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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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初出勤

面接の翌日。

僕は朝から工房の前にいた。

来てくれと言われたものの、どこに声をかけていいか分からず入口に立ちつくした状態である。


「あの、僕、今日からここに来て良いって言われたんですけど……」


入口を通りかかった職人らしき人に思い切って声をかけると、彼は僕をじっと見て、思い出したように言った。


「ああ、昨日のやつか。今日から見習いか。随分早く決まったんだな。ちょっと親方に言ってくるから、もうちょっとそこで待っててくれるか」

「はい。お願いします」


その職人はそう言ってすぐに中に入っていった。



少しすると、中から親方が出てきて僕のところにやってきた。

彼は本当にすぐに親方に声をかけてくれたらしい。


「ああ、早いな。もう来てたのか」

「はい……楽しみでつい」


本当は正確な時間が分からず、初日から遅刻するのが怖いからとりあえず入口に立っていることにしたのだが、それを口にできず子供らしい言い訳をした。

すでに親方も工房にいるし、働いている人もすでにいるのだから、この時間に着ておいてよかったとは感じている。


「楽しみなぁ……。まぁ、今日まではそれでいいけどな。仕事なんて、楽しいもんじゃねぇぞ。最初からやりたいことをさせるわけじゃねえしな」

「はい」


そもそも見習いだし、仕事というものは、やりたいことだけやればいいというものではないことは知っている。

だがここでは僕は初めて仕事というものを経験する子供なのだ。

だから思ったことは呑み込んだ。


「せっかく早く来てんだ、人が少ないうちに工房の中を案内しとくとするか。まだ仕事は始まってねぇけど、その方が中まで見れていいだろう」


親方がそう言って歩きだしたので、僕はその後ろをついて行くことにした。

まず案内されたのは、入口脇にあるこぎれいな場所は商品を並べているお店だ。

工房の外にあるから普通に通りの店だと思っていたが、どうやら工房の所有らしい。

お店は時間にならないと開かないが、自由に出入りできるということなので、回転している時間に一人で足を運んで見せてもらうことにした。

それから工房入口、中に入ってすぐの小屋、父親が最初に声をかけて職人に睨まれた場所は、やはり作業場で、すでに何人かが作業に取り掛かっていた。

親方が入って行くと職人は手を止めて挨拶をしたが、親方が作業を続けるように言うと、すぐに職人は作業や準備に戻っていった。

人数が少ないので仕事を残している人か、急ぎの仕事をこなさなければならない人が頑張っているのだろう。



続いて商談室のある別の建物、ここは昨日の面接で中に入ったところだ。

面接を受けた部屋にしか入っていなかったので、親方が中の構造を説明してくれた。

商談室は、商談の部屋だけではなく、お茶などを出すために台所などが別にあった。

お店にも商談に使えるような部屋はあるそうだが、ここはもっと大きな商談の話をしたり、権力者が来た時に案内したり、今回のような面談が行われる際に使うそうだ。

面談ではお茶を出されたりすることはなかったが、商談の際はお茶の用意などをするらしい。

そのあたりは手が空いている接客に慣れているお店の人に対応させるので、職人として見習いをしている僕ができなくても心配しなくていいという。


「あの、商談室を面接に使うのには何か理由があるんですか?」


僕は素朴な疑問を口にした。

すると親方はにっと笑って言った。


「まあ、色々あるがな。お前たちみたいに工房に声をかけなければ、まっすぐここに案内するんだ。そうすれば職人の目に触れないから、面接に来たことを知られなくて済むだろう。全員を採用するわけじゃないからな。それに採用しなくても、募集の度に面談に来るのもいるんだ。そいつらが憐みの目で見られたらさすがにかわいそうだからな。あとは……職人として採用されてからこの部屋に入る機会はほとんどない。作っているだけの職人が商談に参加することはないからな。つまり、記念だ。面談で実際にこの部屋を使って、見習いになって案内されて、まぁ、こんな豪華な部屋もあんだなって話になるだけだ」


確かにお茶出しもしない、商談にも参加しないのなら、この先使う機会はなさそうである。

僕は納得してうなずいた。




「で、ここが倉庫だな。主に材料が置いてある」


そこには、僕が家を直すのに使いたいと考えていた木材、柱になりそうな太い木、均一な厚みで平らに加工された板などが置かれていた。

思わず僕が目を輝かせていると、親方は声をあげて笑う。


「材料見てそんなに嬉しそうな顔をされるとなぁ。まぁ、お前もそのうちこれを使ったものを作るようになれば分かるが……。たぶん見るのも嫌になるだろうな」


確かに締め切りやノルマに追われるような仕事をするようになれば、材料や道具を見るのも嫌になる、それは分かる。

けれども、それ以上に僕は、この世界にもこれだけの技術があり、材料があったということが嬉しかった。

布や糸、ロープのような生活必需品ですらかうのに苦労する値段だ。

ここにあるものはさぞかしお高いのだろうと僕は思った。

でもいつか、ここにある材料を使って僕は家を直したい。

働けるようになって早々に僕は新たな夢を持った。




この工房は入口の左脇の店舗、入口正面の作業場、入口から入って正面が作業場、左側には商談室、右側には倉庫、作業場の裏の建物が住み込みの人たちの住居という構造ということだ。

住居に関しては通いである僕には関係ないし、職人のプライベートな場所ということもあって、遠巻きに見るだけで終わった。

そうして僕が親方に敷地を案内されている間に、出勤予定の職人が揃ったようである。

僕は再び作業場に連れていかれて、職人たちに見習いとして紹介された。

紹介が終わったらいよいよ仕事かと思っていたが、紹介された後の僕は作業場に用意された椅子に座らされた。

そして親方が指示を出したり、職人が作業をしたりしているのをじっと見ているしかできない。

しばらくして指示を終えた親方が僕のところに戻ってきたので、僕は親方に声をかけた。


「あの、僕は何をすればいいのでしょうか?」


座ったまま親方を見上げて僕が聞くと、親方は僕を見下ろして言った。


「とりあえずこの雰囲気を知ることからだ。皆ピリピリしてんだろ。細かい作業中に声を掛けられたら邪魔に思われるし、それでも聞かなきゃ仕事が進まねぇこともある。作業してんのが職人で、動き回ってんのが見習いだ」

「じゃあ、僕は動き回って色んなものを用意している見習いさんの仕事を覚えないといけないんですね」


今の僕は見習いである。

だから立場をわきまえたつもりだったが親方はそれを不思議に思ったらしい。


「まあ、その前にやってもらうことはあるけどな。それが終わったらあれだ。しかし、面接の時にも思ったが随分と物分かりがいいんだな」


そう突っ込まれた僕はそうですかと言いながら苦笑いをするしかなかった。

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