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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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兄弟子の観察と新しい課題

親方から見学を許された翌日から、僕は倉庫の片付けをしてから作業場に足を運ぶようになった。

最初は同じ兄弟子のところに向かったが、そこで親方に呼び止められた。


「今日はあっちな!」


親方は違う兄弟子のところに行くように指定すると、すぐに仕事に戻るため去っていく。

僕は親方に言われるがまま、指定された兄弟子のところに足を運び、挨拶をして、それ以降ずっと観察をすることになった。

それからも親方は僕が作業場に来たとわかると、その日の観察対象となる兄弟子を指定しに来るのでそれに従う日々だ。

基本的に親方が観察するように指示した兄弟子は、木を削って何かを作る作業をしていることが多いということに気が付いた。

おそらくこの木を削るという作業が基本作業ということなのだろう。



そんな日々に変わってから落ち着いた頃、いつもの通り作業場に行くと、親方に声を掛けられた。

いつも通り、どの兄弟子のところに行くのか指示が来るのかと思っていたら、今日は内容が違っていた。


「ああ、いい忘れてた。一旦倉庫に戻って、倉庫にあるこれと同じやつ持ってきてくれ!」

「わかりました」


僕は親方の持っている道具が壊れてしまったのかと思い、慌てて作業場を飛び出すと、さっき見せてもらったのと同じ道具を探した。

慌てて飛び出したので、しっかりと親方の持っている道具を確認していなかった。


「確かこれだったな……」


慌てていて曖昧になってしまった記憶を頼りに、僕は道具を選ぶと、急いで親方の元に戻った。


「親方、これで合っていますか?」

「……ああ。一回り小さいが、そっちの方が加工しやすいかもしれねぇから、それでいくか。じゃあそれ持ってついてきな」

「はい」


どうやら刃の形は同じだが一回り小さい道具を選択してしまったらしい。

これからは同じものを瞬時に判別できるようにならないといけないなぁと考えながら親方についていくと、兄弟子のところにあったのと同じような木の小さいテーブルと椅子の代わりに使っていた箱が二つ置かれていた。


「まぁ、座れや」

「はい……」


僕は親方に言われるがまま、その箱の上に腰を下ろした。

親方はもう一つの箱の上に座ると、僕の方に体を向けた。


「で、どうだ?色んなやつの見て。できそうか?」

「できそうか、ですか……。そうですね、やってみないと解りませんが、練習すればできるようになると思います」


今までの兄弟子の作業を見る限り、学校の工作で版画を作るようなイメージの作業が多かった。

すでに下書きされたデザインの通りに削ったり、角を丸めたりするのだ。

版画と違うのは、それ一本で穴をあけて貫通させたり、角を落として丸くしたりしていたことだろうか。

完成品が立体的なデザインなので、インクを付けて紙に押すという作業はできない形になる。

作業内容が似ているとはいえ、素材も道具も違うので、本当にできるのかと言われたらやってみないと分からないが、道具の使い方も大きく変わらないと観察しながら思ったのだ。


「そうか。じゃあ、その持ってる道具を使って今から言う通りにこいつを削ってみな」

「え?あ、はい!」


僕の答えを聞いた親方は、はがきサイズの版画版のような板を渡した。


「じゃあ、とりあえずこの板、それ使って線の通りの形にしてみな」

「はい」


渡された薄い手のひらより少し大きめの板の片面一辺に波打ったような模様が描かれている。

大きさははがきくらいだが厚みはあまりなく、僕のイメージしている版画版より一回り薄い。

細いペン一本分くらいだろうか、ふたつに折ろうと思ったら端を持って力をかけたら簡単にできそうだし、力の加減を間違えれば作業中にポキっと折れそうな感じである。

ちなみに僕が持っているのは彫刻刀の平刀を少し大きくしたようなものだ。

僕はとりあえず細くて安定しない木を立てたり横にしたりしながら下書きに合わせて削り始めるのだった。



気が付くと、僕は親方に見られていることをすっかり忘れて作業に没頭していた。

彫刻刀そのものはあまり使った経験はないのだが、どこかの世界ではもっと細かいミニチュアの作業をしていて、その時もカッターナイフやヤスリで微調整をしていたし、ここに来てから自分で作ったナイフを使ったりしていたからか、ものを削るのは苦ではなかった。

