工房の初仕事
前日、初めて出勤した僕は、仕事場の説明を受けたのと、その後の歓迎会にしか出ていないため仕事という仕事は何もしなかった。
職人たちには大歓迎されたように見えたが、これが歓迎会があるための歓迎なのか、僕自身の歓迎なのかはよく分かっていない。
ちなみに歓迎会で持たされた食事の残りは両親にとても好評だった。
歓迎会の間、酔っぱらった職人も追い払ってくれていたし、親方には感謝しかない。
そのため実質今日が仕事初日だ。
そんな僕が親方に連れて行かれたのは倉庫だった。
「ここにはいろんなものを放り込んでいるんだ。まあ、実際に使ったものばっかりなんだが、時間がなくてな、とにかく邪魔なものを入れておいてるんだが、整理する時間がないんだよ」
「そうですか……」
たくさんの材料があることに感動していた僕だったが、改めて説明されるととにかく整理されていないということが分かった。
「まあ、新人にはうってつけの場所だけどな。ここにあるようなものを使って仕事するんだって思って気楽にやってくれ。新人にいきなり材料を使って削るような仕事をさせるわけにいかないしな。まずはここにある材料をみて、どんなものか覚えてくれ。触った感じとか覚えてくれりゃあ上出来だ」
「わかりました」
僕があっさりと納得して返事をすると、文句を言われると身構えていたらしい親方は、目を丸くして僕を見た。
そして何か言いかけたが、せっかく僕がやると言っているのだから余計なことを言うのは止めようと考えたのだろう、一度言葉を飲み込んだのがわかった。
「時々様子を見に来るからな。せいぜい頑張ってくれ」
親方はそう言い残し、僕を倉庫に一人残すと出ていった。
僕は雑然と何かわからないものが広げられた倉庫を見回してため息をついた。
まず入口に近いところには色々なものが積まれている。
奥の方はものが少なく広いので、皆、戻す際にそこまで持っていくのが面倒だから近くに置いていってしまうのだろう。
とりあえず僕は倉庫全体を把握するために、入口の山積みを無視して奥に入っていくことにした。
そんなに広くないため、まずは倉庫をぐるっと一回りしながら何があるのかを確認、全体を把握することにした。
結果、特に決まった場所はないらしく、片付けられている場所を見ても、特に法則性はなさそうだということがわかった。
それならと僕は壁側のものの配置換えを始めることにした。
どこに何があるのかが分かるようになっていれば探しやすいし、戻す時もそこに戻すようにすればいい。
ルールを決めずに片づけをしようとすれば、物の多い場所なのだから途方に暮れることになるのだ。
今日だけでは片付けをする新人がいないからこうなったのか、一日二日でこういう状態になってしまうのかは不明だが、しばらく僕は創作作業のお手伝いではなく、この倉庫の整理を任されることになるらしい。
本当はものを作りたいし、その環境に早く行きたいところだが、まだ見習いだし、これでお金がもらえるのだから倉庫の整理も立派な仕事だと思う。
何よりここなら接客をする必要はなさそうだ。
配置だって決まっていないのだし、自由に考えていいならやりがいもある。
こうして考えているうちに、僕はすっかり片付けに夢中になっていた。
狭い倉庫といっても、家一軒分くらいの広さがある。
部屋に分かれていないので、入口から見渡すだけで全体が分かるのが本来の姿のはずだ。
それに入口周辺はともかく、中はスペースが余っているので、物を移動させることは可能だ。
配置を決めていると、過去に自分の部屋をもらったばかりの頃のことを思い出した。
倉庫は置くものを選ぶことはできないが、すでにあるものを好きなところにレイアウトするというのも、それはそれでやりがいがある。
だから僕はせっせと壁のものを仕分けした。
それから入口にあるものを一つずつ確認して、自分の決めた位置に納めていく。
しばらく作業をしていると、僕は倉庫が片付かない原因を目の当たりにすることになった。
僕がいることを知ってか知らずか、時々誰かが倉庫にやってきて、入口に何かを置いて立ち去っていくのだ。
もの静かに片づけをしているわけではないのでいることは分かっているかもしれないが、僕に声をかけるわけでもなく、ただものを放り込んで慌ただしくいなくなっているのでおそらく忙しいのだろう。
職人たちは注文されたものを完成させるのに忙しいから、ここを管理できる人が欲しくて親方は見習いを採用したようだ。
だが、その見習いがどうなったか分からない。
あれだけの歓迎会をしてくれるようなところなのだから、真面目に働いていればそんな粗雑な扱いをされるとは思えない。
見習い中に技術を学ぶことができないので、仕事内容に納得ができずに辞めてしまった人もいるかもしれないが、倉庫を卒業して職人として仕事をさせてもらえるようになった人もいるはずだ。
僕としては正直、どちらでもいいと思った。
このまま倉庫の整理をすることになってもお金を稼ぐことができる。
技術は学べたらありがたいけれど、僕の中ではあくまで生活優先。
そもそも仕事というものに夢や希望は持っていない。
片付けの途中で材料や工具に混ざってホウキが出てきた。
せっかくなので僕はそのホウキを使って埃を入口の方に掃き出しながら、奥に置くと決めたものから運ぶ作業を続けた。
ここにゴミを集めたり分別する文化は特にない。
だから埃や屑は外にそのまま掃きだしているのだが、入口から出しただけだと、また出入りをする人が中に運んでしまうので、入口から出したものは左右に散らしている。
掃除については頼まれたわけではないので、別にやらなくてもいいのかもしれないが、この感じなら時間はたくさんとってもよさそうだし、何より長時間滞在しなければならない僕が、埃屑まみれの倉庫で毎日過ごすことをしたくなかったのだ。
他にもいつのものか分からない模型が出てきたり、修理して使う予定なのか、処分していいのか分からないようなものがたくさん出てきた。
僕はとりあえず分からないものを入口の近くに並べた。
こういうものは親方がきたら一つずつ確認するしかない。
こうしているうちにとりあえず真ん中のスペースが大きく空いた。
なので入口を空けるため、真ん中のスペースに荷物を移動させて職人たちが道具を放り込みやすいようにした。
それもどうかと思うが、工房から走ってこちらに迫ってくる音は聞こえているので、急かされたり怒鳴られたりしていると思うと、彼らを責める気にはなれないのだ。
それにきれいにさえしてしまえば、僕の仕事はここで必要な道具を渡してあげたり、入口に放り込まれたものを元に戻したり、埃を掃き出すだけになる。
自分の時間も作れるし、休憩時間も長く取れるはずだ。
時間ができたらここで何をしよう、早ければ翌日からその余裕ができそうだから、暇つぶしの道具でも持ってこようか。
結局僕は、お昼ご飯を食べる時以外、妄想をしながら手を休めることなく片づけを続けていたのだった。




