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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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見習い採用

「ところで、お前たちの周辺で布団や洗濯物を乾かすのにいいものってのが流行ってるみたいだが、あれはどういうものなんだ?」


ミニチュアとナイフを見て僕を評価したはずの親方が次に口にしたのは、僕が作った簾のことだった。


「簾のことですか?」


僕が思わず聞き返すと、親方は困惑したように言った。


「いや、名前は知らんが……」

「あれは本当は窓の日よけとか、ちょっとした目隠しみたいな使い方をするもので、窓の上の方につるして下ろせば日よけになるけど、隙間があるので風は通るから、夏の暑い日差しを避けるのに使ったりするものですけど……」

「はぁ?そうなのか?」


名前も知らないのだから正しい使い方を知らないのは当然だが、知っている使い方と本来の使い方があまりにも結び付かなかったのだろう。

親方の目が点になっている。

僕はとりあえず、親方に簾の作り方と使い方を簡単に説明することにした。

作ったことのない子どもにも根性があれば作れるものだから、作り方を教えて、根性のあるものは自分たちで完成させていることも伝える。

親方は僕の説明だけで簾の特性や本来の形状、使い方も理解してくれた。


「なるほどなぁ……。そんなもんがあったのか。それはそれで便利だな。それでだ。そのスダレというのを広めたのはお前で間違いないな」

「たぶん……」


もともと別の世界には存在していたものだ。

僕が一から考えたものではないし、もしかしたらこの世界のもっと広いところではすでに使われているかもしれない。

けれども確かに、この周辺で簾の存在を広め、結果違う使い方が重宝されるようになってしまったのは僕が原因である。



「俺たちゃあ、どうしても大物のことばっか考えるようになっちまってな。お前も家とか作るようになったら分かるかもしれねぇが、俺も元は便利な暮らしを実現するために職人になったはずなんだよな。あの洗濯を干すやつの話を聞いて、それを思い出したとこだったんだ。しかしなあ、それを自分のアイデアだってやつが、そこいら中の職人のとこに現れていてな、あまりにも多いから、職人みんなで調べることになったんだが、まさか作った本人がそれを売り込まないとは思わなかったがな」


親方がどこで知ったかはわからないが、本来、簾であるものは洗濯を干すのに便利なものとして、街でも噂になっていたらしい。

ところが僕が作り方を広めたことで、自分がこんな便利なものが作れるのだと簾をアピールする人が出たらしい。

珍しいものだったので最初は面白いと思った親方たちだったが、その後も同じような売り込みに来る人間がいた。

あまりにも簾をアピールする人間が増えたため、親方同士でそういう人材がいると話をした結果、どこの工房にも同じような人が来ていることが分かった。

親方たちはその時点で誰が本当にこの簾を考えたのかを密かに調査することにしたのだそうだ。

そして実は大元が僕であるという結果も出ていた。

だから父親が親方に息子が見習いをしたいと話をした際、快く受け入れたのだという。

それならば、就職活動にと作った作品は必要なかったのではないかと思ったりもしたが、知っていたのが偶然の可能性もあるし、この作品があるからこそ、僕は自分に自信を持って発言ができたのだと思い直した。



「本当は家の雨漏り対策をしたくて作ったもので、ついでにこうしたら布に風が当たって乾きが早くなるから、雨漏りで濡れた布団をそのまま乾かすのに使ってみたのですが、それが気に入ったらしくて、気が付いたら晴れた日に毎回そう使われるようになっただけで……」


簾が洗濯物を乾かすものとして認識されるようになった経緯を説明すると、やはり親方は唖然としていた。


「じゃあ、お前からすればあれは失敗作の使い回しなのか?」

「……雨の日は違う使い方をしていますけど、それも本来の使い方ではないので、失敗作と言えば失敗作ですね」


家が傷みすぎていて簾では全ての雨風は防げないし、天井に重ねておきたいけど天井が落ちそうだし、だからテントのようなものとして雨風を防いで、その時使った布をそのまま干したら、汚れることもなくよく乾いただけだ。

父親もいるのに家の恥をさらしてしまって申し訳ないが、貧乏とはそういうものであり、そんな中でも僕たちは少しでも快適な生活が送れるよう工夫しなければならないのだと話を締めくくると、親方は機嫌よく笑いだした。