ただ、こだわりがある僕としては、この道具一本でというより、場所によって道具を使い分けたいし、できるならばヤスリなんかできれいに磨きたいと思ってしまう。

けれどこれは試験のようなものだし、使っていいのは自分が親方と同じ道具だと選んだこれ一本。

出来上がってからどうしてもきれいにしたいのなら、終わってから親方にそういう道具があるのかどうかを確認して、使っていいかどうかも聞いてみたい。

金属以外の道具、例えば紙やすりのようなものはこの世界で見たことがない。

倉庫の道具を整理していてもそのようなものは見かけなかった。

紙やすりのようなものは紙が高いこの世界では存在しているとしても最高級品に違いないので、ないものと思った方がいいだろう。

けれど目の細かい金属のやすりなら、もしかしたら存在しているかもしれない。

そもそも紙やすりは消耗品だし、テスト品のために使っていいものではないだろうから、せめて消耗しないものを借りたい。



そんなことを考えながら作業を続けていると、気が付けばかなり形が出来上がっていた。

やはり集中して作業をするのはやはり楽しい。

僕は一度道具を置いて少し距離を変えてその木を見た。

そろそろ微調整を始めることにしたのである。


「終わったか?」


僕が道具を置いたので親方は作業が終了したと思ったのか、声をかけてきた。


「形はできたんですけど、まだ細かいところが荒いので微調整したいです。なので完成というわけではないんですけど……」

「そうか。じゃあ、気が済むまでやってくれ」

「わかりました」


親方がまだ作業をしていいというので僕は其のまま作業を続けることにしたのだった。



結局僕は時間いっぱい使ってその模様部分を完成させた。

僕からすれば彫刻刀一本でここまでできるのかと、正直驚くくらい頑張った渾身の作である。


「親方、できました」

「そうか、じゃあちょっと見せてくれ」


僕は親方に言われて自分が作業をしていた板を手渡した。

親方は受け取った板を傾けたり、削った部分を手で触ったりして、しっかりと確認をしている。

親方が確認している間、僕はその様子を黙って見ているしかできなかった。

それはほんの数分の出来事だったと思う。

けれど、僕の中ではとてもその時間が長く感じられた。


「こいつでここまで頑張ったことは褒めてやる。初めてにしては上出来だが、まあまあだな。つーか、きれいにしようと頑張ったのはいいんだけどな、本番でこれじゃあ削りすぎだ」


僕は線ぎりぎりをきれいに削るために一生懸命頑張ったのだが、親方からすればそれは削りすぎなのだという。


「まぁ、わざと説明はしなかったんだ。この作業の後にもっと削った部分を滑らかにする作業があんだよ。その時、滑らかにするためにその部分が余分に削れちまうんだ。微調整はそこでするから、そいつだけでやる必要はなかったんだけどな。まぁ、お前の技術がどんなもんかはよくわかった。ちなみにこいつも商品になるやつなんだがな」


僕は親方の最後の言葉に衝撃を受けた。

テストだと思っていたし、この木は余ったものだから僕に渡されたものだと思っていたのだ。

それなのにこれは本番用のもので、しかも商品に使われるという。

知っていたら無理はしなかったのに削りすぎたものなどどう使うのか、むしろ頑張りすぎて使えないものにしてしまったのが僕というのは失態だ。

僕が受けた衝撃のまま固まっている間、親方は僕の木を持って別の机に行き何かしてから戻ってきた。


「ちなみにさっき引いた線は間違ってもいいように余白を多めに取ってあったから安心しな。本当の線はここだ。ちなみに、本番の線がここにあったら、このくらいの余白を残して削るようにするんだぞ?削り落しちまったカスを繋ぎ合わせて商品にするわけにはいかねぇからな?」

「わかりました……」


僕は商品を無駄にしなかったことに安堵して、ようやく返事をしたのだった。

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