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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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はじめての選挙

僕は無事に採集日に材料を手に入れるという目的を果たしたため、自分のスペースに引きこもり、両親に知られないようこそこそとミニチュア作りに励んでいた。

そんな感じで僕が就職活動のための準備を進めていると、父親が僕に言った。


「そう言えば、前に選挙に興味があるって言っていただろう。今度選挙があるんだ。投票することはできないが、会場に一緒に行ってみるか?」

「いいの?」

「ああ。選挙権をもらっていきなり会場に行くより、一度一緒に行ってどういうものかを知っておくのもいいんじゃないかと思うんだが、どうだ?」

「うん!行ってみたい!」


投票はできないが会場には親同伴なら入ることができるらしい。

この世界の選挙というものに僕は興味があった。

もっというなら、あの家を空から下ろす領主という存在をどう決めているのかが気になっているというのが正しいかもしれない。

皆がどんな領主を選ぶのか、どんな人が候補になっているのか、投票と言っているがここの選挙システムは良く分からない。

ただ、両親の元には僕の知らない間に投票用紙が届いていたので、投票用紙を使って投票するのだろうとは思っている。


「そう言うと思ったよ。わりと子供を連れてくる親は多いから、そんなに心配することはない。置かれているものを壊さないようにだけは気をつけてくれ」

「うん。わかった」


選挙会場で壊れるのもという表現は良く分からないが、別に選挙会場で暴れたりする人はいないだろう。

もしかしたらいるかもしれないが、前の世界の選挙会場なんて、投票用紙に名前を書いて入れるだけだし、箱や記入台くらいしかなかった気がする。

前世であまり選挙に行った記憶はないが、投票箱は鉄の塊みたいな作りで頑丈そうだったし、記入台は簡素なものだけど、子供がぶつかったくらいでは壊れなそうだった。

もしかしたら、この世界ではそういう頑丈なものが準備できないのかもしれない。

それに文字を書ける人が少ない世界だ。

もしかしたら持っている投票用紙をそのまま候補者の名前なり似顔絵の貼られているところに入れるのかもしれない。

僕はそんなことを考えていた。

すると父が続けて言った。


「それにこれから職人を目指すならどんなものか見ておいた方がいいだろう。どんな職人がいるのか知るいい機会だしな」

「今回はどんな人が立候補しているの?」

「候補者全員は知らないが、何人かの職人とか、見習いも立候補したのがいるらしいが、詳しくは知らないな」


選挙があるなんて言われなければ僕にはわからなかった。

どこかの世界では選挙をするとなると候補者が人の多いところに旗を立てて、大きな声で演説をして自分の宣伝をしていた。

投票にあまり行かない人間からすれば朝から晩まででかい音を書きならされて迷惑以外の何物でもなかったが、それがあったから選挙が近いと知ることができた。

しかしここでは誰かが宣伝しているのを見たことがない。


「領主になりたいから立候補しているのに、みんな宣伝とかしないの?」


僕は素朴な疑問を父親にぶつけた。


「まあ、身内には立候補したことは教えていると思うぞ。領主になったら少なくとも一年、仕事ができなくなるんだ」

「そっか」

「それに、選挙当日までどんなものがあるかわからないからな。そこにあるものをよく見て決めるだけだから、前もって宣伝されたところで、どうにもならないさ」

「……なんかよくわかんないや」


選挙なのに、前もって宣伝することに意味がないという。

とても僕の理解が及ばない。

たぶんどこかの知識が邪魔をしているのだろう。


「そうだろうな。それなら尚更、見ておいたほうがいい。今後、職人と面談になったら聞かれるかもしれないし、仕事をするようになればお前も選ぶ側、もしかしたら選ばれる側に回ることになるんだからな」


どうやら選挙を知っているか、知らないかは、就職にも大きく影響するらしい。

僕自身、領主というものに興味があるし、就職活動の事前リサーチにもなるというなら、一石二鳥。


「わかった。しっかり見るよ」


とりあえずまずはこの世界の領主選挙というものを知って、就職活動の役に立てるのが第一歩だと僕はとりあえず子供らしく元気に返事をするのだった。



選挙当日。

僕は朝食後、父親に連れられて選挙会場に行った。

母親は家を開けられないからと僕たちが家に戻ってから投票に行くという。

朝早い時間にもかかわらず、選挙会場の前にはすでに列ができていた。

新築の家の内覧会と同じように、入場制限がかかっているらしい。

新しい家が下りてくる時と違うのは、人が多いのに食べ物の屋台のような者が見当たらないことだ。

そのあたりは商売人も一応選挙だということをわきまえているということなのかもしれない。

ようやく順番が回ってきて、僕は父親と一緒に選挙会場に入った。

そこには候補者たちの作った模型が台に並べられており、台の前には上部に穴の開いた箱が置いてあった。

僕はこれを見て食べ物を売りに来ない理由を理解した。

この選挙は領主を決めるものだ。

この模型だけを比較して領主を決めるのだから、模型に何かあっては一大事である。

食べ物を会場に持ち込んでこの模型を汚したり壊したりしようものなら選挙そのものが成り立たない。



展示品として並べられた模型に名前は書かれていない。

公平な審査をするため、組織票で選ばれないようにするため、非公開で投票を行うということである。

確かにこれでは事前の選挙活動など無意味だし、もし仮に完成品を見せて回って宣伝すれば、相手はそれ以上の物を作ってくるに違いない。

敵に手の内を明かすことになるのだから、候補者たちがぎりぎりまで表に出さないようにするというのも納得できる。

完全に実力勝負になっているのは面白い。

確かにこれなら職人から領主に選ばれる人が多いというのは納得だ。

この技術が必要ならば、これから先、面接先の中には領主として立候補を経験している職人もいるはずである。

知っていれば受け答えできることが増えるかもしれないし、確かにここに並んでいる模型についてきちんと話ができていると思われれば、印象はいいかもしれない。

面接で作品を見る目があるかどうか、というのが問われるかもしれないということだ。

全ての作品をしっかりと見て僕なりに評価をし、それを頭に叩き込んでおこうと気合を入れた。



僕は選挙の説明を受けながら、幼い頃、初めて外に出た時に言われたことを思い出した。

あの時、父はこう言ったのだ。


「よく見て、よく考えて、しっかりしている“もの”を選ぶんだぞ?」


そう、父の指すしっかりしている“もの”というのは、人物ではなく建物のことだったのだ。

選挙会場に並べられた模型の数々に呆気に取られながら、僕はそのひとつひとつを真剣に見て、その中で一番作りの優れていると思うものを選んでみた。

残念ながら今回は投票権がないので投票できないが、もし一年後、僕の仕事先が決まっていたら、次は僕も一票入れられるのだと思うと、なんだか次回の選挙がとても待ち遠しく感じられた。

この投票のために仕事を決めたいと思ったが、それは心の中に押しとどめておくことにした。

一応ここでの僕はすごくいい子で、親孝行な息子なのだ。



僕はしばらく模型に夢中になっていたが、我に返って、横に立っている父を見上げた。

父親も模型を見ながら楽しそうにしているが、僕はその手に投票用紙がないことに気がついた。

父親は僕が模型に夢中になっている間に投票先を決めていたらしく、投票箱に自分の投票用紙を入れたという。

けれども僕があまりにも真剣に模型を見ているので、声を掛けられなかったと言われた。

僕は見るのも好きだし、何より今後の就職活動で何か聞かれるかもしれないと言われていたのだから真剣にもなる。

もしかしたらこの人は、自分の言ったことを忘れているのではないかと、僕は父親を見上げたまま首を傾げて、その疑問を悟られないようにするのだった。


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