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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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職人街

連れてっておねだり大作戦を繰り返した結果、ついに僕は市場以外の場所に足を踏み入れることに成功した。

父親が壊れた狩りの道具を作り直すための素材を買いに行くというので、市場にあるのだろうとついていったところ、そこが職人街だったのである。



実は出かける前にひと悶着あった。


「いいか。これから行くところには怖い人がたくさんいるんだ。みんな真剣にモノを作っているところだからな。絶対に邪魔をしてはいけないよ。それからくれぐれもモノに触れないようにするんだ。それが約束できるなら連れて行ってやろう」

「うん。約束するよ」

「大丈夫かしら?」


母親が心配して僕をおいて出かけるようにと父親に言い始めたのだ。


「大丈夫だろう。市場でも迷子になるようなことはなかったんだろう?」

「そうだけど……」


僕が何を心配されているのかを気にしながら話を聞いていると、子供が職人の作ったものを壊してしまい弁償させられることがあるのを心配しているらしい。

職人の作るものは高価なものが多く、大人ですらあまり商品に近寄ることはないのだという。

そんなに壊れやすい繊細なものばかり扱っているのか、子供のやんちゃ過ぎて大きなものまで破壊してしまうのかはわからないが、自分の家の中を見渡せば、繊細じゃなくても壊れやすいものはたくさんある気がしてきてため息が出た。

どちらにせよ、モノは大切に扱わなければいけない。

それなりの年齢を経験した僕は充分わかっている。

わざとじゃなくても壊してはいけないものには近づくまいと、固く誓った。



そしてふと、自分の今の年齢を改めて考えてみれば、正確に寄ってはやんちゃで、すぐに親の手を話してどこかに行ってしまったりするような年頃であることに気がついた。

大人から見れば危なっかしい年齢なのだ。

そして僕は比較的おとなしい聞き分けの良い子である。

少し大人びてしまっているかもしれないが、そのうち体の年齢のほうが精神年齢に追いつくだろう。

気にしても仕方がない。

とりあえず、僕はそんな会話をしている両親にダメ押しした。

行ったことのない場所ならぜひ足を運んでおきたい。


「僕、父さんにピッタリくっついて離れないようにするから!」

「先に連れて行くって言ったのは父さんだしな、行くか」

「うん!」


こうしてどうにか僕は職人街に行く権利を得ることに成功したのだ。



職人街は市場とは別のブロックにあった。

こちらは職人街と言われるだけあって、非常に個性的な商品と、クセの強い職人が集っているという。

そして市場とは違ってとても静かで、子供がウロウロしている様子もない。

歩いてみた感じ、特に子供の足で来られないような場所ではないのだが、市場のような活気はなく、たまに怒鳴り超えなどが聞こえるので、子供にとって居心地良く遊べる場所ではなさそうだ。

この場所で取り扱っているものは高価なものが多いというだけあって、皆、慎重に商品の品定めをするため、大人の真剣さが伝わって怖い。

それに加えてものを壊した時の損害の話を親からしつこく聞かされていれば、いくら子供でも他の遊び場を選ぶだろう。

そういう僕は、まだ子供がたくさん集うような遊び場に行ったことはなくて、歩いていると家の周りの狭い広場にいる、ちょっと年上の子どもたちに声を掛けられるくらいだ。

そもそも、外出の際、常に親が同伴なのだから、僕の判断で遊びに混ざることは許されないのだが、そのうち一人で出歩くようになったら混ぜてもらう必要があるだろうとは思っている。

ちなみにうちは高価なものなど買う余裕はないため、たまに父親が狩りの道具を破損した時に必要な部品を買うときしか来ることはないということだが、僕からすればとても魅力的で、目の保養になる場所だ。

個人的にはじっくりと作業をしている様子なども見られたらと思うところだが、窓越しに作品が見られるだけで充分楽しい。

窓から少し離れたところに立って作品をじっと見ながら、僕は博物館気分を堪能するのだった。



一度大丈夫だと知られてからは職人街に行くと聞けば必ず父親の後についていくようになった。

正直騒がしい市場より、職人街の方が居心地がいい。


「お前は本当に職人街が好きだなあ」

「うん。見てるだけですごいのがわかるよ。いつか買ったり作ったりできるようになりたいな」


買いたいという言葉に過剰な反応を示しつつ、父は何とか威厳を保ちながら言った。


「そ、そうか……。でもな、職人への道は厳しいぞ?」

「そうだよね。こんなすごいの作るんだもん」


何度か足を運んでいるうちに、この街では職人という仕事がとても尊敬される仕事であるということが分かった。

だから決してこのぐらいのことはできるなどと口が裂けても言ってはいけないと僕は悟っていた。

むしろ持ち上げすぎるくらいがちょうどいい。

僕は工房の窓から見えるいくつかの作品の中で、一番手の込んでいる作品が気になって、窓越しにじっとその作品を眺めていた。


「よう!なかなかいい目を持ってるじゃないか」


僕がその作品に注視していることに気が付いた親方がわざわざ外に出てきて僕に声をかけた。

慌てた父親が僕を窓から引き剥がして咄嗟に謝罪する。


「親方!すみません、うちの子が……」

「なに、壊したわけじゃなし、気に入って見てくれてるってんだから悪い気はしねぇよ!」

「あ、ありがとうございます」


父親が恐縮している中、僕は子供の特権を利用して尋ねた。


「また来ていい?」

「おう。気に入ったんならまた見に来な!」

「うん!」


親方は僕の頭をくしゃくしゃと撫でたが、父親は完全に委縮している。


「お前、迷惑かけたり、商品壊したりしないでくれよ?」

「わかってる。ここから見てるだけにする」

「へぇー。お前さんとこの子は随分とてきた子なんだなぁ。中に入んなきゃ商品が壊れる心配はないな。まず安心だ。また来な!」


そう言うと機嫌が良くなったのか親方はそのまま工房の中に入っていった。

父親はこれだけで終わってよかったと胸をなでおろしたらしいが、僕は悪いことをしたとは思っていない。



こうして何度も足を運ぶついでに、いくつかの職人の作品を見ることができた。

職人たちは僕をあまり子供扱いしなかった。

本当はもう少し大人の僕は、それだけでちょっと気分が上がる。

それに職人がまた来て良いと言ってくれたのも嬉しい。

いつか親の同伴なしに来られるようになったら、工房マップでも作ってじっくりと堪能したい。

そんなことを考えてしまう僕は、もしかしたら前世よりも偏った趣味を持つようになるのかもしれないと、この時はそのくらいのことしか思っていなかったのだった。

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