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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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新築住居の秘密

「外に行きたいなんて、退屈だったか?」


外に出てすぐ、男は僕にそう話しかけた。

話を聞いてみると、どうやら内覧会では親に付き合わされた子供が、長く見ている大人を待ちくたびれて遊びまわることがあるらしい。

新築物件に傷がついては困るので、職人は不審な行動をとっている人がいないかチェックしたり、子供がいたずらをしたりしないかどうかを見張っていたところ、僕が暇そうにしていたので声をかけたというわけだ。

僕の発言は優等生が勝手にほっつき歩くのではなく、きちんと親に許可を取って時間つぶしをしようとしているとみなされたようだ。

基本的に中しか興味がない見学者が多い中、僕は外を見たいと言った。

男はそこにも興味を持ったという。

外で遊びたいとか、帰りたいというのではなく、外を見たいという僕を一人にはできない。

基本的に案内している人も中に集中している。

だから僕が外に出て外壁にいたずらをしたりしても気がつかない可能性があったのだ。

つまりこの男はたまに内覧会で退屈している子供の遊び相手になろうとして声をかけたというわけだ。

しかし目的が違ったし、何より見たかったのは僕自身なので、男の問いかけに対して首を横に振った。


「ううん?面白かったよ」

「じゃあ、本当に何か気になったのか」


確かに家の中を見て、外側から見た印象と違う、構造がどうなっているのだろうなどと考える子供はいないだろう。

内覧しているうちにだんだんと興奮状態から覚めてきていた僕は、あまり大人びないよう少し考えてから言った。


「うん。この建物、うちとは違って天井が四角いっていうか、平らだから、どうなってるのかなって。中から見てもわからなかったから、外から見たらわかるかなって」

「ほう?」

「でも、ここからだと、屋根は見えないね」

「そりゃそうだ」


この家の庭も広いわけではない。

外に出て、歩ける外周から見られるのは外壁ばかりで、見上げても屋根はほんの一部しか見えない。

斜めに出っ張っていることくらいしかわからないのだ。

傷をつけないように壁を触ってみると、外壁も厚みがあっていい感じだし、うちの穴だらけの壁と比較してはいけないのだろうが、そこは少し羨ましく感じられた。

そんなことを発言するわけにはいかないし、屋根が気になっているのは間違いない。

僕は屋根の話題を続けることにした。

できるだけ、見たままの話を伝えるように工夫する。


「僕、父さんと高台に行って、初めて新しい家ができるとこ見たんだ。この家が空から降りてきてびっくりしたよ!でもその時、この家の屋根、四角くなかったような気がしたんだ」


一辺からしか見ていないからたまたまそう見えただけかもしれないが、傾斜のついた屋根がついていたはずだ。

ではその空間はどうなってしまったのか。

僕がそう言うと、男は感心したと声を上げた。


「よく見てんなあ。その通りだ。よく見てたご褒美に、あの家の秘密を教えてやろう」

「えっ、なあに?」


思わず必要以上に子供っぽい言い方をしてしまったが、あんな現れ方をした家だ。

どんな秘密があるのか是非聞いてみたい。

無駄に知識があると知られたら、教えてもらえなくなるかもしれないと思ったのだ。


「あの家にはな、秘密の部屋ってのがあんだよ。今は見えなくなってる入口から入れるんだ。まあ、天井の上に倉庫作ってあると思えばいい。さすがに入口の場所は秘密だけどな」


どうやら三角屋根の下は屋根裏部屋となっており、そこを倉庫にすると家主は決めているらしい。

そう聞いて僕はすごいねと少し間を置いてから言うのが精いっぱいだった。

僕の感覚からすれば珍しくないものだったからだ。

少しがっかりしたものの、この世界では画期的なのかもしれないから驚いて見せただけである。

ちなみに屋根裏部屋は内覧では公開していないのだという。

もしかしたら、僕たちが帰ったあと、使えるようにする作業があるために職人が残っているのかもしれないと思うと、内覧会で公開する方は大変なんだなと思った。

そんな話をしていたら外周巡りはあっという間に終わってしまった。


「さあ、どうだった?新しい家の周りは」

「楽しかった!連れてってくれてありがとう」


僕はきちんとお礼を言って頭を下げた。

この男がいなければ僕は父親の妄想が終わるまでただ横に立っていなければいけなかったかもしれない。

さすがに男に声をかけられた父も妄想世界から現実世界に帰ってきて、父親として男に感謝していた。


「すみません。ありがとうございました」

「……この子は子供の割に賢いやつだな!将来が楽しみだろう。じゃあな!」


男は笑いながら父にそう言って、名前も名乗らず去っていった。

しばらく頭を下げている父親に習って僕も頭を下げていたが、男がいなくなったのを確認して僕は父に尋ねた。


「父さんは満足できた?」

「あ、ああ。いつまででもいられそうだがキリがないからな。今日は一日出歩いて疲れただろう」

「ちょっとね」

「そうだよな。じゃあ帰るか」

「うん」


僕たちはこうして新築の家を出て、現実の我が家へと帰宅することにしたのだった。



帰り道で僕は父に話しかけた。


「父さん、今日は楽しかったね」

「見ておいてよかっただろう?」


自分に味方ができたことが嬉しいのか、父はとても上機嫌である。

また新築の家が建つ時は一緒に高台に行って、その後内覧会にも行こうと言われたので僕は首を縦に振った。

そして、僕はずっと疑問に思っていたことを口にした。


「そういえば、あの家はどこから来たの?」

「どこからってどういう意味だ?」


父親からすれば当たり前すぎて何を聞かれているのか分からないらしい。

眉間にしわを寄せている。


「だって、あんなに大きいものが空から降りてきたんだよ?誰がどうやって作ったり下ろしたりしてるのかなって……」


細かい構造は分からないが、外から見ても特に変わったところはなかった。

外側から見ても内側を見ても、いたって普通の家である。

天井を支えているのが外壁と中心の壁だけというのは、前世の頑丈な家を知っている自分からすれば心許ないが、今のところ、この世界では大雨などの嵐にはあっても、地震や火山などの自然災害には見舞われた記憶はない。

そういうものが少ない地域だから、費用などを考慮すればこのくらいがちょうどいいということかもしれない。

もしかしたら相当家が軽いとか、壁が薄いとか色々あるのかと思ったが、そういうこともなかったし、僕が壁を触ったり押したりしてもびくともしなかった。

不思議そうにしている僕に、父は言った。


「そうか、教えたことなかったな。作ってるのは職人で、設置しているのは領主様だぞ。家の持ち主が職人を選んでどういう家にしたいか伝えて、何度も話し合いをする。最後に職人が作ったものを領主様が問題がないか確認して設置をするってことらしい」

「らしい?」


最後に答えをぼかされた僕が不思議そうにしていると、父は苦笑いを浮かべた。


「いや、実際に建て替えたことはないからな。その……職人とのやり取りとか、領主様が設置する話とか、人づてに聞いただけなんだ」

「そっか。いつかうちも新しい家に建て替えられたらいいね。その時は父さんと一緒に職人さんのところに行けたらいいな」


僕は叶うことのなさそうな夢を父に告げてこの話を終えることにした。

内覧会を見て自分もいつかと夢を持つ父だ。

このくらい期待をかけてもいいだろう。

僕たちはその後も新しい家の話をたくさんしながら、家に帰るのだった。

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