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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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歓迎会

そうして工房にいる職人への支持を終えた親方が、僕の座っているところに戻って来てから、さらにしばらく僕は椅子に座ったまま職場を見ているだけの人になっていた。

親方が横に立っているのでなおさら動くことは許されない。

そして姿勢を崩すのも失礼にあたると思うので、背筋を伸ばしてきちんと座っていなければならない。

これは一種の修行だと感じ始めた頃、入口に人が来たのでふらっとそちらへ行き、その人の話を聞いて僕の横に戻ってくると、そこから大きな声で職人たちに告げた。


「お前たち!準備ができた。今日はこいつの歓迎会だ。はめを外していいのは今日だけだからな。今日たっぷり息抜きして、英気を養ってくれ!」


その声に応えて、職人たちからは雄叫びのような、歓喜の声が上がった。

そして彼らは手元にある道具を片付けてどんどんと外に出ていく。


「今日の主役はお前だからな。外に行くぞ」


立って外に出るように促された僕は、意味も分からず親方に言われるまま外に出ることになった。



外に出ると、工房の中は太陽の光がさえぎられているのでずっと薄暗く時間の間隔がなくなっていたのだが、まだ日は高く、夕方にもなっていなかった。

しかし何より驚いたのは案内されている時にはなかった食事の準備がされていたことである。

椅子はないが、テーブル代わりにする台があり、そこにたくさんの食べ物と飲み物が並んでいる。

いつの間に作られて、運ばれたのか分からないが、かなり豪華である。

カゴに入ったたくさんのパン、一口サイズにカットされて焼かれた山積みの肉、茹でられたと思われる根菜類に、ちぎって大皿に盛られた葉物野菜の山、そして食べやすいように切ってある果物もやはり山積みである。

そしてスープが入っていると思われる大きな鍋がいくつかあり、それらからは湯気が出ているので、おそらくできたてか、温めたものを持ってきてくれたのだろう。

さっきまでピリピリとしていた職人たちだが、気がつけば食事の準備を手伝い始めていて、食器などを配っている。

僕がどうしていいか分からずおろおろとしていると、親方はにっと口角を上げた。


「お前は主役だからなんもしなくていい。ちょっと待っとけ」

「はい……」


そう言われてすぐ、僕と親方のところにも食器が届いた。



「今日からこいつが仲間に加わった。みんな仲良くしてやってくれ!かんぱい!」

「かんぱーい!」


全員に飲み物が渡ったところで親方が乾杯の音頭を取った。

そして持っていた飲み物を飲みきった職人たちが一斉に料理に向かっていく。


「お前も行って来い!」


僕は親方に背中を押されて、食べ物争奪戦の中に身を置くことになった。

渡されたお皿にパンと野菜を乗せ、たくさんのスープを入れて、それらを食べては次のものを取りに行く。

並べられている状態は美しくないが、好きなものを好きなだけ食べられるバイキング形式だ。

あの家に生まれてからこんな満足のいく食事をしたのは初めてで、僕は気がつけば必死に食事にくらいついていたのだった。



食べ物争奪戦が、というよりお腹が満たされて、皆が落ち着いたところで、一人の職人が僕に話しかけてくれた。


「見習いが入ると歓迎会をするからさ、親方がおいしい料理を振る舞ってくれるんだ」

「これ、親方が作ったんですか?」


親方はずっと僕を案内して、離れたといっても目の届くところにいた。

もし親方がこれを準備してくれていたのなら昨日から仕込んでくれていたのだろうと思ったが、そうではなかった。


「いや、これを作ったのは住み込みで働いている職人の奥さんたちだけど、親方のおごりなんだ。ちなみに手伝った奥さんたちも同じ料理が食べられるようにって、親方が多めに材料を用意してくれてるから、奥さんたちは住居スペースで同じものを食べてるはずだよ」


