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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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職人への一歩

初めて選挙というものに出かけてほどなく、仕事を終えた父親が家に飛び込んできた。


「決まったぞ!」

「何が?」


僕が意味も分からず呆けていると、父は僕の肩を掴んでゆさゆさと揺さぶった。


「面接だ!親方の一人がお前と面接してもいいって言ってくれたんだ!」


前後に揺さぶられながら話を聞いていたが、面接をしてくれる親方というのが現れたらしい。

確かにそれは興奮したくなる気持ちも分かる。

僕は揺さぶられて頭がぐらぐらし、ふらついているのをこらえながら、父の方を見た。


「父さん、すごい!」

「おお、そうだろう?」


ようやく興奮が収まってきたのか僕の肩から父の手が離れた。


「じゃあ後は僕が頑張らないといけないね」

「ああ。俺も面接には同伴するけど、働き始めたらお前一人で通わせなきゃならないからな。頑張ってもらうぞ」

「……うん」


親が探して、獲得してきた面接なのだからもしかしたらとは思ったが、この就職面接は親が同伴するらしい。

良く考えたら僕はまだ子供だし、保護者がつくのは当然なのだろうけど、ここでは小学校高学年くらいの年齢の子供はすでに大人と同じように働き始めている。

市場の店で働いている子供を見ていても、家のお手伝いでお小遣いを稼いでいるというよりは、すでに戦力として働いているように見える。

だから面接も一人で行くと思っていたのだが、どうやら違うようだ。

僕の返事が遅れると、父は気合が足りないとでも思ったのか、近距離なのに大きめの声で話を続けた。


「ちなみに面接は明日の昼だ。午前中、森で少し仕事をしなきゃいけないから朝はいないけど、帰ってきたらすぐに行けるように準備しとけ。忘れて遊びに行ってるんじゃないぞ!」

「わかった!」


とりあえず父親のテンションに合わせて元気な返事を返すと、ようやく納得したのか父は椅子に腰をかけた。

おそらく明日は僕より父親の方が緊張するんだろうなと、ようやく座った父親の方を見て考えていると、母親に声をかけられた。


「そろそろ座ったら?」

「うん……」


おそらく母親は僕が呆気にとられて立ちつくしていると思ったのだろう。

まさか面接を受ける僕が親の心配をしているなんて想像すらしていない様子だ。

僕は父親から少し離れて椅子に座って、再び面接について考え始めた。

以前の僕なら知らない人と顔を合わせるのは無理だと怯えていたに違いない。

だが、同伴者に興奮状態の人がいる。

その勢いに気圧されたのか、僕は驚くほど冷静なのだった。



母親に聞いたところによると、見習いになるのが子供の場合、親方との面接は親同伴になることが多いという。

そのため、基本的には親のアピール力で決まることが多いと言われているし、コネがなければ面接すらしてもらえないというが、僕はそうは思わない。

自分が面接する側ならば、本人の能力を重視するし、本人が希望しない、親にゴリ押しされた職場に決まったとしても、見習いから上がることなどできないだろう。

結局最後は自分なのだ。

仕事に親のコネが絡むなんて、子供も雇い主も可哀想だとすら思える。

しかし今回の面接は僕の希望を聞いて、父が頑張ってくれたものだ。

だから僕は、僕にできる最大限のアピールをしようと決めていた。

前世の就職活動もこのくらいの意気込みがあればよかったのかなと、少し感傷に浸りながら、前もって自作していた小さな作品をこっそりとカバンにしまい、面接の準備をするのだった。



