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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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面接と自己アピール

「で、本来なら志望動機を聞くところなんだが……」


親方はそこまで言うと、にっと口の端を上げた。


「さっき入口で言ってるのを聞いてたから、省略でいいか」


面接はこんな雑談のような雰囲気で始まった。

志望動機は僕が入口で声をかけた際に言った、職人に憧れていたから、ということだけになってしまったが、それが好印象ならそのままにした方がいいだろう。

聞かれていないのならシビアな話をする必要はない。

ついつい大人びたことをしてしまいがちだが、僕はまだ子供なのだ。


「ちょっと遅れちまって申し訳なかったな。工房に声かけちまって気まずいだろうから、早々に声をかけるつもりだったんだが、自分がなりたくて来たって堂々とあいつらに言ってんだから。肝が据わってんだな」


親方が手を伸ばして僕の頭をポンポンと撫でたので、僕は親方を見上げた。

あまりがっつり顔を見続けるのは良くないとどこかの世界の面接マナーで聞いた気がするが、もしかしたら気にする必要はないかもしれない。



親方の話によると、給料の高い職人という職業について欲しいと考えている親が、無理やり子供を連れてくることが多いのだろう。

そしてここに残っているのは本当に職人になることを選んだ人たちで、父親の緊張ぶりから僕もそういう一人だと見られたようだ。

だから最初に父親が作業をしている職人に声をかけた時、冷たい視線が向けられたんじゃないかと言われ、僕は父親と顔を見合わせた。


「すみません、軽率でした……」


自分が迂闊に声をかけたから、彼らの機嫌を損ねたと感じた父親はすぐに頭を下げる。


「まあ、しょうがねぇよ。職人の中でも子供のうちにここに来たやつは当然親同伴だったし、ここいらで働いてるやつらのほとんどが親の推薦を携えてくるんだからな。ありゃあ通過儀礼みたいなもんだ。まぁ、そこであんたんとこの子は、職人は憧れだなんて言ったんだ。聞いてたやつらは見てないところでさぞ張り切ってるに違いねぇ」


口を開けて楽しそうに笑っている親方は、それはそれで迫力がある。

そんな親方に、父親はさらに恐縮、いや、委縮してしまっていた。



僕はここで勇気を出して自分の作品を見てもらいたいと言った。

今日は何度も勇気ある発言をしている。

自分で自分を褒めても許されるだろうと、僕自身は考えていた。

しかしその言葉に驚いたのは父である。


「親方に自分の作ったものって、まだ働くことも、弟子入りも許されたわけじゃないんだぞ?……あの、親方、申し訳ありません。うちの息子が訳のわからないことを……」


ちょっと褒められたことで気が大きくなっているかもしれないが、それはだめだと、父親はまた頭を下げた。

どこかの世界とは違う面接マナーというのは存在しているらしい。

僕がどう弁明しようか悩んでいると、親方は僕に尋ねた。


「なぁ、何で自分の作品を見て欲しいなんて思った?」


嘘をついても仕方がない。


「あの、僕は口が上手じゃないので、自分を売り込むことができないから……。今このくらいのことができますっていうのを見てもらって、それでだめなら諦められるかなって思って作ったんです」


僕が素直に答えると、親方は思うところがあったのだろう、少し黙って何かを考えてから、僕に言った。


「……。そうだなあ。せっかくだ、見せてみな!」

「はい!」


親方が許可を出してくれたので、僕はミニチュアの果物を取り出すと親方に手渡した。


「これは、リンゴか?」

「はい」

「他にもあるのか?」

「一応……」

「まどろっこしいのは嫌いだ、持ってきてるの全部出しな」

「はい」


僕はツルで作った手のひらサイズの小さい籠を最初に出してテーブルに置くと、そこに親方に渡した以外のパンや果物のミニチュアを入れた。

出し終わるまでの間、親方は手渡された小さなリンゴを見ていたが、僕が出し終わったのを見ると、一つ一つ丁寧に作品を見てくれた。

僕はそんな親方の誠意ある対応に満足した。

真剣に僕の能力や作品と向き合って評価をしてくれるなら、それが悪いものであっても受け入れられる。

もし今回ダメでも、僕はこの親方がまた見習いを募集したら受けたいとそこまで考えた。



「どれも荒削りだが、まあ、悪くはねぇな。ちなみにこれは何で作ったんだ?」

「えっと、森に言った時に拾った太めの木を削って……」


僕は材料を森で探して作ったことを説明した。

森の木を勝手にきることは許されないというので、落ちているものを拾わなければならず、折れて落ちるような枝では、削って形の残る太いものはなかなか手に入らないし、大きいものは作れない。

そもそも大きいものはここまで運ぶのも大変だ。

そんなことまで話をしたが、どうも論点がずれていたらしい。


「そうじゃねぇよ。木でできてるのなんか見りゃわかる。手触りで木の種類だって想像がつく。これを削った道具は何を使ったのかって聞いてんだ」


僕の説明が途切れたところで、親方が切り出した。

子供が頑張って説明しているからと聞いてくれていたようだ。

大柄の強面なので、声は大きいが怒鳴らずにいてくれたのがありがたい。


「あ、えっと……」


僕は親方に言われて慌ててカバンを探った。

どこに行くにも使うものなので、作業に浸かったナイフもどきは常にカバンの中に入っているのだ。


「これです」


僕は加工に使ったナイフを机の上に置いた。


「それは……なんだ?」


ミニチュアを出した上に、ミニチュアの槍のようなものを出された親方は、僕の出したナイフを目を凝らして見ている。

壊れそうだと思ったのか、触りもしない。


「これは父さんが獲物をしとめたときに割れてしまった鏃の先をもらって、使いやすいように加工したものです。高い刃物は買うことができないので、狩りにはもう使えないって言ってたものを譲ってもらったんです。森に行くメンバーは似たようなものを何かしら持っています。それを自分用の刃物として持ち歩いて、植物の葉や実、ツタを切ったりするんですけど、持ってきた作品はそれを使って作りました。刃物はそうしたものしかもっていないので……」


僕の説明を聞いてから、親方は静かにナイフを手に取った。

そして見ているのは刃の部分だ。

柄の部分を持ってゆっくり回してじっくりと観察しているのがわかる。


「折れた鏃には見えないが……研いだのか?」

「はい。川へ行って、そこの石を使って研いでから、柄を作って、ツタで縛って結びました」

「なるほどな」


親方はそれだけ言って、僕にナイフを返してくれた。

そして改めて作品を手にとってじっと見ながら感心したようにつぶやいた。


「あの道具でこれだけのもんを作ったのか……」


僕はこの言葉の意味を理解して少し舞い上がりそうになったが、どうにか押さえた。

お世辞にもいい道具を使っていない、粗末な道具を使ってここまでのものを作ったと評価されたことが嬉しかった。

隣に座っている父親は不安そうな表情のままなので、おそらくその言葉の意味を理解できていないのだろうと僕は思った。

ここは父親に合わせておとなしくしようと、僕は複雑な表情になりながら親方の次の言葉を待つのだった。

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