どこかの世界の独身寮みたいなものなのだろうと、住居スペースを案内された時は思っていたがそうではなかった。

住み込みできるのは職人本人だけではなく、家族もらしい。

ただ家族用として準備されている部屋はないし、少し広めの一人用のスペースに入り込む形なので家族が増えると窮屈なのだそうだ。

だから家族が増えた職人はその住居スペースから出て行くことになるらしい。

物理的に収まることができるのなら、別にいても構わないらしい。

そして住居スペースには共有の台所があって、普段であればそこでそれぞれの家族が料理をして部屋に運んで食べているのだという。

ちなみに料理や食事に必要なものは各自負担、部屋は職人一人につき一部屋で給料から家賃が引かれているというが、人数が増えても値上げなどはされないということなので、かなり良心的といえる。



僕のために開かれた歓迎会では色々は人が話しかけてくれた。

そのおかげで僕はこの工房の色々なことを教えてもらうことができた。

しかし歓迎会のため仕事は終わりとなっていて、振る舞われている飲み物の中には酒もあるので、時間が経つにつれ、酔っ払いが増えている。

子供の僕は、お酒は飲まないし、お酒は高級品として扱われるので僕の家の食卓に普段並ぶことはない。

もし特別な日にお酒が出たとしても、酔っぱらうくらいあおることができる量は出ないのだ。

だから普通に有益な情報を教えてくれたり、ただ挨拶に来てくれたりする職人もいるのだが、その酔っぱらいが絡んできたりすることもあった。

子供の力で追い返すのは無理だが、僕が絡まれることを見越していたのか、気がつけば親方が僕の隣にずっといてくれて、絡んでくる酔っぱらいをあしらってくれた。

交流は苦手だが、情報は必要だ。

だから強制参加のこういう場所というのは重要である。

それに酔っぱらっているということは、その人の話している内容には本音が多く含まれているに違いない。

後半はグダグダになっていったが、だんだんと離脱者が増えていき、徐々に人が減っていった。


「お前も満足したら帰っていいからな」


日が傾いてきたところで、親方は僕にそう言った。

どうやらこの会、始まる時はきっちりと始まるが、終わりはなあなあになるらしい。


「わかりました……」


僕が苦笑いを浮かべていると、親方は残った料理を取りに行った。

そしてそれらをかき集めると、すぐに僕のところに戻ってくる。


「親方、あまり食べられなかったんじゃないですか?」


僕がそう聞くと、親方は大声で笑った。


「まあ、酒を飲む時はあんまり食べないってのもあるんだが、ちゃんと夜に食べる分は別に確保してるから心配ない」


僕は親方がお酒を飲んでいるのを見ていない。

最初の乾杯の時の飲み物はお酒だったかもしれないがそれ以降飲んでいないのを知っている。

だから親方が僕を気遣ってくれたのだとすぐに分かった。


「残りを持たせてやろうと思ったんだが、あんまりのこんなかったし、入れるのがこれしかなかったんだ。これでよかったら、両親とこに持ってってやんな」


親方は自分が食べるために残った料理を盛り付けていたわけではなく、僕に渡すために取ってきてくれたらしい。

しかもよく見ればその容器はここで配っている皿ではなく、箱の形をしていてふたが閉められるようになっているものだった。

見た目は四角い木の弁当箱で、僕が腕に抱えて持つくらいの底の薄い広い箱である。

親方は僕に中身を見せてからすぐにふたをして手に持たせてくれた。


「こんなにいいんですか?ものすごく喜びます。ありがとうございます!」

「いや、残りものだからな。そんなもんで悪いが……」

「あの、箱はどうしたら……」

「これか?使うんだったらやるよ。食べ物入れちまったから虫が付くだけだしな」


確かに本物の木で、中に葉などを引いていない。

食べ物の水分がしみ込んで、それを落とせなければ虫が付くというのは納得である。

虫がついた木を返されても困るということなのだろうが、そもそもこの工房でこのような商品は扱っていないはずだ。

おそらく親方がこのために準備したのだろうと僕は推測したが、結局親方は何も教えてくれなかった。

そんなこともあって、僕は日が落ちる前に家に帰れそうな時間ぎりぎりまで参加した。


「暗くなる前に帰ります。ありがとうございました」


僕はお礼がお礼を言うと、親方は片手を上げて見送ってくれた。

去ろうとする僕に気がついて、絡もうとする職人を親方が足止めしてくれているのが見えたので、僕はこれ以上手間をかけないようにと、大事に箱を抱えて素早く工房から家に向かって歩きだしたのだった。

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