翌日、仕事から戻った父親は、やはり気合が入っていた。

それだけではない。

おそらくかなり緊張している。

僕は珍しく口数の少ない父親に連れられて、面接の会場に向かうことになった。

はぐれないようにと言われて手を繋いで歩いているが、職人街が近付くにつれて表情は硬くなり、手が震えてきているのが分かる。

そういえば職人は気難しい人が多いと聞いた気がする。

買い物をする時もやたら低姿勢だった。

もしかしたら会うのが怖いと感じているのかもしれない。


「着いたな。ここだ」


職人街の一角にある工房の前で足を止めると父親はそうつぶやいた。


「大丈夫か?」


そう言って父親は僕を不安そうに見下ろす。


「大丈夫」


僕はそんな父を見上げて言った。

自分より緊張している人がいるおかげで、僕はあまり緊張も不安も感じず冷静だ。

そういう意味では父親が同伴してくれてよかったのかもしれない、むしろ僕は過去の就職面接よりも実力が発揮できるのではないかと思った。



「あ、あの、本日面接していただけると伺ってまいりました……」


二人で人の見えるところまで入って行き、作業中の人が目に入ったところで父親が声をかけた。

誰にというわけではなく、気付いてくれた人と話を進めようという感じだ。

父の声が聞こえたのか、中にいた職人が僕たちの方を一斉に見た。

さすがに大勢の注目を浴びると、そういうものが苦手の僕は恐怖を感じる。

だが、それよりも繋いだ手に伝わってくるくらい震え、その震えを必死に押さえて頑張っている人が横にいるので、僕が頑張らないといけないと思った。

幸い僕は子供だ。

元気っぽく見えれば何とかなるはず。

それに前に職人街に来た時、外から作品を見ていても邪険には扱われなかった。

寡黙だったり、迫力があったり、人当たりがよくなかったりするが、根は作品を愛する心を持つ人のはずだ。

注目を浴びているところで声を出すのは苦手だが、僕は勇気を振り絞り、笑顔を作る努力をしながら言った。


「僕、父の買い物について職人街に来た時からずっと憧れてて、そしたら今日、面接してもらえることになったって聞いて、それできました。どうしたらいいですか?」


子供の僕が職人を憧れと言ったからだろうか、冷たかった視線が急に和らいだ。

そして同時に後ろから声がかかった。


「ああ、待たせちまったか。悪かったな」


驚いた僕たちが振り返ると、そこには少し大柄で強面の男が立っていた。

父はすぐにその姿を見て慌てて挨拶を始める。


「いいえ、そんなことは……。本日はお忙しい面接のお時間をいただきまして……」

「まあ、こんなところじゃなんだ。話はあっちでしよう。ついてきな」


男は父の話を遮ると、自分についてくるように促した。

僕が父親を黙って見上げていると、父はうなずいてから僕の手を引いて歩き始めた。



「いや、悪かったな。最近ちょっと変なのが訪ねて来るんで、皆警戒してんだ」


案内された部屋で座るように促された僕たちは、言われるがまま椅子に座った。

作業場が雑然としていたのでこんなきれいな部屋があるのかと驚いて僕があたりを見回していると、男が先にそれに気がついた。


「さっきからきょろきょろしてんなぁ。何か気になることも出もあんのか?」


男の言葉に、父親が僕を一度見てから頭を下げた。


「親方、申し訳ありません……」

「いや、いいんだけどなぁ。……気になることがあるなら言ってみな」


父親の言葉を軽く流して、目の前にいる親方と呼ばれた男は僕に話しかけてきた。


「お仕事をしているところと違って、すごくきれいな部屋だなって思ったので……」

「こら、やめなさい……」


僕が子供らしく本音を話すと、焦った父親が小声で止めた。


「ここは商談に使う部屋だからな。この工房で一番きれいにしている部屋だ。それ以外は……まぁ、さっきいた作業場みたいな感じだな」


親方はどうやら僕たちを客人として扱ってくれているらしい。

確かに採用しなければ客になる可能性はある。

僕たちが貧困層だと知っているようだから、上客になることは期待されていないだろうが、それでも必要なものは買いに来ることがある。

もし、僕たちがここで邪険な扱いをされれば、そういう噂は広がりやすい。

上客ではないとはいえ、噂によって来客数が減れば、それなりの損害が出るはずだ。

彼らの扱う商品は、貧困層の我々にも容赦ない高値なのである。

親方はもしかしたらそこまで考えているのかもしれないと僕は深読みしながら話を聞いていた。

そして落ち着いたところで、いよいよ本格的な面接が始まるのだった。

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