりしたわけでもないから入った印象も特に変化はないはずだ。


「特にこれといって変わった様子は…。歩きやすくなった気はしますけど……」

「そうですね、入口に積みっぱなしってのはなくなりましたけど、それ以外は……」


兄弟子たちが口々に大きな変化はないと言葉にすると、親方はため息交じりに言った。


「そうだろうなあ。そうだと思ったんだ……」

「親方、どういうことですか?やっぱり納得できませんよ」


兄弟子たちはその後も親方に理由を問い詰めた。

だが、納得ができなかったらしい。



親方が書類の仕事を任せることにしたのは、本人がそこに興味を持ったからだけではない。

倉庫で整理を行った時、その整理と分類の能力が飛び向けて高かかったからだ。

書類というのは紙でできている。

紙は風が吹いたら飛んでいったり、隙間に落ちて見失ってしまったりするような薄いものだ。

それなりに整理をしていて必要なものがすぐに取り出せるようにできなかった彼らに大事な書類を預けるわけにはいかない。

部品のように失くしたら作り直せば何とかなるというものではない。

だからきちんと管理のできる人にしか、書類仕事を任せることはできないと考えてのこと。

つまり最大の理由は彼らが適性なしと判断されたためなのだ。


「あのなあ……。お前らは、観察力に欠けてんだよ。道具戻す時によく見とくんだな」


親方はそれだけ言うと、もう帰るようにと手をひらひらと振りながら彼らを追い払った。



その日、兄弟子と親方が言い合いになっていることなど全く知らないまま、僕は倉庫の片づけを終えるとさっさと家に帰ってしまったのだった。

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