「はっはっはっ!そりゃあおもしろい!気に入った。うちに来な!やりたい事があるなら応援してやる!この工房に面白いアイデアで、新しい風を吹き込んでくれそうだしな」

「あ、ありがとうございます!」


僕は勢いでそう言ったが父親は話に付いていけてないようでポカンとしたままである。

親方はそんな父親に目もくれず話を続けた。


「それに、作品持って見せに来る根性も嫌いじゃない。お前の言う通り口が上手いだけのやつも多いのは確かだが、職人は口より技術ってことをわかっている証拠だ。それに、それ見りゃあ、今どのくらいのことができるのか解る。そういう心意気が今の若いやつには足りねぇと俺は思うわけさ。ちなみにさっきの変なやつってのは、まあ、さっき言った人の作ったやつをまねて売り込んでるようなやつだ。あいつらはこの工房でも戯言を言うやつの面談をするのかって思ってたみたいだが、まあ、さっきの一言で色々吹っ飛んだだろうし、呼んだのはこれを考えた本物のお前だけだからな。文句は言わせん」

「で、では」


ようやく話を理解して我に返った父親が目を輝かせて言うと、親方はそんな父親に、にっと笑顔を向けてから続けた。


「おう!見習いに来な!いつから来られるんだい?」

「いつからでも」


僕に優先すべき用事があるわけではない。

むしろ仕事をしていない毎日は暇つぶしでしかないのだ。

お金がもらえるのなら、一日でも早く働きたい。


「そうか。まあ、通いだしな。明日から来りゃいい。最初はどうせ雑用からだしな。休みたけりゃ言ってくれりゃあ、休ませてやれるしな」

「はい、頑張ります!」


僕が親方をまっすぐ見て返事をすると、親方は笑顔でうなずいてから父の方を見た。


「しかし、あんたんとこは、出来のいい息子でよかったなあ」

「あ、ありがとうございます」


やっぱり緊張しているのか、父親は声をかけられるたびにびくついている。


「ま、採集日はそっちに人手が必要だろ。そこは最初から休みにしといてやるよ」


親方がそう言うと、父親は助かりますと言って頭を下げる。

どうやら僕は採集日以外の予定の休みだけ申告すればいいらしい。

けれど、てっきり職人は森の採集日とは無縁だと思っていた僕は、気になって質問した。


「親方、採集日のこと知ってるんですか?」


職人はものを作ってお金を稼いでいるし、職人が一緒に採集日に参加しているのは見たことがない。

それにお金があるのなら欲しい時に必要なものを市場で買うという生活をしているはずだから、貧困層が狩りをしている日など知らないだろうと思っていたのである。


「そりゃなぁ、採集日は肉が安くなるから、安い日にたくさん肉を食べためておくのよ!」


どうやら採集日はより多く肉が取れることが多いため、市場の価格が下がるらしい。

何だかんだでお肉は高級品なので、安い時にたくさん食べておくというのが基本ということだ。


「じゃあ、親方の分も頑張らないといけないね、父さん」

「そ、そうだな……」


僕がそう言うと、父親は困惑したように言った。

子供がついて行くと獣に追いかけられやすい、そこに罠を張っているのだから基本的にはいつもよりたくさんの獣を捕獲できる。

けれども、そこに必ず獣がたくさんいるとは限らないし、毎回必ずたくさん取れるとは限らないこともよく分かっているのだ。

それは頑張ってもどうしようもない。

父は子供の休みをもらったのに収穫量が下がった時のことを考えてしまったのだろう。

親方はあまりそのあたりは気にならなかったようで、僕との話を続けた。


「じゃあ、明日から頼むな」

「よろしくお願いします!」


こうして僕はその日のうちに職を手にすることが決まった。

明日から始まる見習いとしての仕事、最初は雑用と言っていたが、それで充分だ。

まさか人と関わるのが苦手な僕が、働けるようになることをこんなに嬉しく思う日が来るとは思わなかったが、それはここで生きてきたことでの心境の変化、成長の結果かもしれない。

仕事は明日からということで話がまとまったので、その日は父親と一緒にそのまま帰ったのだった。

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