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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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倉庫から作業場へ

今日も倉庫の整理をしていると、親方が倉庫にやってきた。

ちょうど持ち込んだお昼ごはんを食べて、仕事を再開したところだったけれど、きっと親方は休みなく働いて片付けたと思ったのだろう。


「それにしても午前中だけでこんなにきれいにできるのか。だいぶ早く片付くようになったなあ!」

「はい。勝手ながら場所は固定しましたし、あとは入口に置かれたのをそこに戻すだけなんです。貯めずに毎日やれば問題ないです」


正直模型を眺めている時間も作れるし、ゆっくりご飯も食べられる。

最近では休憩時間の方が長いくらいなので、おやつの時間も設けられるくらいだ。

でもそれを言うと、変に仕事を押し付けられるのではないかと少し不安があるので口には出していない。

その時間を模型を観察したり、研究して寄りよくする方法を模索したりして妄想している方が楽しいからだ。


「そうか。……じゃあ、次にいくか。ついてきな」

「えっ?どこに行くんですか?」


そんな僕の思惑に反して親方は僕をどこかに連れて行くと言い出した。

他にも倉庫があるのかもしれないと思いながら戸惑って尋ねると、呆れたように親方は言った。


「どこって、工房に決まってるだろうが。お前、何になりたくてここに来たんだ?一生、倉庫の片付けしてるつもりか?」

「そんなことは……」

「こっちだ。早くしな!」

「は、はい!」


どうやら倉庫の片づけが終わった僕は作業場に連れて行ってもらえるらしい。

確かに出来上がった模型を観察しているより、実際に作業をしている人を見ていた方が勉強になる。

僕は嬉しくなって大きな声で返事をしてから、親方の後を追った。



「まあ、とりあえず、今日は見学だ」


親方は倉庫がどのくらい片付いているのか知りたくて来ただけだったが、思った以上に片付いていたので工房を見せようと呼んでくれたらしく、今日は何も道具を準備していないから見学で我慢してくれという。


「倉庫だが、朝と帰りの片付けを続けてくれ。片付けが落ち着いた残りの時間は工房に来りゃいい。何かあればやらせてやるよ」

「ありがとうございます!」


僕が作業している工房の中に入るのは、初日の見学以来だ。

しかもその時は早く切り上げられて自分の歓迎会をしてもらった。


「とりあえずそこに座んな」

「はい」


案内されたのは初日の見学と同じ位置に置かれたままの椅子だった。

見学はここが定位置なのだろうかと僕が少し考え込んでいると、親方はすぐに座らないで椅子を見つめている僕に話しかけた。


「……どうした?」

「ちょっと初日のことを思い出してしまいました」

「ああ、そういや、初日もそこで見学だったか」

「はい」


親方は初日に工房全体の見学をさせたことを忘れていたのか、同じことをさせても仕方がないと思ったのか、指示を変えた。


「そうだなあ。じゃあ、あそこで作業してるやつを観察しとけ」

「人を観察ですか?」

「ああ。ちゃんと感想は聞くからそのつもりでいろよ」


おそらく前の世界ならレポート提出のような話なのだろうがこの世界での理屈は良く分からない。

僕は兄弟子のところに案内してそのまま立ち去ろうとする親方を思わず呼び止めた。


「あの……」

「何だ?」

「どこに基準をおいて観察すれば……」

「そうだなあ。好きなとこと、目についたとこでいいぞ。やつの技術は盗むレベルじゃないしな。だが、それでもお前よりゃあ、基礎はしっかりあるぞ。まあ、邪魔にならん程度に観察してくれ!」

「わかりました」


親方の言い方では彼は下っ端ということになるのだろうか。

でも道具を持って作業をしていることには間違いない。

僕より基礎はあると親方が認めているのだから、僕はそれに従って彼から何かを学びとらないといけないのだ。

技術は盗むレベルではないというのだから、おそらく基礎がどこかを押さえておけばいいのだろう。



「あの、先程親方にあなたを観察するように言われました。よろしくお願いします」

「あー、うん。よろしく……」


ほぼ目の前で繰り広げられた親方とのやり取りが聞こえていたのだろう。

僕が声をかけると、彼との間に非常に気まずい空気が流れた。


「邪魔にならないように離れてますので、お仕事続けてください」

「……そうするよ」


お互いどうしていいのか分からないと戸惑いながら探り探り二言三言会話を交わして以降、しばらく沈黙することになった。

僕は親方に指定された兄弟子のところに、挨拶以降、一言も発さずに観察を続けた。

彼はというと、一挙手一投足を観察されて、緊張しているのか、居心地が悪いのか、その両方なのか、集中できないらしい。

僕はそこも含めてじっくりと見ることにした。

そうすれば親方は彼のどこがダメだと言っているのかも理解できるかもしれないと考えたのだ。



結局僕は、親方が呼びに来るまで彼にしっかりと張り付いた。

何を聞かれても答えられるようにしておかなければ、次に進めないだろうと思ったからだ。


「おい、調子はどうだ?」


こちらにやってきた親方はまず兄弟子に声を掛けた。


「あ、はい……」


いつもより作業が進まなかったのだろう、兄弟子は困惑しながら手元を見ている。


「ああ、まあ、進まなかったのは分かった。話は後で聞かせてくれ」

「はい」


兄弟子は返事をしてから親方に頭を下げた。


「で、お前は、一旦倉庫に戻ってくれ。また入口に積み上がるだろうからな」

「わかりました。倉庫の片付けに戻ります」


今度は僕に指示が飛んだ。

周囲を見ると、他の人は道具をまとめ始めているので、皆この時間から帰り支度を始めるのだろう。

これから僕は彼らが放り込んでいく道具を倉庫に戻って片付ければいいらしい。


「ありがとうございました」


一日観察対象になってくれた彼にお礼を言うと、彼は気まずそうに一度僕の顔を見て、すぐに目をそらした。


「いえ……」


彼はそれだけ言うと、僕の方を見ることもなく道具を片付けはじめた。



その後の僕は親方に言われるがまま倉庫に戻った。

戻ってみるとすでに入口には物が置かれ始めていた。

大きい資材なども置かれているので複数回に分けないと運べない人はすでにここに持ち込み始めているのだろう。

僕は時計などを持っていないので、何時から運ばれるのかわからないし、この放り込みラッシュが落ち着いたと見込んだところで帰るようにしているが、その見極めは良くわからない。

注意されていないのだから問題ないのだろうと思っている。

だから僕はいつも通り、帰る前の一仕事をして、その日の仕事を終えた。

後日聞いた話によると、彼は観察されるのか辛かったらしく、今後はその対象から外してほしいと親方に泣きついたそうだが、それは僕のせいではないので、聞かなかったことにした。

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